天にかえる

ゴミ処分場しょりじょうから立ちのぼ薄煙うすけむりが、無風むふうのためか天までまっすぐのびて、夕日を一身いっしんびながら、それをこぼさぬようにとかかえこみ、あかあかと輝いている


その先端せんたんは、ほころびほどけてなく、まるでうすきわまるくもへと、けていくかのよう

街のすべての生活は、やがて天にかえってゆくのかと、観念かんねん情景じょうけいがゆらめきゆらめきかさなって、だけれどそれも、やがては天にのぼりゆき、かすみの向こうにきえていく


おのれの心のしずまり返るのが参照さんしょうされるような、主観しゅかんいた視点してんが夕暮れにとけ、あたりの色彩しきさいみとめるにしたがい、いっさいの感覚かんかくがり、得体えたいれぬものにみ込まれるを自覚じかくし、かたまった肺臓はいぞう真水まみずのようにゆるんだ

おのれ膨張ぼうちょうするような感覚かんかく

夕暮れの一端いったんしたような

しかし、一拍子ひとひょうしあとには、われかえったことさえ過去かこになる


灯台とうだいのような煙突えんとつを見上げていると、それがこちらにあゆんでくるような錯覚さっかくを受ける

なぎさからながめるしおの流れ、それは赤黒あかぐろく、出所でどころからぬ音は右から左

街の空を流れるくも、それは赤く、天空てんくうに流れるのは風などではなくかみ意思いし

ふたつの光景こうけいを同時にながめつづける夕日、それは赤々あかあかと、輪郭りんかくをふるふるとゆらしながら

錯覚さっかく意識いしきをあずけていると、ある一節いっせつが頭にたちのぼる


『いずれお前も、薄煙うすけむりになって天にのぼるのだ』


のどがほどけ、ひらいてゆくような感覚かんかく、今ここで声をあげれば、いくらでも大声おおごえさけべるだろうという予感よかん当惑とうわく、そして歓喜かんき

と、私のすぐ横を、ゴミを一杯いっぱいせたトラックがとおりすぎた

うかべる観念かんねん、たたずむ予感よかんは、鼻をかすめるはいガスのにおいにまぎれてしまう

よどんで居座いすわ黒煙こくえんは、こころけにして、にたにたと笑っているように感じられた

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