第2章 ⑧『そろそろサービスシーンでも』
「シャロさん、お風呂沸いたんでお先にどうぞ」
リビングでテレビを観ていた俺とシャロは、ドアを開いて顔を覗かせた聖の方を振り向いた。ひょこっと顔だけを出して言う聖に対して、シャロはぶんぶんと顔を左右に振りまくる。
「いやいやいいよ! わたしなんて全然最後で! 男の子の後とか入れないしとか思
春期ちゃんみたいなこと言わないし……幸介くん先に入ってきたら?」
「俺は別に後でいいよ」
「そんなに、わたしの後のお風呂に入りたいの……?」
「違うわ!」
そんな漫才してるくらいならさっさと風呂に入って来ればいいのに。このテレビは最後まで観たいし、基本的に客には気を遣う聖だ、シャロを先に入れたがるだろう。しかし、シャロはシャロで意外と遠慮深いというか。
「遠慮しないでいいですよ、お客さんなんですし」
リビングに入っていて、全ての家事を終えた聖は装着していたエプロンを外しながらそう言う。聖がエプロンを外すのは、家事を終えてこれからリラックスタイムに突入しますよという意思の現れである。
「別にそういうわけじゃないんだけどなあ……あ、じゃあさ、聖ちゃん一緒に入ろうよ」
「え、一緒にですか?」
名案だと言わんばかりにぱあっと明るい笑顔を見せて言うシャロに、聖は驚いた声
を漏らす。そして思い立ったが何とかというが、シャロは勢い良く立ち上がり聖の方
に駆け寄った。
「ね! そうしようよ! そろそろサービスシーンでも入れておかないといけないしね」
「その理屈はちょっとよくわからないですけど……」
断る間さえ与えずに、シャロは聖の背中を押して廊下の方へ行きリビングを出ていってしまう。テレビの音で足音は聞こえないが、何となく気配で遠くへ行ったのは分かった。
しかし、サービスシーン……ねえ。
これはあれですかね、覗けってことですかね。お泊りイベントなどにはもってこいというかお約束とも言えるのが覗きだろう。修学旅行とか行ったら絶対あるしな。正直聖の体など全く興味はない。さすがに妹の裸に欲情したりはしないし、あれはフィクションの世界だけのことだ。
だけどシャロは別だ。関わっていくうちに彼女の内面を知り、その残念少女感についついがっかりして忘れてしまいそうになるが、シャーロット・クロースは美少女だ。腕や足を見ても分かるが肌は雪のように白く実に柔らかそうだ。日本人離れした容姿も、初対面では見惚れてしまうほどのものだった。童顔に雰囲気が子供っぽいところもあるが、時折大人のオーラを見せるときもある。ナイスバディとは言えないものの、小柄ながらの美しいボディラインは持ち合わせているように見える。
結果、俺は男子であるしシャロは女子である。気にならないわけではないし、見れるものなら見てみたい。そして、そのチャンスが目の前にあるのだと言うのであれば掴まないわけにはいかない。
「……」
立ち上がり、足音は立てないように廊下を歩く。
平常時であれば俺はこんなことはしないし、非常時でもこんなことは有り得ない。ほんの気まぐれ程度の気持ちだと思ってくれればいい。シャロが言ったのだ、サービスシーンを入れないとと。なのに覗かないとか逆に失礼じゃね? 紳士として、ここは覗いておくべきではなかろうか。
世の中、目に見える正しいことが全てではない。正しいと思えることは間違っていて、一見間違っていると思えることこそが正しい。そんなことだってあるさ。事実正しいかどうかは関係ない。大事なのは、正しいと思って前に進むことだ。
廊下を歩いて少しすると二階に続く階段があり、そこをさらに進むとバスルームへと続く扉がある。そこを開けると脱衣所があり、その奥は禁断の花園が広がっている。この一枚の扉の向こうにはまだ見ぬ景色がある、そう思うと扉を開くことに躊躇いなどは一切ない。音を立てないようにゆっくり慎重に開く。
「あいつ、サービスシーン入れなきゃとか言ってたし、ここは男として覗いておくか……」
扉を開けると、目の前に肌色が広がっていた。恐る恐る顔を上げるとご立腹顔の聖がそこにいた。仁王立ちで俺を見下げるその姿はいつもより大きく見えて、その迫力に思わず後ずさってしまいそうになる。
「……とか、思ってた?」
服は既に脱いでおり、上下お揃いの薄いオレンジの下着を身につける聖が俺の顔を思いっきり睨みつけてきた。ああやばい、これは怒っているやつだ。ちょっとテンション上がってここまで来たけど、超後悔してる。
「い、いや、これはだな……」
俺はしどろもどろになりながら何とかうまい言い訳を考える。しかしそう簡単に思いつくはずもなく、ただ無意味な間だけが続いた。観念しようかしら、どうせ怒られるなら傷口は浅い方がいいだろうし。
「どうかしたのー?」
腹をくくり聖からの天罰を受ける覚悟をした俺だったが、その時バスルームへと続く扉がガチャリと開かれた。そこからひょころと顔を出したのはシャロだ。髪は湿っており、頬はほんのりと朱色に染まっていた。
「お客さんに、恥をかかせるなッ!」
どこから取り出したのか、ハリセンで俺の頭を叩いた聖。ハリセンって音はすごい痛そうだけど、実際身体的ダメージはそこまでない。何というか、精神的ダメージは大きいけど。
「どしたの?」
状況が飲み込めずに、こてんと可愛らしく首を傾げるシャロ。あざとい。
しかし、ここまで頑張ったのに得れたものはシャロの肩までヌードだけとは、もうちょっとサービス精神旺盛でもいいんじゃないでしょうか、ラブコメの神様。
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