第2話岬の戦い
強い海風が明子の白い頬を撫でていく。
額に痛みを感じる。
生ぬるい何かが流れている。
手の甲で拭うとそれは彼女自身の血液であった。
手が鮮血で赤く汚れる。
口の中も痛む。
鉄の味がする。
口腔内が何ヵ所か切れているようだ。
その他にも右腕と左足首にも激痛が走っている。
それは打撲と骨折によるものだった。
荒くなる息をどうにか整え、明子は自分の背中にしがみつく人物を見た。
銀色の髪をした青い瞳のとてつもない美女であった。
ほっそりとした指で明子のスーツの布地を強く握りしめている。
「お怪我はございませんか、王女殿下……」
明子はその人物に声をかける。
「はい、私は大丈夫ですが、八坂さん、あなたのほうが……」
軽く頷き、銀髪の美女は答えた。
彼女たちの視界には十数人の人物が見てとれる。
円の形になり、明子たちをとり囲んでいた。
その内の一人が三歩ほど前に進み、明子たちに声をかける。
「人間にしては随分としぶといことですね」
ややかすれた女の声であった。
その人物も銀の髪をしていた。
豊満な体を赤いドレスで包んでいた。
右手の電磁警棒を握りしめ、明子は声の主を睨みつけた。
「ミリア、どうしてあなたがこのようなことをするのですか」
明子の背後から、王女と呼ばれた人物が問いかける。
「レイラ王女殿下、あなたにはこの場所で死んでいただきます。低能で野蛮な人間共との友好条約など結ばせるわけにはいかないのです。穏便派のリーダーであるあなたを殺し、その責をそこの人間におわせるとしましょう。そうすれば間抜けな穏便派の諸侯も我ら強硬派に味方するでしょう」
ミリアはそういうと長剣の柄に手をかけた。
するりと抜き放ち、切っ先を明子とレイラに向ける。
他の取り囲む者たちもそれぞれ武器を構えている。
絶対絶命とはこのことか。
あの男にどうにか連絡はしたが、この場所に来る保証はどこにもない。
あのでたらめな男さえ来てくれれば……。
左右に頭を振り、誰かを頼るなんて私も焼が回ったもんだと自嘲した。
長剣を頭上にかかげ、ミリアは突進した。
その切っ先は明子の喉笛に向けられている。
目にも止まらずとはこのことだ。
一瞬にして、間合いを詰められた。
凄まじい身体能力だ。
長剣に電磁警棒を叩きつけ、第一撃はどうにか防ぐことができた。
だが、すぐさまに次の斬撃が襲いかかる。
反射神経を研ぎ澄まし、電磁警棒で受け流す。
二度、三度と攻撃を受け、明子は完全に防戦一方に追い込まれた。
「人間にしてはなかなかやるわね。でもこれで最後よ」
嘲笑し、ミリアは半歩左半身を引く。
長剣を真横に構え、一息に地面を蹴る。
電光石火の突撃であった。
電磁警棒で防ごうとし、腕に力をいれたが右腕に激痛が走り、武器を落としてしまった。
どうやら、彼女の体が限界を迎えたようだ。
殺られる。
荒い息を吐き、明子は思った。
長剣の切っ先が明子の目の前で停止した。
革手袋をはめた男の手が長剣をつかみ、ミリアの突撃を止めていた。その手は明子の背後から伸びていた。
「どうやら間に合ったようだな」
男の声がした。振り返るとそこには見覚えのある癖の強い黒髪の男が立っていた。
「来てくれたのね、剣太郎……」
明子は言った。
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