第21話 再会

 自動ドアが開くと店内に来客を告げるチャイムが響いた。

「いらっしゃいませー」

 会計レジの向こう側でタバコの棚を整理しながら男が言った。それぞれ番号がふられた200種類以上のタバコ。在庫が減ってきたところに箱から取り出した新品を補充する。

 俺がこっちにいた頃とずいぶん顔ぶれが変わったな。

 12箱入りのカートンを包むビニールをはがしながらスズはそんなことを思った。青と白のストライプの制服に袖を通した彼はすっかりコンビニの中にとけこんでいる。

「おい」

 カウンター越しに声がした。ぶっきらぼうな声色。

 スズは小さくため息をついた。コンビニというのはどうしておかしな客がくるんだ?しかめっ面でタバコを置き振りかえる。

「いらっしゃいませ」

 そう言う時にはもう営業スマイルを顔に貼り付けていたが、客と目が合いその笑顔はぼろぼろと剥がれ落ちてしまった。

「この紅い液体をもらおう。それとそこの肉まん」

 ペットボトルをがさつに置いた女は、季節外れな中華まんコーナーを指差して言った。

「……アロー?なんでここにいる」

 腑抜けた表情のスズをよそに、青の小銭置きにコインを載せるアロー。

「これで払えるか?」

 面食らったままスズは小銭置きを確認する。鈍く光る500円硬貨があった。

「おまえ、これどこで」

「落ちていた」

「……」

 500円をレジに投入するスズ。

「法律違反だぞ、アロー」

「おまえも共犯だろう、スズ」

 アローがにやりと笑う。それを見て、スズも笑ってしまった。



「いったいどうやってここまで来たんだ?」

 コンビニの外、雑誌コーナーのあたりを背にして壁にもたれるスズとアロー。夕日と夜の闇がグラデーションしている空を見上げながらスズが訊ねた。

「話せば長くなるが簡単に話せば帝国魔術の力を借りたのさ」

 うまいなこれ、と肉まんを頬張りばがら答えるアロー。紅いストレートティーでそれを流し込む。

「……相変わらず食い方だけいやしいな」

「助けに来たやつにむかってその口の利き方はないだろう」

 口の端についたカスをぺろりと舐めとる。

「そうか。向こうに帰れるのか……て、おい」

 肉まんの下に引っ付いていた薄い紙をレジ袋に入れ、アローはそれをスズにわたした。

「こんなもんいらん」

「少し離れた場所に時空の裂け目がある。そこを通ればアスカルへ到着さ」

 レジ袋を押し返すスズを払いのけ、アローは立ち上がり大きくのびをした。

「……短い冒険だったな」

 レジ袋を握ってスズは呟いた。

 真城に一言お礼を言いたい。素性も知らない中年男に親身になってくれた彼の心遣いは、元の世界に帰れると確信した今この時いっそう深くスズの心に染みわたった。

「家に着くまでが冒険だ。まだ安心はできない」

 スズの頭上から降ってくるアローの声。表情は固い。

 彼女は考えていた。こちらの世界へ同行を許した魔術研究所長官・ロロの意図を。彼は今、川沿いの空き地でアローがスズを連れてくるのを待っている。

「このまますんなり帰れるとは思えないからな」

 そう言ってアローは歩き出した。右手には飲みかけのペットボトル。歩くと揺れる背中に背負った大きな弓はコンビニの駐車場には似つかわしくない。

 ……職質を食らわなかったのが不思議でならない。コンビニに設置されたゴミ箱にレジ袋を投げ込み、スズは彼女の後を追った。


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異世界転生して20年経った俺がある朝目覚めると畳の上だった そうま @soma21

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