第57話:洞窟通路への行軍
リカルド王太子は、魔王軍の作った洞窟通路までの行程にある国々に対して、通路破壊のために軍勢を通行させる許可を求めた。
常識的に考えれば、全ての国が通行許可を出すところだろう。
だが国の中には、リカルド王太子がウェルズリー王国を併合した事に危機感を持ち、通行を許可しない国もあった。
リカルド王太子が単騎で飛行魔法を使って行けば、誰に気がつかれるわけでもないのだが、今のリカルド王太子は必要もない危険を冒す気がなかった。
次善の策として、魔王軍の作った洞窟通路がある国に破壊を依頼したのだが、その国には強固な岩盤でできた洞窟通路を破壊するだけの力はなかった。
いや、それ以前に、王侯貴族は王都や領都を護る軍勢を出そうとはしなかった。
自分達だけ安全ならいい、そういう国王と領主ばかりだった。
リカルド王太子は事の顛末を大陸中の王家に伝えただけで、ウェルズリー王国を併合した時のような無理は行わなかった。
魔王軍洞窟通路破壊のための通行許可を断ったエジャートン王家は、リカルド王太子の軍が皇国にレイラ第三皇女を迎えに往復する時は、通行許可を出していたのだ。
だがその時に想像を超える莫大な数の義勇兵が通過した事に恐怖したのだから、厳しく糾弾する事もできなかった。
リカルド王太子からの魔王軍洞窟通路破壊依頼を実行しなかったグローヴナー王家は、皇国への往復時には通過していないが、尾鰭のついた噂を聞いているだろうし、洞窟通路を破壊するだけの実力もないので、臆病だと断じる事はできない。
ただ事実を大陸中に伝えて、両国が自壊するのを待つしかなかった。
危険を冒して強硬通過する事はできても、それでは更にリカルド王太子に対する反感や危険視を増やすだけでしかない。
リカルド王太子の周囲に大陸制覇の野望を抱く者がいたとしても、民を喰わせられない状況では、リカルド王太子が征服を実行する事はない。
エジャートン王国を併合したとしても、旧ウェルズリー王国領との間には、最短行路を使っても二カ国が間にある。
グローヴナー王国との間は、エジャートン王国を併合したとしても、旧ウェルズリー王国領からだと三カ国が間に存在することになる。
エジャートン王国とグローヴナー王国の民を満足に喰わせることができたとしても、本国とは長大な距離が横たわり、緊急に援軍を派遣できない。
守備軍を置いたとしたら、彼らが常に敵中に孤立する危険がある。
大切な戦友にそんな危険な任務をやらせるリカルド王太子ではないのだ。
そんな事は長年仕えている者だけでなく、最近肩を並べて戦った者でも理解しているのに、フィフス王国の有力貴族には理解していない者がいた。
そして愚かな策謀を始めてしまうのだ。
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