第13話共和国の軍師
風を切り裂く銃剣突撃をひらりと俺はかわした。がら空きになった軍人の背中に強烈なエルボーを食らわす。軍人はぐへっと悲鳴と息を吐き出し、地面に倒れた。
パンっという乾いた音がし、銃弾が耳元をかすめた。
ふう、危ない危ない。
射手の技量が足りなかったのが幸いした。
地面を蹴り、ライフルを向ける軍人に肉薄した。
軍人はあまりのスピードで駆け寄る俺に対処しきれないようだ。
次弾を装填しようとして、弾丸を取り落としていた。
悪いな。
俺はその軍人の首筋に強烈な手刀を叩きつける。
軍人は白目を向いて倒れた。
その間にエドワードこと嘘つき
力量の差は明らかで、エドワードはにこやかに微笑み、自慢の口ひげを撫でていた。
「あらかた片付けたようですな」
くるりと手元でサーベルを回転させ、芝居がかった動作で鞘におさめた。
いちいち絵になる男だ。
「そのようだ」
ぐるりと周囲を見渡し、俺は言った。
ジャケットについた土埃を手ではたいて落としていると嘘つき伯爵はレイラ姫に近づき、手の甲に口づけした。
つば広帽を胸元にあて、軽く一礼した。
「お怪我はございませんか、異世界の姫君」
「え、ええ……」
戸惑いながらレイラ姫は答えた。
「羽倉殿、ソフィア殿からの言伝てをあずかっておる。この地より南西に三十キロの地点、港町ローランにてまっているとのことである」
こほんっと咳払いして、エドワードは言った。
エドワードの話ではソフィアはこちらの世界にわたるのにエネルギーを使い果たし、この平原にまではこれなかったとのことである。
現在、エネルギーを充填中でエドワードが迎えに来たという次第であった。
となると俺たちは自力でその港街ローランとやらにたどり着かないといけない。
戦場となるであろうこの平原を抜けて、三十キロの距離を踏破しなければいけない。
問題の道筋はできたが、まだまだ難問であるのには違いない。
それに俺たちには時間がない。
明日の正午までにはF市の聖ジョージ教会にたどり着かないといけない。
まったく舌打ちしたい気分だ。
「そこのご仁、でてきたらどうかな」
俺が思案しているとエドワードが岩陰にむかって問いかけた。
「いやあ、ばれちゃいましたか」
どこかまの抜けた声がした。
のそりのそりと岩陰から背の高い男があらわれた。茶色の髪にひびの入った丸眼鏡が印象的だ。
赤いよれよれの軍服を着ている。
軍服を着ていることから軍人と思われたが、どうもその容貌は軍人らしくなかった。
俺は警戒しつつ姫さんを守るために前に立った。
エドワードもサーベルの鞘に手を当て、俺の横に立った。
「いやあ、どうもどうも。帝国に捕まったときはどうなるかと思いましたが、図らずも助かったようですね」
その間延びした口調を聞き、警戒したのがバカらしくなってきた。
「貴君は何者かね」
朗々たる低音ボイスでエドワードは問いただす。
「僕、いや小官はラー共和国軍次席参謀のパール大佐といいます」
大佐といういかつい階級とは思えない身振りと態度でその男は名乗った。
「あのう、お願いがありましたね。こいつを外してくれませんかね」
壊れた眼鏡をかけた自称参謀は俺たちに両手を差し出した。彼の両手は手錠で戒められていた。
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