第114話:綱渡り

「御尊顔を拝し奉り、恐悦至極でございます。

 我ら一同、皇帝陛下の臣下となるべく馳せ参じさせて頂きました」


 南部同盟を構成していた王家が一斉に頭を下げている。

 卑怯極まりない行為だった。

 生き残るための形振り構わない行動だった。

 彼らは全員セント・ジオン皇国に臣従する事で生き残ろうとしていた。

 リカルド王太子の義父となったレイドーン皇帝に取り入れば、生き残る事ができると小狡い計算をしていたのだ。


 これがもし何度もの粛清が行われる前なら受け入れられていただろう。

 有力貴族の意向を完全に否定することはできなかっただろう。

 耳障りのいい言葉にレイドーン皇帝も惑わされていたかもしれない。

 だが今はレイドーン皇帝を惑わす有力貴族はいない。

 セント・ジオン皇室が専制君主として力を振るっている。


 そしてなによりもレイドーン皇帝と皇族はリカルド王太子を恐れていた。

 レイラ皇女や側仕え達から正確な情報が入っている。

 リカルド王太子を本気で怒らせたら皇国まで滅ぼされる事を自覚していた。

 生き残るためには目の前の国王達を皆殺しにしなければいけない事を、眼の前にいる国王達よりもよく理解していた。


 もちろんレイドーン皇帝とクリステス皇太子に欲がないわけではない。

 誘惑される未来図を頭と心に描きそうになる。

 目の前にいる全国王を皆殺しにして領地を併合することだ。

 全てを併合できればリカルド王太子の版図を越える領地となる。

 リカルド王太子ならば、義父や義兄が一旦領地とした所には攻め込んでこないという考えに、誘惑されそうにもなる。


 だがそんな二人にレイラ皇女から緊急の親書が届いた。

 レイラ皇女はリカルド王太子から全ての状況を知らされていた。

 リカルド王太子の密偵達はとても優秀で、南部同盟各国の動きを掴んでいた。

 レイラ皇女はライラとローザに相談してみた。

 どのように行動するのが一番いいのだろうかと。

 リカルド王太子はセント・ジオン皇国が南部同盟領を併合したらどうするのかと。


 子供達が争う事なく仲良く暮らす事を願っていたライラとローザは、レイラ皇女、いやレイラを陥れるような真似をせずに真摯に答えた。

 リカルド王太子は内心どれほど苛立っていようとも、何の名分もなく義父や義兄を攻撃するようなことはしない。

 だがセント・ジオン皇国が少しでも民を虐げるような政策をすれば、情け容赦せずにセント・ジオン皇国を攻め滅ぼし、皇族を皆殺しにするだろうと助言してくれた。


 レイラには親兄弟が皆殺しにされてセント・ジオン皇国が滅ぶ未来が浮かんだ。

 セント・ジオン皇国がどれほど頑張って統治しようと、リカルド王太子の治世にはかなわず、皇国に占領された民から不平不満が出るのは明らかだった。

 しかも横から領地を奪ったセント・ジオン皇国に対する、リカルド王太子の家臣達の怒りが激烈を極める事も明らかだった。


 だからレイドーン皇帝とクリステス皇太子に厳しい警告をした。

 同時にリカルド王太子の側近達に、最悪の場合にはセント・ジオン皇国を攻めるべきだと提案した。

 アルフレッドのためなら父母兄妹を皆殺しにする覚悟を定めていた。

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