第9話 人生初めての採用面接に魔王は挑む
ニーナだけに表の仕事を任せ言葉を読め募集に乗ってきた人との面接を裏で行っていた。
店の知名度も相当上がっていた事もありかなりの人数が集まりすでに七人との面接が終わったが、採用者が決まることはまだない。
「ありがとうございました。決まりましたら折り返しお伝えしますのでお気をつけておかえりください」
「それじゃあまた買い物に行くるわね」
四〇代の後半に差し掛かり孫のためにと募集に参加したお母さんだけど、さすがに今から雇うのは難しい。
人間歳を重ねると頭の柔軟さが失われ新たに覚えるのが困難となる。高齢での転職が成功しないのもこれが要因だ。
俺の店はつい最近始まったばかりで仕事も忙しく即戦力でなければ追加するのは難しい。
さらに言語能力を検証するために内容を殆ど暗記している桃太郎を読んでもらったが、残念ながらそこまで能力が高いとは言えないかったため採用は無くなった。
「一応今日来たのは次で最後か・・・こりゃまだ見つからんな」
諦めの言葉を吐きながら外で待っている次の人を呼び入れる。
当然のようにノックをすると思い待つが数秒間何の行動もなく、唐突に扉が開き放たれる。
「やっとワシの番じゃな」
「お嬢様!?」
「え?ちょ──」
開けるだけではなくドカドカと部屋に侵入してきて触れば届く距離まで詰めていく。
「さて早速だが建前を抜きにしてこの店を頂こうか?なに、命までは取らんさワシはそこまで非道ではないからのぅ」
双眼を不気味に輝かせ不躾な発言をいきなり飛ばす。
後から入ってきたメイドも驚きはする物の問題は無いだろうと止めようとまではしていない。
明らかに舐めている、舐めすぎてるな。
「誰が渡すか!まずは口の聞き方から学ばんかい!!」
老若男女手加減なく殴れる俺は子供を叱る十八番のゲンコツを無防備な頭に振り下ろした。
☆
何が起きたかワシは理解できなかった。
特殊能力によって目の前の男は完全に支配下におき店を略奪していたはずなのに、なぜか頭を叩かれ拒絶された。
父上すら殴ったことは無かったのに・・・・・・
「なんれ゛」
「へ?」
「なんれ゛なぐる゛のぉぉぉ」
目から流れ出るそれを抑える事ができない。
必死に涙を弾いて止めようとするが止まることは無い。何せ誰にも叱られた事がなく初めての経験だったからだ。
突然号泣し始めナオトも何をしていいか分からずアタフタし始め、カールも同じく背後で手を忙しなく動かしている。
結局誰も止められず一時間程泣き続ける事になった。
「えっとごめんね。まさか誰にも叱られた事がないなんて思わなくてさ」
「お嬢様は存在自体が力の権化です。お父上様ですら叱ることはできませんでした。なので殴られたのも初めてです」
「泣いてない・・・泣いてなんかない!」
時期魔王として人間に泣かされたなど恥でしかない。
なんとか威厳を発揮しようと胸を張ってみるが男からの視線は子供を見る目でしかない。
──というよりなぜ能力が効かない?それこそ神の使徒や勇者ならば効かないが・・・・・・
ふとした拍子に床掃除用のモップや先が丸みを帯びて濡れている汚れた掃除用具と思われる場所の一角に視線が動き、露骨に用途が違うと思われる剣を発見した。
「そ、それ!!」
「ん?あぁこれか。とりあえず邪魔だから適当にここに置いてるんだよね」
「適当に扱うな!!それは聖剣じゃぞ」
「結構有名なのか子供の間では」
聖剣自体おいそれと手に入るものではなくて勇者として認められて神から渡されるオンリーワンの代物。
それがここにあるという事は目の前の男が勇者であるという証明でしかない。
反応は明らかにおかしいが状況は真実を浮かび上がらせてる。
「勇者ならば問答無用!!ここで消滅させてくれる」
将来父上をワシを殺すかもしれん勇者は見つけ次第始末するに限る。
隠蔽していた角を出現させ右手の先に魔力を集結させる。
幸い聖剣は近くに無いので回避不能の神速の魔法を放ち両断すれば勝機はある。
詠唱を破棄して放つ【
「あっ、銅貨が」
男は不可視の攻撃が見えてるかのようにしゃがみ攻撃を避けた。
魔法ではない身体能力で避けた?そんな馬鹿な話があるか!まだ強化魔法で加速していたならば納得するという物。
しかし魔法を使った時の魔力の流れを感知できなかった。それが意味するのは魔法無しで避けたという事。
そんな芸当並の勇者ですら不可能で、できるとすれば最強の勇者であろうか。
驚くべきはそれだけに止まらない。
魔力尽きぬ限り全てを両断する【
魔法無効魔法は理論的に存在しない。似た効果があるのは【
勇者であり神の使徒。そうなれば身体能力だけで避けるのも納得できる。
「まずいぞカール」
「えぇ大変まずいです。採用が遠のいてしまいます」
「採用などどうでも良いではないか、何をそんなに慌てる」
「お嬢様が待ち時間に大量に飲み食いしたのでお金を使い果たしました。すぐにでも乗っ取ればお金を補給できると思っていたのですが、この様子ではそれも不可能」
「え・・・つまり?」
「本日は野宿確定でございます」
虫が顔にこびり付く野宿?いやーー!!そんなのやだ!!
「後生だ許してくれ!頼む採用を、採用をぉぉぉぉ」
「何を許せばいいのか分からないんだけども、殴った事は許してくれる?」
「許します!なのでどうか仕事をくださいぃぃぃ」
「唐突に心が入れ替わって怖いけど採用試験を受けて合格すればだから」
流石は神に認められた勇者だ。この時ばかりは神に感謝を評してもよい。
「それじゃあ早速だけどこの本を読んで欲しい」
「ふむ・・・・・・」
気分を切りかえて渡された本なる物に目を通すが・・・・・・全く分かりません!はい全然読めないです。
部分部分は読めるけど言葉として成立させるのは無理。
「この程度簡単に読めるがカール代わりに答えてみよ」
「はいかしこまりました。このカールめが的確に答えさせていただきます」
分からないものはカールに渡せば解決してくれるのでこれで良し!
「桃太郎、猿と犬と雉とかいう鳥を仲間にして鬼を倒す話ですね。過去見た事がないのでナオト様が著者という事でしょうか」
「まぁ大体?というよりかなり読めてるみたいだけど、家来を手に入れる時に使った道具を聞いてもいいかな」
「用途は不明ですがイラスト通りならば白くて丸い球体のきびだんごだと回答致します」
「桃太郎はどうやって生まれた?」
「現実的には不可能ですが桃からです」
「完璧ですこれなら求めていた事が出来そうなのでこれから宜しくお願い致します」
何の話をしてるのか全く分からなかったが気づけば採用が決まったようだった。
さすがカール。後でなでなでして褒めてやらなければ
異世界コンビニ転生~転生特典コンビニを選び一〇〇〇億稼いでやる!!~ ゆでむぎ @yudemugi
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