第7話 冒険のはじまり ホロウ村

「にゃにゃ、再会そうそうまな板はないんじゃないと思うのですよ?」


「ま、まな板言ってないアル!あ、あ、いや…あ、そうアル、胸元のブローチ、ブローチがデザインシャープだなあって…はあん、そんな目で見ないアル!」


「ところでにゃにゃ?あなたはいつからこの世界にいるのです?他に同胞は?」


にゃにゃは白い狐の毛皮を見つめた。


「ま、ま、まさか、あなた白神しぐれ先輩を!」


「ご、ご、誤解ある!これは普通の白狐の毛皮アル。先輩は狩りに出てるアルよ。あとは勇者ノエスタに、マリール船長に、魔法士アルシオン、兎人ピコラに座長ポーラあとあと…」


「わかったのです。アルシオンもきていたのですね…また細かく後で聞くのです。沢山こちらに飛ばされているのですね」


「そうアル…ルルーシア先輩、こっちの世界に飛ばされてたなら、1年間もどこに行ってたアル?」


「い、一年…わたしはそんなに行方不明だったのです?」


「皆、ハロウィーンの後片付けにログインしていて、ログに先輩の名前もあったのに、ずっと見つからないから、てっきり昇天したかと思ったアル」


「……簡単には死なないのです。ところでにゃにゃ?何故こんなに狐の毛皮が流行っているのです?」


「黄金色の狐の毛皮に対アンデッドのバフが付くからアル。おかげでこのあたりの狐は狩り尽くされて、あの切り立った山岳の向こうにしかもう生き残ってないアル」


「…狐火の効果かな」


「狐火って何アルか?」


「ん?ああ、こちらのことなのです」


「アルシオンは村に?」


「勇者ノエスタと一緒に、ちょうどあの山にドラゴン退治に出掛けてるみたいアル。あ、ピコラ先輩は村の自宅にいるはずアルよ」


○○○


雑貨屋で冒険の旅に必要なあれこれを仕入れたルルーシアは、兎人ピコラの自宅に向かっていた。


建物の配置は、ほぼゲーム通りなのだが、その後に現地の村人によって築かれた建物が狭間に入りくみ、村というよりは町の様相に変化していた。


ルルーシアが何を話しかけても「Yo」「Yo?」「Yo!」しか話せない、元ゴン太は日射しで燃えてしまうために、鳥居近くの仮拠点に繋いできている。


異国の、まるで西方アジアのバザールのような露店や、子供たちが遊ぶ路地裏をにゃにゃにもらった地図を頼りに歩いていく。


「ねえ?ゴン太…あ」


ついゴン太のことを呼んでしまうルルーシアは、自分の中のゴン太の存在の大きさに気づき、これからを思う。


「そうよね…迎えに行くのは絶対。でもどうやって新大陸から連れてきたらいいのか」


おそらくはこちらの世界にホロウの皆がやってきてから後に整備された大通りに出て、ルルーシアは右に道なりに進む。


呟きながら歩くルルーシアは、かなり危ない。いろんな意味で。


「たしかネザーを経由するやり方が…でも現実でそれは可能なの?」


ふとルルーシアが足下に落としていた視線を上げると、町のところどころに、サーカス座の公演の手描きのポスターが張ってあった。


「凄いなあ、ポーラはこっちでサーカスをやるのね…一年かあ…この差は小さくない」


…そうだ!…小さくない…


ん、ゴン太の声が聴こえた気が?いよいよ末期的ね、などとルルーシアは頭を振る。


…ルルーシアの…ねは小さくない…


!!幻聴にまで馬鹿にされ始めてる!?


ルルーシアは耳を塞ぎ、思わずしゃがみこんでしまう。


「へーえ"ーーーるぷ!! ルルーシアーっ!」


「これは良くない兆候よね… ついに幻聴まで聴こえるとか」


「ルルーシアー!?ヘールプ!」


ルルーシアは通りの端で踞り、ますます耳を押さえる。


「ルルーシア!!こっちだ、こっち!……仕方ない……このまな板!!ボインボインミサイル射った後の人!」


「誰が歩くATフィールドかっ!!しかもエグレとるやないかっ!」


ルルーシアは立ち上がった。それこそ残像を残す勢いで。


「ATフィールドとか言ってないっ!冤罪だっ!冤罪を主張する!」


気がつけば、ルルーシアの

真横を檻に入れられたゴン太が運ばれていたのだった。


○○○


「あなた?本当にゴン太なの?」


「…滑る…定位置は頭…」


「あ、この憎まれ口は確かにゴン太よね」


「あだだだだ、なんで頬引っ張るの!」


「え、ちゃんと生きてるか確かめないと」


「ルルーシア?そりぇはしふんにょほふょでやるんひゃひょ」


「あははは、おもしろーい。めっちゃ伸びるよ?……」


声は楽しそうなのに、ルルーシアは何故か泣いていた。


「また、あえて良かったよ。ゴン太」


ギュッとゴン太をルルーシアは抱き締めた。


○○○


罠によって捕まえられていたキツネの身体で目覚めたゴン太は、狩人に毛皮にされることは免れたものの、言葉を話す珍しいキツネとして、危うくサーカス座に売られていくところだったらしい。


ルルーシアはにゃにゃの雑貨屋に担保として無限弓を渡し、何とか資金を調達、狩人から正式にゴン太の回収に成功していた。


なのですでに新大陸を目指す必要は無くなってはいたのだが、ルルーシアは冒険の準備のためとは違う理由で、改めてピコラの自宅を目指していた。


足下の定位置にはゴン太がよりそう。


「ねえ、ルルーシア? ピコラちゃんとは喧嘩したままなの?」


「わたしには昨日のことなんだけどね。喧嘩したまま新大陸で一年過ぎてたみたい。だからまだ謝れてないの」


「え?一年!?オイラたち一年も向こうにいたの!?なにそれ、怖い」


「うん、そうだね…」


ルルーシアは目指す。目的は喧嘩の原因に対しての謝罪が一つ。


もう一つは、ネクロマンサー以外で、最もアンデッドに詳しい兎人から話を聞くために。








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