第8話 カリスマ性とポンコツは紙一重だと知っていましたか?
異世界コンビニ開店から二週間あまりが経過した。
初めは幾らかの問題があって売り上げが一切ない地獄であったが見事その後全てを取り返し、大幅な黒字回復を果たし店は繁盛し続けたのだが、現状とある問題が起きつつあった。
「ひーふー・・・・・・売り上げ三万ガルドかやべぇなこれ」
「相当落ちてきましたね」
「まぁだろうな。そろそろ安定期に入る頃合だと思ってたが中々それに対する対策がねれてない」
そもそも初動の爆発的な売り上げは無くなってしまうかもしれない限定商法と安さによる衝撃の二つにより発生した物で、一定の日数を超えればこの魔法が解け通常の推移になるのは目に見えていた。
特に今現在売れている物と売れていない物との差が生まれている現状では安定期に入ってそこまで高い売り上げが出るはずがない。
ここ数日は二~四万ガルドで売り上げが低迷していて、現在の異世界コンビニのポテンシャルが数字で示される。
なんてか抜けようと足掻いたけど全部無駄だった。と言うより日本のコンビニ自体が万能性で売れてるのに、こっちだと一部の食品だけしか売れてないのが大きな問題だな。
一番売れてるのが馴染み深い主食の惣菜パンで次がおにぎり、お弁当となっていてママ食堂の商品も微妙に売れているのだが、冷凍食品やお菓子そしてカップ麺等は一つたりとも売れる気配がない。
「なんとかこれを売れるように・・・・・・いや違うな今やるべき事はやっぱりこっちか」
円卓会議と名付けられた金曜日の夜に行われる二人きりの会議の新たな議題として一冊の本を机に置く。
絵柄は簡素な物で旗を付けた剣を持った少年と、猿・犬・雉が後方を一緒に歩んでいる日本なら誰しもが知っている雑誌だ。
「これ読めるか?」
「えっと、ももろ。違う、ももたろ・・・う?」
「そうだ俺の世界では老若男女誰しもが知ってる内容の本なんだが、やっぱりそうなったか」
俺はニーナの返答で最悪の予想が当たった事に落胆した。
「ニーナ、ここに住んでる人達はどこまで文字を読める?」
「私は教会で育った上に勇者として最低限の知恵が必要だから無料で簡単な言葉程度なら読めますけど、一般の人達は殆ど読めないと思います」
「はぁ、予想通りだが外れて欲しかったなたく」
本とは文字を読める人が娯楽として楽しむ物で読めない人が手に入れても何も意味が無い。
特に販売対象としている市民が読めないのであれば本など一冊も売れる事は無い。
「でも何で本なんですか?一つ一つが高くて高い売り上げは出ないのでは?」
「そうか、売り上げシステムを知らないんだなニーナくんは。よしならば解説してやろぅ!」
椅子から立ち上がりその場で数回回転して、額に手を当てカッコつけながら解説する。
「内で取り扱ってるパンだが例えば金貨一枚のこれを仕入れる時は半額の大銀貨一枚がかかって、店の利益は大銀貨一枚になる。これはコンビニの親会社が工場で大量生産してくれてるからできる。で、本に関しては本来は原作者、出版社、印刷者などコンビニ一人では完結してない以上売り上げが分割される。そのため仕入れるのは無料で売れたら利益が手に入るというシステムになってる。そしてこの間にいる人が実はこの店には居ない。つまり本一冊が大金貨だから店の利益に大金貨一枚が追加されるって事だ」
「それって、凄いじゃないですか!」
「だろ?これが今後も継続的に売れるなら後から手をつけるよりも、今から手をつけた方が得になる。さらにここであげた利益が巡り巡って新たなキャンペーンを始める資金にもなるしな」
新たなキャンペーンで行うのは売れていないお菓子やアイス等のこの世界に存在していない物を身近にする物で、無料で配布や試食を行うのが主だ。
お菓子やアイスは賞味期限が長いので滅多な事が無ければ廃棄にならないので、店が実費で行うので本による利益が必要なのだ。
「売りたい、売りたいんだが本を読める人がいない!」
「終わった・・・・・・」
こんな俺からしたら食べ放題で元を取るレベルで魅力的な事なのに、字が読み書きできないため売れる可能性が皆無なのが根本的な問題なのだ。
「そこでだ俺はとある秘策を考えた」
「秘策?」
「新たに店で取り扱う商品がこれテレレテッテテーサルでもわかる言葉講座」
どこぞの青タヌキを彷彿とさせる効果音を自分の口で鳴らしながら取り出したのは赤く薄い本。
表紙には猿がペンを持って日本語ではない別の文字を書いている絵がある。
いやー俺ってば天才すぎ。本の文字が日本語じゃなくて異世界語になってるからこれも行けるかと思ったが思った通りだった。
一応女神に確認を取り全ての本が異世界準拠になってるのは保証されている。
「なんとなこれをやれば文字が読み書き出来るようになる代物なんだ」
「え!!これ一冊でですか?」
「これを用意した俺の天才的采配よ。これを布教させて文字が読めるようになれば自然に本の売上も上がる。俺天才でしょ、天才すぎるでしょ!!アハハハハ」
「ん?例えばですけどこれここが分からないと質問されたらどうするんですか?お金が無い市民の人達は私達には頼りますよね」
「・・・・・・」
「そもそも文字が読み書きできるようになっても将来に繋がらないのに、そこにわざわざ投資する意味はありますか?」
「・・・・・・」
「目先の利益に囚われてほん──」
「うわぁぁぁぁぁんん!!もっと夢を見させてくれよぉぉ」
見えてないふりをしていた問題全てをニーナに言われ頭を抑え蹲る。
「そごまでいわ゛なくでもいいじゃん!!ヴぇぇぇぇぇん」
本当に大人なのか疑いたくなる大号泣をニーナの前で堂々と行う。
うわーと口から零れそうになるがなんとか飲み込んで軽蔑した視線だけを向ける事にした。
子供をあやすならまだしも泣きじゃくる大人をあやす術など一切知らないし知りたいとも思わない。
「泣いたって仕方ないわよはや」
「ふぅ、すっとしたぜ。それじゃあ今考えた対応策を行おうか」
泣くだけならまだしも一瞬で立ち直りもはや存在自体が鬱陶しいと感じつつもどこか楽しくなってきたとワクワクが抑えられない。
「で、どうするの?また店を閉じる?」
「いや流石に今閉じるのは意味が無いからちゃんと仕事をしつつとある事を行う。これにはニーナの力が重要になってくる助けてくれるかな?」
両手を顔の前で合わせて目をうるうるさせて母性に訴えかける作戦を実行すると、物の見事にひっかかりニーナは頭を縦に振る。
大人のプライドがないからこそできる巧みな戦略の前には子供の考えなど簡単に捻じ曲げられる。
☆
「ほほうここがワシが求めた店か」
「お嬢様その通りです」
異世界コンビニの前に両手を組んで佇む幼女がキリッとした表情で言葉を放つ。
赤いドレスに黒のコートを羽織り笑った拍子に見える八重歯がチャームポイントの幼女こと魔王の娘──カール・ハルベルトは目的物を前に好奇心を抑えられない。
魔族の象徴の角は隠蔽魔法で隠してはいるが不気味に輝く赤い双眼は人間らしさを感じず、燃えるように赤い髪は近づく物全てを焼き尽くす勢いだ。
その横に全身白黒のメイド服に身を包むトマリがカールに向け深々と頭を下げた。
カールが一三〇cm程だが、トマリが女性にしては高い一八八cmもあるので実年齢は逆だが親子のように見える身長差がある。
「ファムマ・・・・・・数多の料理が格安で提供されながら、他の国では見たこともない代物が販売されている特殊な店です。水晶で偵察をしていた限り危険は少ないと思いますが、念の為お気をつけを」
「はっ、誰を心配しておる。ワシは天下無双のま」
「おお嬢様!!しーーでございます」
「おっと危ない。ここは人間領だったな助かったぞトマリ。やはりお前が頼りだ」
人間と魔族は未だに戦争を続けている関係上、魔族の長の娘が人間領にいるとバレれば事件どころか地図を書き換えなければいけなくなる。
そうしないためにも隠蔽魔法を使っているので正体をバラしそうになった瞬間にトマリが、上下関係はあるが合意に口を塞ぐ。普通はメイドがそのような態度を取れば激怒し解雇なのだがカールはそれを許し感謝までした。
本人を前に褒めるなど照れくさくて中々出来ないことなのに平然と行ったので、カールは頬を僅かに赤らめて切り返してコンビニへ視線を移す。
すると店のドア横に紙が貼られているのに気づく。
「アレは」
「気づいたかトマリ」
「はい。これは中々上質な紙ですね。店自体格安で商売しているはずなのでこのレベルの紙を粗末にするはずが無いので、何かしら重要な事が書かれていると思われます」
「して内容は?ワシでも一応は読めるが家臣たるお前の能力を試したい」
「御意に」
──あっぶねぇー!!あんなんワシ読めんし普通に気づかんかった。ほんとカールは全部説明してくれるから楽じゃな
魔王の娘は実は虚言の塊などトマリは知らず威厳な時期魔王という対面を保てたと安堵のため息をひっそり漏らす。
窮屈な家から出てきたが正解じゃったな。何せこんなに面白そうな事が世界には溢れとるからな。
「言葉の使い方が不自然なので少し混乱しましたが、直訳としては仕事の募集ですね。給与や勤務日数は要相談となってますがどうしますか」
「話は早いじゃろ。誰がこの店の主に相応しいのかそれを証明すればいいだけじゃ」
「さすが、お嬢様です」
魔族には特殊な能力を持つ者が産まれるケースがある。
これは多種多様な種族が常に混じり合うのでそれによって偶然発生する物と予測されている。
ワシにもとある能力があってそれこそが赤い双眼に見つめられた者を魅了するという物。神が運命率を操作している勇者や神の使徒ではない限り絶対的に支配下に置く最強の能力──【
対面となれば負け無しの能力があるのでカールは勝利を確信して店のドアを潜る。
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