第13話:女騎士2・ライラ視点

「殿下、お逃げください、ここは私が支えます」


 私が決死の覚悟でそう口にした時には、その覚悟はもう不用になっていた。

 恥ずかしい事だが、既に強大な敵は皆殺しになっていた。

 殿下が急激に魔力を増大されているのは知っていたが、オークジェネラル一頭とオークチャンピオン八頭を瞬殺できるなんて、想像する奴などいるモノか。

 私だって平民傭兵から騎士に取立てられるくらいの実力者だ、人間の限界は嫌というほど理解している。


「ありがとうライラ、実際に主君のために命を差し出してくれる騎士が少ない事は、私自身がよく理解している。

 君を含めたここにいる騎士達こそ、本当の忠義の士だ」


「いえ、騎士として当然の事をしたまででございます。

 そこまでお褒め頂けると、むしろ恐縮致します」


 本当の王子というのが、ここまで気高い存在だとは思わなかった。

 傭兵として魔王軍と戦ったのは、単に褒美が高かったからで、決して理想のためなんかじゃない。

 長年の傭兵稼業で、王侯貴族の汚さは嫌というほど知っていた。

 金のために命を賭けたし、生き残るために身体も張った。

 必要なら女の武器も使って生き延びてきた。


「魔王軍を引き付けるために、王太子を名乗って目立つ動きをする。

 みんなに危険な役目を押し付けてしまうが、これも民を護るためだ。

 騎士の誇りを捨てることなく、最後まで戦い抜いて欲しい」


「「「「「おう!」」」」」


 名将に弱兵なしとはよく言ったものだ。

 殿下の騎士団には、腐った奴が一人もいない。

 農民を助けるために、平気で命を捨てて戦っている。

 いや、農民のためではなく、殿下のためなのだろうな。

 そうでなければ、ここまでやれるはずがない。

 私のような人間ですら、殿下のためなら命を捨ててもいいと思ってしまう。

 殿下に出会う前は、農民のために死のうとは思わなかったからな。


「ライラ、ローザ、頼んだぞ」


 騎士隊長が、殿下に聞こえないくらい小さな声で話しかけてくる。

 思わず苦笑を浮かべそうになってしまって、必死で抑える。

 隊長が言いたいのは、単に殿下を護れという意味じゃない。

 殿下を慰めてくれという謎かけだ。

 傭兵上がりの私とローザは、生き残るためなら女の武器も使ってきた。

 隊長はその事も知っているから、傷心の殿下を女の武器で慰めてくれという、言葉にできないお願いを込めている。


「そんな事を言われても、殿下が相手じゃあねぇ」


 ローザが困惑したように話しかけてくるが、その通りだ。

 今さら乙女を演じる気などないが、殿下が相手じゃ恥じらいが先に来る。

 私達のような血にまみれた穢れた身体を、殿下の目に晒すのはねぇ、流石に恥ずかしいんだよ。

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