第14話:女騎士3・ローザ視点

「そんな事を言われても、殿下が相手じゃあねぇ」


 自分らしくない言葉を口にしてしまった。

 本当に、自分の事を笑ってしまうよ。

 これまでに何度も恋に落ちてきたから、乙女なんかじゃない。

 王侯貴族の命令で、嫌々売春婦のように身体を開いたこともある。

 死を前にした最後の日に、砦の男全員と乱交した事さえある。

 今さら男と寝るのにこんなに照れるガラじゃないんだけどね。

 相手が殿下だと、こうまで今まで人生を恥じてしまう。


「我こそはフィフス王国の王太子リカルドなり!

 我と思わんものは掛かって来い、返り討ちにしてくれる!」


 殿下のこの口上をお聞きするのはもう何度目だろう。

 両手両足では足りないくらい聞いているはずだが、その度に強くなられる。

 最初は騎士隊長が前衛に出るのを止められていたが、今では何も言わない。

 余計な事を言ったら、せっかくの殿下の戦術を崩してしまうと、騎士隊長も我々もようやく認めることができるようになった。


「「「「「ブッぎゃ」」」」」


 一番槍と一番首の手柄に、殿下の首までついているのだ。

 愚かなオークやゴブリンは、ロードやジェネラルやチャンピオンが、先頭に立って襲いかかってくる。

 殿下の魔法攻撃は一度に三十頭の敵を斃すことができる。

 まさに瞬殺だった。

 総大将と幹部と中級指揮官が瞬殺されたら、後は背中を見せて敗走するだけだ。

 背中を見せた敵ほど簡単に斃せる相手はいない。


「前衛突撃、敵の釣り野伏せには気をつけろ」


 殿下の命を受けた前衛五十騎弱が一斉に追撃する。

 騎士達が経験を積み重ねて、少しずつレベルを上げているのが分かる。

 私とライラも交代で前衛となり、経験を稼がせてもらっている。

 今はライラが追撃に加わっている。


★★★★★★

 

「何か用かい、ローザ」


「申し訳ありません、殿下、考え事をしておりました」


「ローザらしくないね、気をつけないといけないよ。

 一瞬の油断が、自分だけでなく、仲間まで危険にさらしてしまうからね。

 ローザほどの猛者が集中を切らすようなら、一度撤退した方がいいな」


 顔から火が出そうなくらい恥ずかしい!

 無意識に考えごとをしながら殿下の顔を見つめてしまっていた。

 四六時中殿下の事を考えてしまって、胸がズキズキと痛んでる。

 これではまるで初恋の男に恋焦がれる乙女のようじゃないか。

 このままでは、殿下の盾となって背中を護る事などできない。

 村々を襲った魔王軍をほぼ撃退した後だからいいが、そうでなければ殿下の理想を邪魔する事になってしまう


「ああ、止めだ止めだ止めだ、今までの人生を恥じてもしかたがない」


 ライラが驚いた顔でこちらを見ているが、気にする余裕なんかない。

 このまま自分の過去を恥じて思い悩み、殿下を危険にさらすくらいなら、蔑まれて別の隊に配属された方がいい。

 うじうじ考えずに、娼婦のように殿下を誘って、玉砕した方が私らしい。

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