第56話:通路の発見

「地図のこの辺りに巨大な洞窟があったと報告を受けております。

 ただレイラ第三皇女をお迎えにいく途中でしたので、この目で確認はできておりませんが、帰路に別の斥候を放って確認いたしました。

 その斥候も確かに巨大な洞窟があったと報告しております」


 アルメニック王太子近衛騎士隊長兼王太子第一徒士団団長が、リカルド王太子に皇国との往復で知りえた情報を報告していた。

 今回の皇国への往復は、婚約が調ったレイラ第三皇女を迎えに行くことだけが目的ではなかったのだ。

 餓死しそうな民を救うのが一番の目的だったが、同時に魔王軍遊撃隊の大陸侵入口を探し出す事も大切な役目だった。


 リカルド王太子の推測では、魔族の侵入を防いでいる断崖絶壁が延々と続く高く幅の広い大山脈のどこかに、大軍が派遣できない通路があるはずだった。

 隠れた通路がなければ、魔王軍遊撃部隊が大陸中を暴れ回れるはずがない。

 その通路が大軍を派遣できるようなモノなら、遊撃部隊だけで襲ってくるはずがない、それがリカルド王太子の考えだった。


 早急に発見するためには、リカルド王太子自身が単騎で飛行魔法を使って探せばいいのだが、その間に魔王軍主力が魔境から侵入してきたら、フィフス王国が蹂躙されてしまい、多くの民が殺されてしまう。

 他国の民を優先して自国の民を危険にさらす事は、フィフス王国の王太子であるリカルドに許される事ではなかった。

 いや、愛する妻子を危険にさらしたくなかったのがリカルド王太子の本心だ。


 それに、前世の知識と性格に影響を受けているので、憶病なくらい慎重になっているリカルド王太子には、単騎での索敵などできなかった。

 それは、洞窟を発見した後の対処方法にも影響を与えていた。

 即座に対応するなら、リカルド王太子が単騎飛行魔法を使って洞窟にまで行き、洞窟を破壊して使えなくするべきなのだ。


「洞窟を発見してくれたのは貴君か、よくやってくれた、これで魔王軍に苦しめられている民が救われるだろう」


「私は王太子殿下の配下として当たり前の役目を果たしただけでございます。

 そのようなお言葉をいただけて恐悦至極でございます」


「この者と同時に索敵を行ってくれた者達が、担当範囲をしっかりと調べてくれたから、他に侵入口がない事が確認できたのだ。

 侵入口を見つけられなかったのは単に担当範囲になかっただけだ。

 索敵に加わってくれた者全員に感謝している。

 帰りに確認してくれた者達にも、心からの感謝をしている。

 皆よく頑張ってくれた、これからも頼むぞ」


「もったいないお言葉を賜り、恐悦するばかりでございます。

 これからも殿下のため民のため国のため、この身に代えましても役目を果たししてご覧に入れます」


「うむ、期待しておる、頼んだぞ。

 だが、簡単に命を捨ててもらっても困る。

 命は一つしかなく、一度しか命を捨てた役目は行えん。

 その方達の命を捧げてもらう時はちゃんと我が口から伝える。

 だからそれまでは死なぬ努力をしてくれ、分かったな」

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