(x)を食べたい。

和橋

(ⅹ)を食べたい。

「うわぁ! やっと見つけた!!」


 加奈は大きな声を上げ、やっとの思いで見つけた松茸を空に掲げ達成感に浸る。


「良かったね! これでやっと食べられるよー」


 もう一人の女が相槌を打つよう言った。


「いやー本当に良かったぁ、この松茸どうやって食べよっかなー!」

「本当に迷うよねー。そのまま食べるのも良いしー、香ばしく焼いて食べたり―、他にも沢山あるよねぇー」

「焼くかなぁ……よし! そうしよっと!」

「よし! じゃあ私も焼いてたーべよっ!」


 じゅるり。と二人は涎を垂らしそうになりながら、その涎をギリギリのところで抑えて加奈は周りを見る。辺りは木、草、また木。


「そこまで深く入ってないつもりだったんだけどなぁ」

「えー、ここ結構深いよー?」


 加奈はスマホで時刻を確認する。時刻は6時30分。辺りは既に薄暗くなっている。つい2、3か月前までは、まだこの時間帯は明るかったはずなのに、と加奈は不変の自然に不満を持ちながらも帰路に就く。


「はぁ、めっちゃ洋服汚れちゃったよ。まぁ、松茸の代償と思えば大丈夫か!」

「そうだねー。まぁ、汚れてても私にとっては最終的に関係ないしねー」


 そして加奈は不整地をゆっくりと、こけないように、しかし心は少しずつ不安に侵され急かされながらも自分が通ってきたはずの道を戻り始める。

 しかし、いろいろなことをやっている内に辺りは先程の薄暗さとは裏腹に、完全に暗闇の世界になっていた。


「……本当にやばいかも。てか暗すぎて周り見えないし。はぁ、こんなに遅くなるとは思ってなくて懐中電灯持ってきてないよぉ」

「私もいらないから持ってきてないかなぁ。てか、使っちゃったら色々とまずいし」


 加奈は自然に駄々をこねる事をを諦めテクテクと歩き出す。しかし、加奈はあることを思い出し、咄嗟にスマホを改めて取り出す。

「そうだ!スマホのライト使えばいいんだ!よし、スマホのライトっと……あれ?じゅ、充電残り3%……終わったー」

「そうなんだー。大丈夫? 助けてあげようか?」

 女は加奈に話しかける。

「……誰?」

「うーん。誰、っていうのは正直関係ないんじゃないかな?」

「な、なんですかそれ、どういう意味ですか?」

 加奈はそう言って残り少ないスマホの充電を使い、目の前にいるであろう女性にライトを当てると、目の前には赤褐色で染まったワンピースを着ている女が立っていた。そしてその手にはワンピースと同じように、元は銀色に光っていたであったであろう鎌が赤褐色に染まっている。

「っっっ!? ……なんで鎌なんて持ってるんですか……」

 そして女は加奈に言う。

「……君を――」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

(x)を食べたい。 和橋 @WabashiAsei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ