第15話:滅亡・元フィエン公爵視点
「ワッハハハハ、勇者ロイドは逃げ出したぞ、お前達は見捨てられたんだ」
「うそよ、嘘よ嘘よ嘘よ、ロイドが私とアーサーを見捨てて逃げるはずがないわ」
やはりこうなったか、分かっていた事とはいえ、ロイドは本当の屑だな。
領都を囲んだ魔王軍が、将兵の士気をくじこうと、盛んにロイドが私達を見捨てて逃げたとはやし立てているが、今更の話だ。
今ショックを受けているのは、愚かな娘アセリカだけだ。
長い籠城で、領民達もロイド達の本性にようやく気がついたのだ。
「ロイドは私に一緒に出陣しようと言ったわ、だから見捨てる訳がないわ。
城内に戻る機会をうかがっているだけよ、きっとそうよ」
愚かな娘、現実を理解できない、いや、理解したくないだけなのか。
だが領主の娘ならそんな事は許されない、辛くても現実を直視しなければならん。
ロイドが娘を出陣に誘ったのは、癒しの奇跡をひき続き利用するためだ。
アーサーから離れたくないという娘を諦めたのは、娘を気絶させて運んだのでは、魔王軍の包囲を突破する事も、追撃を振り切る事もできないと判断したのだ。
自分の息子、アーサーだけは連れて逃げるかと思ったが、子供への愛情など欠片もないようだな。
「ロイドは必ず戻るわ、私とアーサーを見捨てる訳がないわ。
でもこれは好機ですわ、お父様。
リカルド殿下に、私が独身になったと知らせれば、きっと援軍を、うっぐっ」
「愚かな娘よ、これ以上殿下に汚名を着せるわけにはいかんよ。
確かに殿下は、領民のためならフラれた女目当てに援軍をだしたという汚名を着てくださるだろうが、そんな事ができるか!
私は、子育てに失敗して娘をこんな身勝手な馬鹿にしてしまった」
「閣下、アーサー様をお連れ致しました。
本当に宜しいのですか、何もご自身で手をおかけにならなくても……」
騎士団長が汚れ役を代わってくれると言うが、甘えるわけにはいかん。
「これも娘の教育に失敗した私の務めだ。
娘だけでなく、孫もこの手で殺さなければ、殿下が家臣達の説得に困られる」
娘を殺し、今またこうして孫まで殺した。
「我が一族が全員自決したら、領主一族討ち死にと救援要請の狼煙をあげてくれ。
殿下なら必ず領民は助けてくださる。
それまでは何があっても魔王軍を撃退してくれ、頼んだぞ」
「私は閣下のお供をさせていただきたいのですが……」
「ならんぞ、アセリカはどうしようもない愚かな娘だったし、そのような娘に育てた私は父親失格だが、領主としての責任は果たしたと思われたいのだ。
お前が死んでしまったら、殿下の援軍を待たずに城門を突破されてしまう。
どうか私のために、いや、フィエン公爵家の名誉のために、生き残って欲しい。
……それと、私怨でしかないが、できればロイドの首を墓前に供えて欲しい」
「かならず、必ずロイドの首を、閣下の墓前に供えさせていただきます!」
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