第21話:女騎士4・ローザ視点

 覚悟を決めると結構落ち着いて行動できた。

 これでも何度も死線を潜って来た歴戦の傭兵だったのだ。

 やると決めたら少々の事で動じる女じゃあない。

 夜伽をする覚悟があると騎士隊長に伝えると、夜番に選ばれた。

 だが騎士隊長から、夜伽の前に殿下の就寝姿を見ておけと言われた。


「うっ、あ、ああああ、うう、ああああああ」


 私は、殿下が悪夢にうなされるという信じられない光景を目にした。

 昼間あれほど雄々しかった殿下が、恐怖と苦悶の表情を浮かべておられる。

 まるで何かから逃げようとしているようだった。

 誰が止めようとも最前線に出られ、誰よりも前に出て戦われる殿下なのに。

 敵の攻撃は弓であろうと魔法であろうと、膨大な魔力の魔防壁で完全に防がれ、襲いかかってくる敵は一撃で五十も瞬殺される。

 その殿下が、夢の中では逃げ出されているのだ。


「殿下は、あの日から悪夢にうなされるようになられたのだ。

 起きておられる時には、あの時の苦しみはおくびも出されない。

 だが、眠られた時にはこのように苦しまれる。

 これは近衛のモノしか知らない事だ。

 魔王軍との戦闘があった後は、特に悪夢を見られる」


「うっ、うっ、うっ、うっ」


 夜番の近衛が、抑えきれない嗚咽を漏らしながら、滂沱の涙を流している。

 傭兵上がりの騎士達は、保身のために情報交換しているが、その情報では殿下の学友だと聞いていた騎士長格だ。

 剣技は騎士長クラスだが、殿下に対する忠誠心は特に強いと聞く一人だ。

 殿下の事を心から心配しているのだろう。

 本来なら騎士十騎と従騎士百騎を指揮する立場なのだが、一騎士として殿下の側に仕えている。

 近衛の者達は剣技も大切だが、それ以上に絶対に殿下を裏切らない信用が一番大切だから、この辺は仕方がない。


「殿下のために覚悟を決めてくれたのは心から有難いと思っている。

 打算や計算があって当然だろうが、このお姿だけは忘れないでくれ。

 我らがどれほど忠誠心を持っていようと、殿下の御心をお慰めする事はできない。

 殿下は普通の御趣味なのでな」


 フェルデ騎士隊長は暗くなった雰囲気を変えようとされたのか、殿下の性癖に対する冗談を口にされたが、私はそれどころではなくなってしまった。

 傭兵時代のように割り切って、死を眼の前にして性を楽しむ気持ちになろうとしていたのに、このようなお姿を見てしまったら本気になってしまう。

 まあ、こちらがその気でも殿下に断られるかもしれないが……


 ウジウジ考えてもしかたがないか!

 いっそ殿下の公妾でも目指して、生まれた子供に爵位でもいただくか。

 まっ、傭兵上がりの女騎士が公妾に選ばれる事など絶対にないけどね。

 そうでも思って気持ちを作らないと、本気で惚れてしまいそうだよ。

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