第6話 再会

「ごめんねゴン太…」


「なんで…あやまるん…だよ?連れていって…くれる…ん…だろ?」


「そうよ…ずっと一緒よ」



※ルルーシア視点※


なんでかな…本当に大切なものは、何時もわたしの手のひらを滑り落ちるようになくなる。


ただ一人、本当のわたしで居られる相手だった弟も、たった一度お父様に我儘を言って迎えたコンタも…


そんな孤独の先に見つけた繋がりが、幻術教祖VTuber信者ファンの皆との絆で…その最後の繋がりさえ失おうとしているなんて。


このままだと過去何回かと同じように、きっとまたあの壁に囲まれた地下のシェルターにゴン太はリスポーンする。


でも、わたしがホロウ村に渡ってしまってたらゴン太だけでは、あの地獄のような環境を生き残れないし、もたもたしていたら迎えに行ったころにはもう生きてはいない…


わたしが新大陸に残って、ゴン太と繰り返しの日々を過ごしたとしたら…それは、それで心惹かれる選択肢だけど…


ううん…それも駄目ね。

スティーブはその未来を示してくれてた。


わたしたち自身も、もうすでに何度もループしていたのだから。


何回繰り返したかはわからないけれど、やっと脱け出せるところまで、わたしたちはたどり着いた。


なら、もう前に進まなきゃ。


仮にここで失敗しても、また新大陸でゴン太はリスポーンする。でも、それはわたしの知ってるゴン太じゃないかも知れない…それでも、僅かな可能性があるなら、ここで終わるぐらいなら、わたしはそれに賭けたい。


◯◯◯


「ゴン太、これを飲むともれなく死んじゃって、新たなあなたに蘇る薬があるんだけど、どうする?」


「え?なに?新手の勧誘?さすがに『一回死んでみた』とか、それは嫌なんだが?ちなみに断ったらどうなるの?」


「あなたを◯ろして、わたしもここで果てるわ」


「おいっ!めちゃくちゃ物騒だなっ!」


「これは仮死の薬よ。生命活動を止めればインベントリにあなたを格納したまま、ホロウ村に入れるから」


「目を泳がせながら言われてもね…それで生還率は?」


「八割…」


「八割なら、まだいいじゃん」


「…八割、死んじゃう、かな。てへ」


「ちょとまてっ!可愛くいってもごまかされないからな!それほぼ死ぬじゃん!仮死じゃなくて致死の薬じゃん!」


「まあ…ね。でもね、さっきのあれ…あながち冗談じゃなかったり…」


「ど、どゆこと?」


「もし、失敗したら…きっと新大陸のリセットの影響で、リスポーン地点はあの壁の中だと思うの」


「それで?」


「もしもの時は、あそこまであなたを迎えにいくわ。必ず」


「…その蘇ったオイラは、この10日間の記憶については?」


「おそらく残っていないはず。ただ魔導書に言霊を刻めば、今のわたしたちぐらいには、ぼんやり思い出せるかも知れないけど…」


「…ルルーシア…オイラは嫌だよ」


「ゴン太…」


「たった10日間かも知れない。でも、ふたりで何度も死地を乗り越えてきた。ルルーシアのこと…沢山、たくさん覚えた…それが…」


「ゴン太」


「二人で生きるんだろ?ホロウ村に行くんだろ?」


「ゴン太…」


ルルーシアは思わずゴン太を強く抱きしめる。


「もう、ルルーシアはオイラの中ではただの教祖アイドルじゃないんだ。こんな知ってるようでまるで知らない世界にさ、お互いが生きてきた世界をさ、知ってる唯一の存在じゃん……一緒にいたいって、二人で生きていきたいって、心の底からオイラ思うよ。ルルーシア?…ルルーシア…一緒にいたいよぉ」


ゴン太は粒の涙をポロポロとこぼす。


「…ゴン太、ごめんね…ゴン太、ゴン太ぁ」


ルルーシアの頬にも幾筋もの涙がつたっていく。


どのくらい、そうしていただろうか。ゴン太はやがて呟くように言った。


「…ルルーシア、オイラ薬…飲むよ」


「ゴン太…」


「死んじゃうかも知れないけど、消滅するわけじゃない…だから」


「うん……もしもの時は…必ず迎えに行くよ」


◯◯◯


ルルーシアは魔導書に手を触れた状態で、学院で習った仮死の薬を錬成していく。自分の世界の理を魔導書を通して、この世界の理に馴染ませていくために。


そして…


「ごめんねゴン太…」


「なんで…あやまるん…だよ?連れていって…くれる…ん…だろ?」


「そうよ…ずっと一緒よ」


膝の上のゴン太の、ゆっくりと下がっていくその体温が、ルルーシアの心に痛みを伴う寒さを与え続けていく。自分の中の何かが凍りつくような感覚にルルーシアは…


「ああぁぁぁぁぁ」


真新しい心の傷口から、言葉にならぬ声をあげた。


◯◯◯


ゲートをくぐったルルーシアは、心労で一歩も動けなくなっていた。


何も考えられずホロウ村の鳥居の脇の空き家で、眠っているのか、幻想を見ているのかよくわからないような一晩を過ごす。


ルルーシアは太陽が真上にくるころに、ゴン太の冷たい身体をインベントリから取り出し、藁のベッドに横たえた。


蘇生薬をゴン太の口に含ませる。


「お願い、ゴン太…起きて」


反応はない。指で口元を開きもう一滴、ふくませてみる。


「ゴン太、帰ってきて…お願い…お願い…」


やがて…

ゴン太の目が開いた。


「ゴン太!ゴン太、ルルーシアよ、わかる?」


「…」


ゴン太は視線を合わせてきた。


「ゴン太!」


「YO?」

ゴン太は返事をしたが、どこかおかしい。


「ねえゴン太?あなた言葉はどうしたの?」


「YO!」


蘇生は一見成功し、ゴン太は再び立ち上がるも、やはり様子がおかしい。ルルーシアが何を話しかけても「Yo」「Yo?」「Yo!」しか話せないのだ。


「おかしいわね…あなたのステータスに異常は……あ」


「YO?」


「あ、あなたのステータス、ふ、ふ、フレッシュゾンビになってる!?」


頭を抱えるルルーシア。

それでもルルーシアはゴン太だった者にリードをつけ、話しかけ続けてみたが。


やはり「YO?YO?」しかかえってこない。


「これは…蘇生失敗ね。辛い思いをさせたのに。ゴン太…ごめん…わたしも生きてたどり着けるかわかんないけど、あのシェルターに迎えにいかなきゃ」


◯◯◯


ルルーシアは新大陸のあのシェルターの場所までたどり着くために、村に物資の買い付けに出ていた。


とある雑貨屋の前で、その呼び込みの声に足をとめる。


「さあ、白キツネの貴重な毛皮アルっ!ぼんやり見てないで、そこの人買うアルね」


おや?どこかで耳にした声だ。


「にゃにゃ!あなたにゃにゃ!?よね」


「その声…シャープな胸元…ル、ルルーシア先輩!?い、生きてたんですかっ!」


「…おいっ、そのシャープな胸元の件、わかるように説明してもらおうか?」


ルルーシアは再会の喜びを噛み締めるのもつかの間に、にゃにゃを威嚇。殴りかかる前の男子がよくやるように自らの指をバキバキいわせた。



じ、次話「冒険のはじまり」に続く…

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