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「あい分かった。人格、技量共に相応しいと、儂が認めよう」

 典空が拍手だという風に手をたたくと、和樹は開いた口が塞がらないというような表情を見せ、

「えっと、奥の手を弾き返されたし、失格だと思ってたんだが……」

「さっきの部屋での謎解きや話を聞いて知識はあるとわかったし、腕も立つ。そして何より――」

 典空が目を見つめ、言う――。


「実にいい瞳をしておる」


 目ではなく瞳――重みがある言葉だ

「多くの人間と運命と交わり、何かしら大きなことを成すと思わせる……」

「いやいや……」

 大仰な言葉に和樹は手を振って謙遜してしまうのだが、

「ハハハ、照れおって。若者なのだから、胸を張れ。今川の血筋を継ぐ者よ」

「あだッ!」

 典空が近づきポンと和樹の肩を思いっきりたたく。活を入れだろう。

 叩いて励ますという典空の行為は時代を感じさせる。

「痛がるとは、軟弱じゃのう」

「典空様、今の時代ではそれは体罰になりますかと……」

 痛がる和樹を見て首をかしげるのだが、僧が補足した。

「やれやれ、今どきの若い者は……」

 大きく溜息を吐く、やはり江戸と令和では価値観が違いすぎるというところか。

「それ、エジプトのピラミッドの壁画にも書かれてたぜ?」

 和樹が肩をすくめ言う。事実、ピラミッドの壁画に書かれている。

「どこの時代でも変わらんか。まァ、よい。と、お前さんにこれをやろう」

 と、典空が和樹に手渡したのは、板状のもの。ただ触った感じ、木や金属ではなく、プラスチックに近いものだ。

「これは記刻板きこくばんと言ってなお前さんの持ってるすまほ……。とかいうものにも使えるはずじゃ」

「……端子が付いてる?」

 よく見ると、スマートフォンの記憶媒体となりSDカードに酷似している。

「これでそのすまほとやらのの機能を拡張できるはず。探索には何よりも情報がいるからの」

「こりゃありがてェ」

 と、手持ちのスマートフォンに記刻板きこくばん――もといSDカードを差し込む。

「守護者の一人と確認、各端末へのアクセス許可が降りました」

 スマートフォンから合成音声が流れる。どうやら守護者専用の端末

「中国の古代文明にはパソコンが存在したって話があるが。日本の遺跡にもあって活用してたんだな。すげェ、すげえぞ!!」

「その通り……。端末を駆使し、古代文明を悪しき者どもに渡さぬために使われたのじゃよ」

 興奮気味にまくしたてる和樹を見て典空がフッと笑う。

「とにかくご苦労じゃった。かの平賀源内が考案したカラクリ昇降機に乗るがよいぞ!」

 典空がニッと笑い、後ろにある扉を顎で指す。どうやらエレベーターのようだ。

「さすがは平賀源内といったところでしょうか……」

 僧が感嘆の吐息を漏らす。

 江戸時代においてマルチな才能を発揮したと言われた平賀源内だが、エレベーターまで作っていたとは驚きだった。

「ではな、守護者よ――」

 そういって、典空は消えていった。

「!」

 和樹が驚いてしまうのだが、僧は和樹の肩に手を

「守護者を継ぐ者ができて満足されたのだと思います」

「本来、成仏してるはずだしな……」

 典空は長年、この寺を見守り、守護者を待っていたのだ、戦国から令和まで。


「フィッシャーマンとして、頑張らないとな」 


 和樹はフィッシャーマン――古代文明の守護者の決意を新たにするのだった。

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ザ・フィッシャーマン 失われた叡智を探して アナスタシア(アシュレイ) @ashlei

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