第3話魔少年
手の中からどうにかして脱出しようとする剣の刃を俺は、それを上回る力で押さえつけた。
「来てくれたのね……剣太郎」
若干涙ぐみながら、明子は俺の名前を呼んだ。
「いつでも、どこでも駆けつける。それが俺のポリシーさ」
そう答え、不敵な笑みを浮かべる。
その間にも長剣は俺の指ごと切り裂こうと試みているが、ぴたりと俺の手から離れない。圧倒的な握力で掴んでいるからだ。
長剣の向こうのグラマーな美女は最初驚愕の表情を浮かべ、次に激怒した。
「貴様、何者‼️」
グラマーは熱い、怒りの声で叫んだ。
「なに、ただのタクシードライバーさ」
そういうと俺は左にさらに力をこめた。
べきりと鈍い音をたて、長剣は真っ二つに折れた。
「そんな、魔剣グリムが」
グラマーはさらに驚愕する。忙しい女だな。魔剣だかなんだか知らないが、俺にとっては飴細工に等しい。
頭上に気配を感じた俺は、手の中に残る折れた剣の半分を投げつけた。
グエッと潰れた蛙のような声が聞こえた。
空中から襲いかかろうとした男の腹部に刃は突き刺さり、背中まで貫通した。
落下する男の体を掴むと右真横から飛来する男めがけて投げつけた。
男たちは絡まりあいながら、地面を転がっていく。
「くそっ」
グラマーは短くそういうと、半分刃の残る剣を振りかざし、俺に襲いかかった。
男たちとこのグラマーな女の反射速度、運動能力を見る限り、通常の人間の約二十倍といったところだろう。
すなわち彼らは人間に似ているが、人間以外の存在か人間ではない何者かといったところか。
だが、俺の反射神経はそれのさらに上をいく。
猛烈な斬撃が俺の顔面めがけて襲いかかる。
切りつけられる寸前で頭を軽く下げると刃は空気だけを切り裂き、駆け抜けていく。
剣をふりきったグラマーは完全に無防備な状態になった。
左下腹部ががら空きだ。
すきだらけのその部分に左拳を下から円を描かせながら叩きつけた。
戦闘に関しては男女平等だ。
剣をもって襲ってくる相手にはなんの遠慮することがあろうか。
左拳は見事に命中し、女は後方約十メートルに吹き飛んだ。
戦闘体勢をくずさず、俺は周囲を注視する。
まだ幾人もの男たちがこちらを見ている。
不敵な笑みを敢えて浮かべながら、俺は奴らを見た。
最前の戦闘を見て、どうやら攻めあぐねているようだ。
吹き飛んだグラマーがゆっくりと立ち上がろうとする。
その彼女の前に黒いブルゾンを着た、目の細い少年が歩み寄った。
銀色の髪に所々黒い髪が混じっている。
「凄いよ、凄いよ、お兄さん」
嬉しそうに少年は言うと、パチパチと拍手した。
震えながら、グラマーは立ち上がる。
げほげほと咳き込んでいる。
「ミリア、どうやら君たちではこの男に勝てないよ」
ふふっと笑い、少年は言った。
「四、五、六、七。どうやらお兄さんの中には七人ぐらい、いるみたいだね」
細い目で俺を見ながら、その少年は言った。
「さてな」
と俺はとぼけてみせた。
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