第23話:謀略
リカルド王太子はバナナの植え付けと狩りの合間に騎士隊長以上を全員集めた。
どうしても話しておかなければいけない事があったからだ。
「密偵の話を総合して分かった事がある。
どうやらロイド達は魔王軍に内通していたようだ。
フィエン公爵家のアセリカ嬢が乱心したのも、ロイド達の謀略のようだ。
我が国を攻め滅ぼすために、内部分裂を画策して成功したというのが、あの時の裏事情だと判明した」
全てリカルド王太子の嘘だった。
フィエン公爵家の名誉を少しでも回復させて、アイル率いる元フィエン公爵家家臣団の忠誠心を手に入れるためだった。
そんな事はアイルも他の騎士達にも分かっていた。
だがその事を口にして場を壊すような者は誰一人いなかった。
リカルド王太子がこの嘘を口にした以上、魔王軍と戦い続けるために必要な嘘なのだと理解していたからだ。
「ロイド達が他国の王侯貴族に取り入り、そこで魔王軍に有利になるように動かれてはとても困ったことになる。
今までもお尋ね者として賞金を懸けていたが、これからは魔王軍の手先として全ての国で最優先に探してもらおうと思う」
「どこかの国がロイド達を探し出したらどうなされるのですか」
アイルが期待を込めて王太子に質問する。
アイルは自分に処刑役を任せて欲しいという想いを、口には出さず表情で出した。
だがその期待が適えられる事はなかった。
「基本はその場で殺してもらう。
生きて捕えようとすれば、どうしても隙が生まれて逃がしてしまう可能性がある。
その場で問答無用で殺してもらった方が、確実にロイド達を処罰できる。
生死を問わず賞金を与える事にするが、殺されている事が前提だと考えてくれ。
もし生きて逮捕されたとなると、私がそこに行って殺したくなるからな」
一番の被害者で、自らの手で復讐したいであろうリカルド王太子にそう言われると、アイルはもちろん他の誰も、生きて捕えるべきだとは口にできなかった。
「ただ、賞金欲しさに偽首を作る不心得者がいるかもしれない。
首を確認する者はあいつらの顔をよく覚えている者に限られる。
あいつらが表に出て策謀を始める時は、魔王軍も侵攻していると思われる。
魔王軍迎撃に必要な人材を、確認の為に遠国に送る余裕はないかもしれない。
各部隊はその事を考えて、確認に行かせる人材を選んでおいてくれ」
リカルド王太子には誰にも言えない謀略があった。
ロイド達を追い込み、本当に魔王軍に通謀しなければいけないようにしたかった。
単にアセリカ嬢を弄びフィエン公爵家を滅ぼした罪ではなく、魔王軍の手先で人類の敵だと歴史に刻みつけたかったのだ。
リカルド王太子の前世の人格が、誇り高いリカルドを抑えてやらせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます