第8話 冒険のはじまり ホロウ村2

ピコラ邸に向かう道を、冬に向かう冷たい風を感じながら一人と一匹はてくてくと歩く。


「ゴン太…ほんとにごめんね。どうしても一緒にいたくて、無茶しちゃった。てへっ♡」


「…一緒にいたいってのは、ありがたいんだけど、てへっ♡で誤魔化されないよ?身体が冷たくなっていくの、めっちゃ怖かったからな?」


「ヤンデレって、よく信者から言われてたけど…わたし、そんなに…」


「いやっ!ヤンデレじゃないよっ!」


「ゴン太!ありが…」


「殺るデレだっ!」


「…とぅ…ねぇ、ゴン太?わたしの目を見て?ねえ?」


「いやいやいや、殺るデレは言い過ぎだけども、ヤンデレは間違いないよ。その薄い胸に手をあて…あだだだだ」


ルルーシアはゴン太の頬肉をむにょ~んと伸ばしした。そして…


「誰が薄い胸かっ!薄くても温かいハートが詰まってるよ!ほら! バシバシ…けほけほ」


とても痛そうだ。何がとは言わないが…ダイレクトなだけに。


「とても人間の身体を叩いたとは思えない硬い音が…」


すっ、と見事同時に立ち止まった一人と一匹はお互いににっこりと視線をかわした後…


「…」


おもむろにルルーシアは引っ張った。ゴン太の頬肉を。

「あだだだだだだだだあ」


「ゴン太のばか…」


なんだかんだで息ぴったりの一人と一匹である。


○○○


いつもの調子を取り戻したルルーシアとゴン太の目の前にはピコラ邸が見えてきていた。


「で、さ。システムの裏側みたいな所をオイラ経由してきたのだよ」


「ふんふん、裏側?なにそれ?」


「なんかの映画で見た光景に似てたなあ…長い長い廊下があって、左右にドアがズラッと並んでんだよね」

ゴン太は何か感覚に触るものがあるのかキョロキョロしている。


「…それ…確かバックドア?っていうのかな?」


こんどはクンクンと匂いをかぐ。

「印象としてはそれが近いかな。ドアには数字が書いてあって、光って浮かびあがってた一番小さい数字のドアを潜ったんだよ。そしたらこの身体に入ってた感じ。たぶん数字はルルーシアとの距離とかじゃないかと思うんだよ。こっちのキツネ…狩り尽くされてるから、もしも今死んだら、山の向こう側に転生するのかな…」

話ながらも獣耳がピルピルとせわしなく動いて、周囲を警戒していた。


ルルーシアはこんなに落ち着きのないゴン太を初めて見る。

「凄い光景だったよ。廊下は半透明で、オイラのいる廊下の下には、数えきれない光の魂がビューってさ。たぶん夜の高速道路を上から見たらあんな感じかな」


「それはすごい光景よね。ついたよゴン太?」


○○○


ライトブルーの壁にスクエアな外観で、ぱっと見は普通な、しかし広さだけはけた違いのピコラ邸。デザインがルルーシアの記憶と違っているのは、おそらくこちらの世界でも改装されているからだろう。


ピコラの拠点は地表から少し持ち上げて建てられていた。門が地上にあり、エントランスに続く階段の両サイドには赤い花が、段々に植えられていた。


門の右側にさがる鐘のような真鍮製のノッカーを鳴らす。


しばらく待つと、門から続く階段の上で扉が薄く開いた。

「どなたピコ?」


少し間があき、

「…ルルーシアです…」

と小柄な彼女は、それに見合う小さな声で答えた。

ゴン太は足元にお座りしている。


「まさかっ、本当にっ!」

ピコラは髪をほどいた状態にも関わらず、慌てて飛び出してきた。一段飛ばしでかけ降りてきた。

「あ、あんたっ!?よく生きてたピコ!」

ピコラはルルーシアの二の腕をしっかりと掴まえて顔を覗き込む。

「…生きてた、のかな?何回か死んでたような…」

微妙に合わせづらい視線をさ迷わせながら、ルルーシアは言葉を紡ぐ。

「なーにわけわかんないこと言ってるピコ!と、とにかく中に入るピコ」

ピコラの目尻には光るものが浮かんでいた。


○○○


豪華なリビングに通された一人と一匹。借りてきたネコ状態である。そのうちの一匹はキツネだが。

「ピコラ…ごめんなさい」

ルルーシアは、これだけは会えたら言おうと思っていたことをストレートにピコラに発した。


「何?なにか悪いものでも食べたピコか?Ha↑Ha↑Ha↑」

いつもの笑い声に、ルルーシアは心に淀んでいた何かが洗い流される。

「ピコラ…ありがとう。あなたは何も無かったように振る舞ってくれる…本当にまた会えて良かった」


「なあ、ルルーシア?喋り方がオイラと話す時に似てるよね?"のです"って言わないんだな」

顔だけをルルーシアに向けて小声で話す。お行儀よくスフィンクスのポーズのゴン太。


「……これは何ピコか?」

ピコラはルルーシアの足元のゴン太を指差して、目を細めた。


「この世界での冒険の相棒かな?」

ルルーシアはチラッと視線を黄金色の塊におとす。


「相棒ねぇ…」

ピコラはじっくりとゴン太を見渡した。


「あ、ど、ど、どうも、お、お噂はかねがね…い、いやー、ピコラさんみたいな美しい女性に、まじまじと見られると…き、緊張しまっす…ねぇえぇ↑」

ゴン太は、冷や汗をかきながらしどろもどろに答える。


「…」

語尾がおかしいのはルルーシアが流し目でゴン太のしっぽを軽く踏んづけたからだ。

「(何すんだよ?痛かったぞ)」

囁くゴン太。


「(ふーん、ゴン太はピコラみなたいな女性がタイプなんだ、ふーん…)」

さらに頬肉を引っ張るルルーシア。


「(え?何、挨拶でしょうに?挨拶だよ?…あだだ、ねぇ?ひゅっはるにゅはひゃめてふれましぇんひぁ)」


「クスクス…あんたたち仲いいピコ」

はっと気づき、一人と一匹はピコラに振り返った。


○○○


この世界の神話についてピコラは語りはじめた。そこには恐るべき秘密があった。

「いいピコ?わたしが調べた限りはこんな感じピコ」


- 遥かな昔、創造神が他の新たな世界を創るために、この世界を留守にした時代があった。


文明が芽生えず、絶滅の危機に瀕していた人間を憐れんだ心優しい天使は、大地を四角に切り取ることで、生活を守るための建築をしやすく理を改変していた。


しかし、そのリソースは魂の欠片。必要以上にその「恩恵」を使用したものは、生きながらにして屍のようになる副作用(呪)があった。


やがて、その理が世界から拭えぬほど染み付いたころに創造神は別の世界の創造を終えて帰還する。


欲に支配された人間は、次々と鉱石を掘り、豪華な建物を建てた。


そして地表は副作用で屍化した人間で溢れていて…


地上の惨状を嘆いた創造神は、大天使の名前をエンダーと改名し、ドラゴンの姿に変えて地の底に堕とした -


「…と、これがこの世界の神話ピコ」



次話に続く…

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転生したらキツネだったんだが、あるじがヤンデレで割とちょっとヤバい件 Jp 聖人 @jp_seijin

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