第7話 現魔王の憂鬱で虚無な一日
人間が足を踏み入れれば待つのは死とされる島──魔島。
人は誰一人住んでいないのに関わらず島の中央には天にも届く巨大な漆黒の城がそびえ立つ。
その城の最深部【魔王の間】にて本来は居ないはずの人影が見える。
「ここで全ての因縁に終止符を打つ!」
「行くわよシュンヤ」
「後ろは任せてください」
「私が先陣を切るぜ!」
世界でもっとも硬いとされるアダマンタイトで作られたフルアーマーに包まれ聖剣を掲げる勇者の周りには、三者三様の少女たちがいた。
先陣を切る宣言をして飛び出した拳闘家少女の名はカノン。姓がなく農民の間に生まれたのだが、類まれなる身体能力を有していて勇者に認められパーティの一員としてタンク兼アタッカーを務めている。
漆黒の城事魔王城にくるまでの道のりで鍛えられ今では全力の拳は岩を砕き地を割る。
魔王軍四天王の鉄壁要塞という二つ名の猛者を一撃の元に沈めている。
「はぁぁぁぁぁ!!」
禍々しい角を生やし黒色のマントを揺らす魔王に向けて全力の拳を放つ。
角度、速度、筋力、破壊力の三大要素が完璧な一撃を放て倒すまでには至らないが多少のダメージは望める威力を出す。
「邪魔だ去ね」
魔王は横に手を薙ぎ払うと拳が届く前にカノンに黒雷が降り注ぐ。
超上級魔法【
「カノン!良くもぉぉぉ!!」
「待ってくださいリーネ様」
魔力を聖剣へ集わせる勇者の横を通り過ぎる円錐型の黒帽子を深く被ったリネーニャ・アウグステンが、拳ほどの魔法石が付いた杖を前につきだす。
「爆ぜろ──
魔王の使った詠唱破棄とは違い詠唱短縮を使い超上級魔法【
詠唱破棄は潤沢な魔力と魔族の象徴たる角があって使える代物なので、人間が魔法を高速で発動させられるのがこの詠唱短縮である。
ある程度の魔法使いであれば覚える事なのだが、欠点もあり魔法の難易度によって発動させる事が難しくなり威力も減少するという物だ。超上級魔法を三ワードだけで発動させられるのは世界ひろしといえどリネーニャ・アウグステンしかいない。
数多くの魔法使いを排出する大貴族アウグステン家の中でも一〇〇〇年に一度と呼ばれる天才がリーネであり、詠唱短縮の欠点の一つの威力減少を微塵も感じさせない劫火が魔王を包み込む。
「そんな私の魔法を受けて・・・・・・無傷なの!?」
魔王軍四天王が一人、不老不死の二つ名を持つ怪物を細胞一つすら残さず焼き殺した魔法が魔王には通用していなかった。
そこに何も無いように近くの店に買い物に行くように平然と劫火の中を突き進む。
「今は貴様などに構ってる暇などない」
今度は指を鳴らす。
すると劫火が突如として一つの火球へと圧縮され数秒後には手足のない蛇のような巨龍へ姿を変えた。
大きく口を開けば人など簡単に飲み込めてしまうサイズである。
巨龍は自分を作り出した魔法使いに向かって口を開いて突撃する。
「私の魔法の支配権を奪った!?そんな」
「神よ我が身に祝福を──
巨龍の前で無防備であったリーネの前に飛び出したのは世界でもっとも精力の強い三神教の聖女と認定されたアマデンテ・ルビィーアだ。
純白のシスター服に身を包みつつべーレから垣間見得る金髪は太陽のように美しい。
そして【神の御業】とは祈りを代償に発動する魔力を消費する魔法とは別の力である。
教会側に聖女と認められ一〇年の修行を得て扱える技で、時と場合に合わせて神が望んだ能力を発動させる。
魔王軍四天王とされるながらも魑魅魍魎達の行進という現象で百鬼夜行と名付けられ恐れられる物を祈りによって浄化させるなど、攻撃にも使えもちろん守りにも使える。
アマデンテとリーネを緑色の障壁が包み込む。
「ごめんアディ」
「別に構いませんリーネ様。今は一度退──」
絶対障壁とまで呼ばれるそれは普通の超上級魔法ならば問題なく防げるのだが、今二人を襲っている魔法は超上級魔法であるが魔王が命を吹き込んだ生命でもある。
障壁に齧り付く巨龍の牙が障壁にくい込み始める。
「まさか神の御業すら破壊するとでも言うのですか」
「神など俺の前では塵同然」
口は徐々に閉じ始め障壁は全体にヒビが広げながら形を楕円状に変化させつつある。
「リーネ様ごめんなさい私がもっとやれてれば」
「いいのよアディ。こうやって最後も貴方と一緒に居れるもの」
もはや逆転する事ができないと悟り互いに手を握り合う。
「それに私たちには」
「そうですね、私たちには」
──勇者様がいる。
二人は互いを見つめ合いながら巨龍に飲み込まれて姿を消す。
パーティの仲間でもあり恋人であった三人の命をかけた時間稼ぎが成功し聖剣に最大量の魔力が集結する。
過去、ニーナが使った聖剣解放があるがアレはコントロールできておらず、適当に集めたせいで光の柱のようになったのだ。森を消すには十分な威力ではあるが真の力はあの程度ではすまない。
魔力が圧縮され刀身から極光が漏れ始める。
魔の存在にとっては弱点の聖なる力はどんなに鍛えようと克服する事はできない。
魔王軍四天王最強にして最凶の暗黒騎士と一対一をした際は剣技で負けながらも、聖なる力によって逆転勝ちする事が出来たほどだ。
魔王たる彼も例外ではなくまともに受けることすら許されない。
「これは世界のいや、三人に捧げる最大の技──
歩むことをやめない無防備な魔王に聖剣の一撃が振り下ろされる。
魔王を滅ぼす一撃が魔王に当た──る事は無かった。
「なっ・・・・・・」
「失せろ貴様など毛ほども興味が無い」
触れれば消滅してもおかしくない聖なる力の結晶たる聖剣を人差し指と親指で軽く振れるように簡単に魔王は受け止めた。
見切られ避けられるならまだしも受け止められるのは計算外でしかなく、頭が一瞬で真っ白になってしまった。
次の瞬間には空いた手で指を鳴らし背後に現れた虚空へ繋がる穴へ三人の死体とも放り投げられる。
邪魔物を全て排除した魔王は魔王の間から急ぎ外へ飛び出し、出入口で気を伺っていた執事悪魔のバルバトスが慌てて駆け寄る。
「勇者達は」
「教会へ捨てた。魂はかけないように注意をしたからな蘇生を受けるだろう。今は時間が無いからまたいずれ相手をするさ。で、見つかったか」
バルバトスは申し訳なさそうに首を横に振る。
その反応に魔王は大きく舌打ちをして近くにあった壁を破壊する勢いの拳をぶつけた。
「私の──」
本来であれば互いに名乗り合い敬意を込めて命を奪い合うのだが、とある事情によりそれができず殺しはしたが蘇生できるようにわざわざ人間の国へ送り届ける手間をした。
それだけとある事情が重要で最優先な事の証明でもあるのだがその事情とは
「私の娘はどこに行ったァァァ!!」
溺愛していた娘が家出をしたこととなんとも情けない。
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