第12話嘘つき伯爵
いくつもの銃口と銃剣の切っ先が俺たちの方に向けられている。
ざっと数えて十六はあるだろうか。
二個分隊といったところか。
皆揃いの黒い服を着ている。
どうやら軍服なのだろう。
「貴様ら、何用でここにいる」
男たちの一人がライフルを俺たちに向けたまま、一歩前進し、そうきいた。
その男だけ襟元が銀色に染められている。
どうやらこの集団の指揮官のようだ。
俺は両手を上げ、その男の顔を見た。男は真剣な眼差しでこちらを見ていた。このポーズがこの世界での戦う意思がない証明になればいいのだが。
「俺たちは旅行者なんですが、ちょっと道に迷いましてね。怪しいものじゃありませんよ」
できるだけ物腰低く、俺は言った。
正直戦う気はあまりない。
どうにか切り抜けて、もとの世界にもどらなくてはいけない。
「貴様ら、所属と姓名を言え」
男はまだ銃口を向けたまま、そのように聞いた。
銃口の向こうからは明確な敵意を感じる。
「所属ってのはまあ、ないんだけど、強いて言うならタクシードライバーさ。名前は羽倉剣太郎。こっちの女性は俺の乗客だ」
そう言うと軍人はいぶかしげな表情で俺たちを見た。
「言っている意味がよくわからん。この周辺は住民の退去命令がすでに出されている。やはり、貴様らも怪しい。きっと反乱軍の手の者だな。本部に連行する、大人しくついてこい」
さらに前進し、軍人は俺たちに命令する。
正直に答えたのにこの対応はいささか腹がたってくるね。
多勢に無勢ではあるが、さてどうするか。
この人数ならどうにかなるが、姫さんを守りながらなのでかなり骨が折れそうだ。
「剣太郎さん、どうしましょう……」
心配気に形のいい眉をよせ、レイラ姫は尋ねた。
「まあ、切り抜けるしかないな。ここであいつらの言う通りに捕まってやる義理もないし、なにより時間もない」
そう、俺たちには目的がある。明日までに聖ジョージ教会にたどり着き、友好条約とやらを締結しなければいけない。
さてさて、どうしたものか。
と思案を巡らせようとしたところ、突如耳が痛くなるほどの大声が周囲に鳴り響いた。
「やあやあ、我こそはエドワード・グリーンフィールドなるぞ‼️女王陛下の騎士にして、伯爵の称号をもつものなり、我が友を救うべく推参した‼️いざ、尋常に勝負‼️」
朗々たる大声を平原に鳴り響かせ、俺たちを半月形に包囲しようとしていた軍人たちの背後にその男はあらわれた。
羽根つきのつば広帽を頭に乗せ、真紅のマントをまとっている。マントと同じ色の派手な洋装はビクトリア王朝時代の貴族を連想させた。
こいつは嬉しいね。
どうやらソフィアが援軍をよこしてくれたようだ。
大声で名乗りを上げた人物は嘘つき
ソフィアが紡ぎだした七つの物語の
「き、き、貴様どこからあらわれた‼️」
驚愕を隠し切れず、リーダー格の軍人は振り向いた。他の男たちも同様だ。
そりゃそうだな。
突如、あんな派手な男が派手な名乗りを上げたのだから、狼狽もしようものだ。
狼狽している軍人たちのことなど気にもとめず、エドワードは腰間のサーベルを抜刀し、猛烈な斬撃を繰り出した。
峰打ちを首筋に受けた軍人は何が起きたかもわからずに気絶した。
ほぼ同時に俺も地面を蹴り、軍人の一人の下腹部に拳を叩きつけた。
軍人はげふっと悲鳴を上げ、倒れた。
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