第9話精神世界の戦い
偽の王子は手に持った
猛スピードで突撃し、レイラ姫を刺殺しようというのだ。
それを阻止すべく蛙人は姫の前に立ちはだかり、
ガツンという鈍く低い金属音が部屋中に鳴り響く。
二度、三度と偽王子は刺突と斬激を繰り返す。
その激しい攻撃を蛙人はなんなく長槍で防いでいく。
「ゲロロッ」
一つ大きく鳴くと蛙人こと三匹の勇者の一人フログは長槍を頭上にかまえた。
ぐるぐると風車のように回転させ、フログは長槍を偽王子の脳天めがけて叩きたけた。
長槍の重さにスピードを乗せ、偽王子の頭を叩き潰そうというのだ。
風を切り裂き、襲いかかる長槍を偽王子は逃げ切ることができなかった。
どうにか頭を粉砕されずにすんだが、左肩に深々と食い込んだ。
本来ならば赤黒い鮮血が吹き出し、床と彼の体を真紅に染め上げるはずであった。
だが、そうはならなかった。
周囲に飛び散ったのは血液ではなく、乾いた木片であった。
バラバラと床中に木くずを撒き散らし、偽王子は膝を屈した。
さらに彼は変化を続ける。
秀麗であったその容貌は醜くくずれ、顔の肉が溶けていく。
どろどろと溶けた顔の中から見えたのはのっぺりとした木面であった。
秀麗な顔は跡形もなく溶けて消えていく。
最後に残ったのはデッサン人形のような不気味な姿であった。
その気味の悪い光景を見て、レイラ姫は思わず口を手で押さえた。
体の表面が完全に溶けきり、目の前の偽王子は完全な木製のデッサン人形になってしまった。
「これが姫様をたらしこもうとしたやつの末路だね。やだねえ」
ソフィアは大げさに両手をあげ、アメリカ人のようなポーズをとった。
「一応聞いとくけど、やっちまっていいよね」
とソフィアはレイラ姫に尋ねた。
「ええ、そうしてください」
このような姿を見て、レイラの心から未練のようなものは消えてしまっていた。
そう、愛した兄はもういないのだ。
再びフログは長槍を頭上に掲げると一息に振り下ろした。
見事脳天に命中し、デッサン人形は粉々に粉砕された。
残ったのはあわれな壊れた人形だけであった。
「悔しいね」
どこからともなく魔少年ロイの声が聞こえる。
「レイラ姫、本当に良かったのかい。夢の世界ならこれから先、苦しまずにすんだかもしれないよ」
ロイは問いかける。
「どんなに苦しくても私は現実を生きていきます。兄との約束を守るために私はこんなところで生きていたいとは思いません」
レイラ姫はそう力強く宣言した。
そう、彼女にはやらなくてはいけないことがあるのだ。どんな誘惑があろうとこんな世界に留まるわけにはいかないのだ。
「わかったよ、今回は引くよ……」
その声の後、部屋から完全にロイの気配は失くなった。
そして部屋がボロボロと崩れていく。
どうやら、夢の世界が終わりを迎えようとしているのだ。
「どうやら、ここも長くはないようだ。私は元の機械にもどるよ。フログも元の物語世界にもどるよ。私たちは剣太郎と一緒に姫様を守るからそれを忘れないでね」
軽く手をふるとソフィアたちはどこへともなく消えてしまった。
かりそめの世界は崩壊し、レイラ姫は現実に戻った。
☆
目を覚まし、レイラ姫はうーんと背を伸ばした。
視界に剣太郎の姿が目に入った。
「お目覚めかい、姫さん」
と剣太郎は問いかけた。
「ええ、なんだかとても悪い、嫌な夢を見た気がします」
とレイラ姫は答えた。
「どんなに悪い夢を見ても俺たちがいるから安心しな」
と剣太郎は言った。
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