第22話:見栄と本性・リカルド王太子
前世の記憶と知識を取り戻してから、恐怖に満ちた生活になってしまった。
取り戻す前には、叩きこまれた帝王学とノブレス・オブリージュのお陰で、魔王軍との戦いでも全く恐怖を感じなかった。
まあ、基本が本陣奥深くで総指揮を執る事だったから、最前線で矢玉に襲われながら突撃するのとは全然違うのだけどね。
「殿下、今日から新しい近衛が加わります。
ライラ、ローザ、入ってきなさい」
近衛騎士隊長の一人、モウブレー騎士家のフェルデが二人の女騎士を俺の天幕に入れて紹介する。
情けない話だが、どうやら寝言を言っていたようだ。
普段意識のある時は恐怖感を押し殺しているが、連夜見る悪夢だけはどうしようもなくて、夢の中では襲いかかってくる魔王軍から逃げてしまう。
もしかしたら、寝ている時はリカルド王太子とは別々なのかもしれない。
「やあ、ライラ、ローザ、二人の勇猛果敢な戦い方にはいつも感心していたよ。
今度は護りの戦いで勝手が違うだろうが、よろしく頼むよ」
フェルデは婚約者に裏切られた事で悪夢を見ていると勘違いしているのだろうか。
それとも単純に俺の性欲に気を使ってくれているのだろうか。
俺は単に戦うのが怖いだけなのだ。
リカルド王太子の魂と俺の魂は同じ本質を持っているから、憶病なのは同じなのだが、王太子が幼い頃から王となるべく叩きこまれた誇りに大きな違いがある。
俺の方は隠れたい逃げたいと思っていても、リカルドの方が許してくれない。
「はい、誠心誠意努めさせていただきます」
最初にライラが返事をしてくれた。
とても魅力的な女性で、生命力が光り輝いている。
リカルドには身分違いで、俺には人格的に高嶺の花だ。
死にたくなくて、少しでも強くなろうと全力で魔力を高めたが、魂の本質は臆病者で見栄っ張りで卑怯者だからな。
本当はリカルドの知識と経験だけだった時と同じように、本陣奥深くで指揮を執りたいのに、リカルドの誇りと俺の見栄っ張り部分がそれを許さない。
少しでも味方に被害が出ないように、陣頭指揮をしろと心が命じる。
「私も誠心誠意努めさせていただきます」
ローザの方も少し遅れて返事をしてくれた。
ローザもとても生命力に満ちていて素敵だ。
何も考えずにフェルデの好意に甘えてしまえれば楽なのだろうが、リカルドの知識と理性がそれを簡単には許してくれない。
万が一子供ができてしまったら、その子を水に流さなければいけない事を、リカルドが恐れているのが俺にも伝わってくる。
俺もそんな事は絶対にしたくないから、ここは我慢するしかないのだが、前世の避妊具があればと心から思ってしまうよ。
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