キノコ食したあの日から

@kaeruduru

第1話


「死にたくない…私はこの世界を救うためにこんなところで死ぬわけには…ガクッ…」


 私は討伐の依頼を受け、フォレストモンキーがいるアギル山に入っていた。フォレストモンキーはモンスターの中でも弱い部類で、依頼自体はとても簡単なものであった。しかし依頼を終え、帰る途中崖から足を踏み外し転落。私は方向音痴であった為、そのまま迷子になり、今日で遭難4日目を迎えていた。


 ギュルルル〜


 「…こんなこと言ってる場合じゃない!どうせすぐ依頼達成できると思って食料なんて持ってきてないし…やばい…マジやばい…」


 食料を探す為、ふらふら森をしばらく歩いていると紫色したおぞましい大きなきのこを見つけた。見るからに毒キノコだ…


 「ど、どうしよう…食べちゃおうかな…ここで食べたら死ぬかもしれない…食べなければ餓死するかもしれない…要するに食べて死ぬか食べずに死ぬかの二択ってわけね!なら食べずに後悔するより食べて後悔した方がいいに決まってるわ!」


 空腹で思考能力が低下していた私はそう言うと迷わずそのキノコを口に入れた。その直後眩暈がした。どうやら毒キノコだったようだ。


 「デスヨネ〜」


 そのまま私は気を失ってしまった。



 それからどれほど時間が経ったのだろう。女性の声が聞こえてきた。


 「大丈夫ですか!?」


 私はまだ生きているみたいだ。どうやらあのキノコに致死量の毒はなかったみたいだ。なんとかからだをおこした私は大丈夫だと応えた。すると声をかけてくれた女性は驚いた様子で


 「あなたが持ってるそのキノコ!デスキノコじゃありませんか!?もしかして食べたんですか!?」


と聞いてきた。その様子に焦りながら「はい」と応えた。


 「貴女バカなんですか!?こんなのどう見たって毒に決まっているでしょうに!何で食べたのですか!?死にたいんですか!?これはデスキノコと言って食べたら9割の確率で死ぬんですよ!?」


 そう言って私の顔を引っ叩いてきた。


 「ちょ!ちょっと何するんですか!遭難して空腹で死にかけたから食べたんですよ!生きる為に食べたんです!現に生きてるからいいじゃないですか!」


 「あわわ、ごめんなさいつい感情的になってしまって…あ、あと、デスキノコなんですけど、死ななかったとしても後遺症がありまして…」


 「え…後遺症ですか!?一体どうなってしまうんですか!?」


 「な、何が起こるかわからないのです!私が聞いた話だと…次の日全身血を吹き出して死んだとか、全身が真っ青になって死んだとか…」


 「結局私死んじゃうの!?」


 「お、落ち着いてください!死ぬとは限りません!とにかく何が起こるかわからないのです!とりあえず森から出ましょう!その体じゃ歩けませんよね?薬草があるのでこれを飲んでください。」


 「ありがとうございます。」


 「あ、あと。この冒険者カードあなたのよね?叶えるに詩?なんて言うの?」


 「カシと言います。」


 「珍しい名前ですね。私は大香ハルカよ」


 「ハルカさんのおかげで助かりました。ありがとうございます」


 薬草をもらって歩けるようになった私は女性と一緒に森を抜け、依頼を受けたイシクルの街に着いた。


 「カシさんの家はこの街にあるの?」


 「呼び捨てでいいですよ。家…はないです。ははっ」


 「なら私も呼び捨てで…え!?いつもどこで寝泊まりしてるのですか!?」


 「敬語じゃなくていいですよ。野宿です。」


 「じゃあカシも敬語は無しね。え!?野宿!?家なら少し狭いけどよかったら部屋貸すよ!?」


 「了解!え!いいの!?ぜひお願いします!」


 「ここから近いから案内するよ」


 待合わせ場所を決めて私は依頼達成の報告の為酒場へ向かった。


 「フォレストモンキーの討伐完了しました〜」


 「カシ!帰りが遅いから心配したよ!何かあったの?」


 「いや〜心配かけてごめんねリノ!実はいろいろあってさ〜」


 酒場の受付の梨乃リノとは昔からの幼馴染み。今は酒場でバイトしている。私は経緯を説明した。


 「とにかく無事でよかったよ!これ報酬ね。っあれ?もう一度冒険家カード見せてくれない?」


 「良いけど?どうしたの?」


 「やっぱり、カシは確か職業剣士だったよね?ここ見て!」


 「あれ!?職業が「???」になってる!あ、そういえばハルカを待たせてたんだった!ごめんリノ!また今度ね!」


 私は急いで待合わせ場所へ向かった。


 「ごめん遅くなっちゃった。」


 「大丈夫!それじゃ行こうか。」


 私達はハルカの家へ向かって歩き出した。


 暫くして、見覚えのある建物の前でハルカは足を止めた。


 「着いたわよ!」


 ここはこの街にある唯一の薬品屋だ。どうやらハルカは薬品屋の娘で、頼まれた薬草を取りにアギル山に足を運んでいたようだ。もしハルカが通りかからなければ私はしんでいたのかもしれないと思うとゾッとした。


 「カシはこの部屋を使ってね。そうだ!お腹空いてるでしょ?ご飯食べに行きましょ!」


 「そうだった!お腹空いてること忘れてたわ。」


 もう一度酒場に戻って食事をしているとなんだか周りが慌しくなってきた。何があったのか話を聞いてみるとどうやら魔王軍が近くまで侵略してきているとのことだった。

 この世界には魔王が存在する。魔王は人間を滅ぼす為、人間は魔王を倒す為に世界各地で争が起きている。そんな魔王軍がイシクルの街の近くまで来ているみたいだ。その為緊急でB級以上の冒険者達を集め会議を行うようだ。ちなみに私は冒険者になったばかりでランクはEなので対象外である

 級というのは冒険者に上から順に S A B C D E とランクがあり、これは単純に難易度の高い依頼を達成することで上がっていく。


 「私達にはどうしようもないし帰ろうか。」

 食事を済ませ酒場を出る頃には外は真っ暗になっていた。


 家に着いてから薬品屋の店主にこれからお世話になることを伝え、お風呂を借りてそのまま眠りについた。


 「あ、暑い…」


 深夜2時過ぎ、急に体が熱を発した。


「デスキノコの影響…!?私このまま…死んじゃうのかな…?」


 暫くして熱が治まり、気付けばまた眠りについていた。

朝になってまだ寝てるカシを起こす為ハルカがカシの布団をめくると同時に頓狂な声を上げた。

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