第6話夜会

 そう広くもない店内にいるのは二人の女性店員だけだった。


 俺たちはテーブル席に座った。


 牛丼大盛汁だく、野菜サラダ、生卵、味噌汁を注文した。レイラ姫はほぼ同じメニューで牛丼は並盛であった。

 わずか数分で牛丼たちはテーブルに運ばれた。


 流石であると俺は心底感心した。


 目の前に並べられたメニューを見て、レイラ姫はうれしそうに微笑んだ。

 卵を割り、小皿に入れる。箸で荒くとき、牛丼に注ぎかける。茶色に黄色が混じり、実にカラフルだ。レイラ姫も見よう見まねで同じことをしている。

「生卵がたべられるなんて実に素晴らしいです。私たちの世界は環境破壊が進みすぎて、今ではプラントで作られた食べ物しか口にできなくなりました。このような食事は何年ぶりでしょうか」

 宝石のような瞳に少し涙を浮かべながら、そう言った。

 彼女の世界もどうやら訳ありのようだ。

「だから今回の友好条約は是非結ばなくてはいけないのです……」

 姫さんは視線を落とし、牛丼を見ていた。

「姫さん、あんたは必ず送り届けてやるよ。それが明子との約束だからな。俺は一度受けた依頼は必ずやりとげる」

 不器用に俺は笑いかけた。


牛丼に紅生姜を乗せた。

「さあ、食べよう。腹が減っては戦はできぬっていうしね」

 と俺が言うと姫さんはええっと頷いた。


 それにしても牛丼を発明した人間は天才だと思うね。よく煮られた玉ねぎは実に甘く、薄切りの肉は出汁を吸い、肉の旨さを倍増している。それに生卵だ。

 こいつは究極の組み合わせだ。

 とろりとした生卵が牛丼と合わさったときに作り出される破壊力はとてつもない。

 口に入れる箸の動きを止めることができない。

 箸で食べるのが難しそうだったので、俺は店員に頼みスプーンをもらった。

 レイラ姫はスプーンで牛丼をすくい、口にいれる。

「とても美味しいです」

「そうだろう」

 俺の好物の一つを誉められて、なぜか嬉しい気分になった。今夜はハンバーガーは食べそびそれたが、またこれもいいだろう。

 深夜に近い時間に森妖精エルフのモデルとなったという種族の姫さんと食事をとれるのだ、これは役得以外のなにものでもないだろう。



 病院に戻った俺たちは今夜は休むことにした。

 レイラ姫もかなり疲れているようで、その美貌にも疲労の色が見てとれた。

 姫さんは病院の空いている部屋を使うことになった。俺はバジリスクで車中泊することにした。悪いが慣れない病院で寝るよりも愛車の方が落ち着く。

 車のシートを倒し、俺は一休みすることにした。

恐らく、明日はかなり忙しくなるだろう。その為にも体力を回復させなければいけない。

 まぶたを閉じるとすぐに俺は眠りに入った。



 覚えのある手の感触が頬にあたるので、レイラは目を覚ました。

 彼女の視界には絶対に記憶から消えることのない顔が存在した。

 彼女によく似た秀麗な顔がレイラの緑色の瞳を見ていた。

「お兄様……」

 その人物の顔を見て、レイラは言った。








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