第8話七つの物語
黒髪の女性はレイラ姫に近づき、背中に手を当てる。
「あれは姫様が愛した兄さんじゃない。よくできた偽物さ」
その声を聞くとレイラのぼんやりとした意識が輪郭を取り戻し、自我を復活させた。
確かによく見ると目の前でにこやかにほほえむ人物の顔は兄によく似ているが、どこか作り物めいて見えた。
文字通りの作り笑顔にレイラは不気味さを覚えた。
「さあ、立って。距離をとるよ」
黒髪の女性が言う通りにレイラはベットから降り、兄によく似た人物から距離をとるため後ろに下がった。黒髪の女性はレイラを守るように前にたち、両手を広げる。
「あ、あなたは……」
突如あらわれた黒髪の女性にレイラは尋ねた。
明らかに敵ではないのは確かであったが、何者かは不明である。
「ボクは剣太郎を守る七つの物語の
にこりと愛らしい笑みを浮かべて、その女性は名乗った。
剣太郎の名を聞き、レイラは安堵した。
この女性はレイラを危地から救ったあの羽倉剣太郎の関係者のようだ。口調から察するにかなり深い関係にあるように思えた。
「ここは姫様の精神世界なんだ。だから今は機械の体になったボクも実体化できたというわけさ。姫様、あなたは夢の世界で夢を見せさせられていたのだよ」
ソフィアは言った。
ベッドに腰かけていたレイテも立ち上がり、二人をどこか虚ろな目で見ていた。
はっきりとした意識で彼の硝子玉のような瞳を見たとき、レイラは目の前の人物が完全な偽物だということを確信した。
もしかすると生物ですらないのではないかと思うようになった。
「へえ、凄いね。僕の幻術を見破るなんて。お姉さんやるね」
兄の偽物の口から発せられたのはまるで違う少年の声であった。
その声はあの岬にあらわれたロイという少年のものだった。
「レイラ姫、あなたはこの夢の牢獄で一生過ごせばいいのだよ。何も悩むことも考えることもないのだ。安心して王子に愛されたらいいのだよ。」
偽物の王子は偽物の声でレイラに語りかけた。
「お断りいたします。私は現実の世界でやらなくてはいけないことがあるのです。偽物の愛情は欲しくはありません」
レイラ姫は気丈にもそう宣言した。
そう、兄はすでにこの世にいない。
幻の中で夢にうつつをぬかすわけにはいかない。私にはやらなくてはならないことがある。その為に人間界まで来たのだから。
拳をぐっと力強く握り、レイラ姫はそう思った。
「なら仕方ない。レイラ姫、ここで死んでもらうよ」
そう言うと偽物の王子は頭上に手を差し出した。
どこからともなく
その剣の先には必殺の思念が込められていた。
恐らくこの世界での死は現実世界では植物人間になることを意味するだろう。
「なるほど、そうきたかい。じゃあボクも援軍を呼ぼうかな。さて、七つの物語からどの
ソフィアがそう言った瞬間、彼女の目の前の床が光輝き、真円がうかんだ。
光はやがて
人の形をしているが、実際は人ではなかった。
それは平均的な男性と同じぐらいの大きさの二足歩行の蛙であった。胴部分は西洋の甲冑を着込み、頭には角の生えた兜をちょこんと乗せていた。
水掻きの手には
「おっ嬉しいね。三匹の勇者のフログが来てくれたよ」
にこやかにソフィアは蛙人の名を呼んだ。
「ゲロゲロゲロ」
低い声で蛙人は雄叫びをあげた。
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