第5話銀の鍵
明子が所属する組織は特務機関「銀の鍵」という名であった。以前、明子から聞いた話によるとその機関の主な役目は超常現象やオカルトなどの普通の警察では対応しきれない事件や事故を扱う組織だということであった。
その機関が関連する病院に俺は明子を送った。
医師の診断によると二週間ほどは入院しなければいけないとのことであった。
病室のベッドで横になっている明子の血の気のない顔をみた。美人の部類にはいる明子であったが、今現在は怪我と傷のためかなり苦しそうだ。
「剣太郎、頼みがある……」
かすれた声で明子は言った。
次にくる言葉はだいたい検討がつく。俺の横に立つ、銀髪美貌の姫様のことだろう。
ちらりと俺はレイラ姫の秀麗な横顔を見た。
蛍光灯の光のもとで初めて気がついたが、小さく薄い耳の先端がわずかにとがっていた。
まるでファンタジーの映画やアニメにでてくる
「そうだよ、剣太郎。レイラ姫殿下の一族は森妖精のモデルになった種族だよ」
俺の心の中を読んでいたかのように明子は言った。
ふふっと笑い明子は言葉を続ける。
「人類社会とフェアリージェルの友好条約は明後日の正午にF市の聖ジョージ教会で執り行われる。レイラ姫殿下を私の代わりに送り届けてくれないか」
少し荒い息で明子は言った。
どうやら喋る度に傷が痛むようだ。
依頼があればどんな者でも届けるのが俺のポリシーだ。ましてや、旧友の頼みとあっては断る理由がない。
「いいぜ、その依頼引き受けた」
と俺は答えた。
「ありがとう、剣太郎」
そう言うと鎮静剤が効いてきたのだろうか、明子は静かな寝息をたてだした。
F市の聖ジョージ教会。俺は頭の中の地図を検索した。その竜殺しの聖人の名を冠した教会は現在地から車で一日はかからない距離にある。
だが、何の障害もなければの話である。
少なくともあのミリアとかいうグラマーは何か手を出してくるのは間違いない。
もしかするとそれ以外にも何かあるかもしれない。
俺の長年の経験からくる勘がそう告げていた。
だが、その前にする事がある。
「なあ、姫さん。腹へってないか」
癖の強い髪の生えた頭をかきながら、俺は異世界の姫君に尋ねた。
そう、俺は夕飯をお預けして、彼女達を助けにきた。俺の腹は先ほどからグーグーと派手に合唱していた。
レイラ姫は少しうつむき、頬を赤くして頷いた。
「はい……。実は私も今朝から何も食べてなくて……」
どうやら災難続きの姫さんも同様のようだった。
恥ずかしそうにしているその姿もまた綺麗なものなのだから、流石としか言い様がない。
俺はレイラ姫をバジリスクに乗せ、近くの飯が食える場所を探した。
夜も遅く、かなりの郊外である知覧岬付近で空いている店は例の速くて安くて旨い牛丼屋しかなかった。
王家の姫君をつれていくにはどうかと思ったがその心配はレイラ姫の言葉で完全に杞憂であることになった。
「ビーフボウルのお店ですか。私、一度食べて見たかったんです」
涼しげな美貌が頬を赤く興奮した様子に変化させ、夢見る少女のようにきらきらと輝かせて、レイラ姫は言った。
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