第4章

第115話:聖帝

 セント・ジオン皇国で南部同盟の王家代表が皆殺しになって二年経っていた。

 南部同盟各国がリカルド王太子の派遣した軍勢に占領併合された事は、語る事もない簡単な事だった。

 反抗して武器をとった者は族滅、素直に降伏すれば私財を保証する。

 そう言えばほぼ全員が素直に武装解除された。

 小戦闘があったのは、混乱に乗じて盗みや婦女暴行を働いた犯罪者集団との討伐だけだった。


 語ることがあるとしたら、リカルド王太子が帝位に就いた事だけだろう。

 父親であるペンドラ国王を現役国王として残しつつ、自分がその上位者となった。

 大陸に残っている国は、父親の治めるフィフス王国と、義父の治めるセント・ジオン皇国と、エルフ族が治めるリストン公国だけだ。

 だから皇帝も王も公王も同格だと宣言するだけでもよかった。


 だがリカルドには、後継者以外の子供達に王位を与えたいという個人的な望みもあったし、大陸全土の民の印象も心配だった。

 大陸は広く常識も風習も大きく違っている。

 皇帝、王、公王が同格だと宣言してもどれだけ理解してもらえるか分からない。

 次代に少領の皇国と大領の王国が争う原因になる事がとても心配だったのだ。


 だから皇帝の上位となる聖帝という位を創り出した。

 セント・ジオン皇国が異議を唱えるようなら戦争も辞さない覚悟だった。

 セント・ジオン皇国の皇族、貴族、民に現実を知らしめたかった。

 だからと言って皇族を皆殺しにしたいわけではない。

 義理とはいえ親兄弟姉妹を殺す気など毛頭なかった。

 だから魔力を惜しまずに使って無傷で捕虜にする心算だった。

 捕虜にして何不自由ない離宮に幽閉する覚悟だった。


 それに歴史あるセント・ジオン皇国をなくす気もなかった。

 そのために聖帝となったのだ。

 後継者となるアルフレッドに聖帝と皇帝を兼務させればいいだけだった。

 アルフレッドは現皇帝の孫で皇室の血を継いでいるのだ。

 皇室の血を絶つわけでもない。


 幸いな事に義父レイドーン皇帝はリカルド聖帝に臣従してくれた。

 クリステス皇太子や皇族達も素直に認めてくれた。

 お陰で争うことなく格付けすることができた。

 問題があるとすればエルフ族が治めるリストン公国だけだった。

 だが流石のリカルドもエルフ族の手出しには躊躇した。

 だから問題を先送りして今に至っている。


「聖帝陛下、今日は海洋討伐の予定になっております。

 変更などはございませんでしょうか」


 リカルド聖帝陛下に侍従長が確認をする。

 一応リカルド聖帝の予定は事細かに決められている。

 家族との時間が最優先だが、全てはリカルド聖帝の気持ち次第だった。

 いつまた魔族が攻め込んでくるか分からないのが大陸の現実だ。

 四角四面で応用の利かない組織では民を護れない。

 臨機応変に侵攻や天災に備えられる組織にしようとしていた。


「変更はない、家族全員で海魔と魔魚を狩る」


「承りました」

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