第7話兄への思い
その手の感触は決して忘れるものではなかった。
レイラの兄はじっと優しく彼女を見つめている。
頬をなでるその手に涙がつたう。
懐かしい兄の顔を見たときから、勝手に涙が流れ出していていた
「でも、どうして……。お兄様は二年前に亡くなったはず」
それは確かな記憶であった。
レイラは決して忘れることはできない。
残酷にも殺害された兄の遺体を。
彼女はその目でしっかりと見たのだ。
胸元を剣で切り裂かれたあの遺体を……。
「何をいっているんだい、レイラ。私はこうして生きている。それで充分じゃないか」
懐かしい、優しい兄の声が耳元で囁きかける。
「お兄様……。私はとても苦労したのですよ。お兄様がいなくなってから、難しい政治の話をしなくてはいけなくて。人間世界との交渉もやらなくてはいけなくて……。私は本当はそんな難しいことはしたくはなかったのです。お兄様と安らかにすごせれば、それで良かったのですよ」
そう言い、泣きながらレイラは兄の体に抱きついた。
「許しておくれ。全てはこのレイテが悪いのだ。でもね、もう怖がることも悩むこともないのだよ。後はすべてこの兄にまかせて、君は穏やかに暮らせばいいのだよ」
兄はそう言い、ゆっくりとレイラの銀髪の頭を撫でた。
顔を近づけ、兄はレイラの唇に唇を重ねた。
「いけません、お兄様。レイテお兄様にはミリアという婚約者がいるではないですか」
口ではそう言いながらもレイラは兄の行動を止めることができない。
兄の舌が口の中に侵入し、自分の舌をからめとっていく。
その行為からもたらされる快感により、レイラは恍惚の表情を浮かべていた。
「ミリアのことはどうでもいいではないか。あの公爵家の娘のことなどは。あれは親同士が決めたことだ。私が本当に愛しているのはレイラ、君だけだよ」
レイラの体を抱き締めながら、レイテはそう言った。
「でも、私たちは兄妹です」
とレイラは言った。
その言葉を塞ぐように兄は口を重ね、その右手はレイラの形の良い胸をまさぐっていた。
「君も本当はこうしたかったのだろう。その証拠に妹よ、君は一つも抵抗しないではないか」
ふふっと笑い、レイテは言った。
その秀麗な顔にどこか悪辣な表情が陰った。
だが、どのような魔力があるのか兄の手が体中を這うごとに思考力がどんどんと低下していった。
「さあ、レイラ。君はここでずっと私といるのだよ。もう、友好条約のことは忘れるがいい。私とここで安心して暮らすのが君のためなのだよ」
兄に力強く抱き締められると、レイラは兄の言う通りだと思うようになっていた。
これでもう、難しいことは考えなくて良い。
愛する兄とこの場所にずっといればいい。
レイラはそう思うようになっていた。
「本当にそれでいいの?」
女性の声が聞こえた。
どこか機械的な女の声であった。
僅かに残る理性を働かせて、レイラはその声の方角を見た。
そこには白いシャツとデニムをはいた黒髪の女性が立っていた。
「そんな偽物とあんたは本当に一緒に暮らしたいの」
と黒髪の女性は言った。
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