第7話 救出

「キャプテンコスモ、救難信号の出ている大型貨物船を発見しました。

 残念ながら、すでにガバリン星系の海賊船に乗り込まれているようです。

 突入されるコスモ様、ティラミス様の両名は、面が割れぬよう、こちらにあるエグゾスーツを直ちにご装着ください」


 フィアナの指示に従い、俺は用意された大きなヘルメットの付いた黒いエグゾスーツを急いで装着し、ティラミス用の赤いエグゾスーツを着るのを手伝ってやる。


「ドラムロ様には専用のアーマーがありますし、真空でも問題が無いので、エグゾスーツの用意はしておりません。

 ジュリエッタ様とアルテイシア様はドラムロ様と共に、安全のためこちらの船に残るようご提案いたします」


 アルテイシアは残れというフィアナの言葉の意味を理解し、思わず眉をしかめた。

 ガバリン星系の海賊と言えば、宇宙一卑劣なあのゴブリオン達だからだ。

 自分はともかく、ジュリエッタ様だけは絶対に連れて行く訳にはいかない。


 ビッグアイ、俺はあの貨物船の内部が知りたい。超能力の使い方を俺に教えてくれ。 

 俺は貨物船の内部の様子が知りたくて、前宇宙帝王の力を借りることにした。

 銀河支配の目的のために、奴からいろいろと教えてもらう約束だからな。


(よし、コスモよ。貴様にこれから遠隔透視リモートビューイングの使い方を教えてやる。お前があの船の中に立って、周りを見ている自分をイメージするのだ。

 超能力で重要なことは想像力だ。

 イメージできるものは必ず実現できると信じろ。

 超能力発動において最も重要なことは信じる力なのだ!)


 俺は奴に言われたとおり、船の中に立つ自分を想像する。

 すると、大型貨物船の内部には、殺人光線キラービームの犠牲になった警備員らしき死体が多数、艦内の通路に転がっている光景が見えてきた。

 さらに様子を伺うと、通路の奥から両手を縛られた下着姿の美少女が、耳の長い赤肌の小男に連れられて来る様子が確認できる。


「親分〜っ、奥に隠れていたヒューマノイドの娘を見つけやしたぜ~。

 なかなかの上物でやんす」


 赤鬼族ゴブリオンの兵士が一人、両腕を縛った年若い少女を連れまわしながら、下卑た雄叫びをあげた。


「……いやああっ、離して! この汚らわしい人殺しどもっ!

 私をコーネリアス家の者と知っての狼藉か?」


 捕まった少女が気丈にも家名を名乗り、横暴な赤肌の暴漢者達に抵抗を試みる。

 その目は憎しみに燃えていたが、非力な少女の言葉は彼らの嗜虐心を刺激するだけで、それ以上の効果はなかった。


「……ほほう、こいつは特に反抗的なメスだな」


 親分と呼ばれた男は少女の顎を持ち上げながら、獲物を値踏みするように娘へと、いやらしい視線を送る。


「こ奴にはぜひとも、我ら赤鬼族ゴブリオンの優秀な遺伝子を注入し、その心根を正してやらねばならん……」


「……し、しかし親分、こいつが銀河警備隊のコーネリアス議長の家の者だとすると、厄介なことになりませんか?」


「……くくく、ボンズよ、心配はいらん。

 泣きわめくこのメスに、我々の優れた遺伝子を注入してやれば、すぐに我らに従い、我らを敬う気持ちを持つであろう。

 メスというモノは、優秀な遺伝子を求める為だけに存在する生物だからな。

 そしてすべての種族のメスに、我らの高貴なる遺伝子を注入する行為こそ、銀河最高民族である我らゴブリオンの崇高なる使命なのだ」


 少女が自分の家名にまったく動じない二人の赤鬼達の卑猥な目線を感じ、自分の無力さに絶望する。


「……流石は親分、学があるっす。言うことがカッコ良すぎるっす~。

 オイラは今まで女の穴に自分の槍を突き刺すこと以外、考えたことが無かったっす~」


 そう言って背の低い赤肌の小鬼が、親分と呼ぶガタイの大きい鬼の方を尊敬の眼差しで見つめる。


「よし、ボンズよ、お前には見所がある。

 遺伝子注入の儀式は年長者が優先する決まりではあるが、特別にお前の遺伝子を先に、この娘に注入することを許可しよう……」


「流石は親分っす。オイラは一生親分についていくっす~」


 舌舐めずりをしながら、ボンズと呼ばれた赤鬼は、抵抗する少女の下着を強引に引き剥がす。それにより、彼女の大事な秘所は表にさらけ出されることになった。


「いやあああああっ! あなた達、何をやっているのかわかってるの?

私に何かあれば、銀河警備隊が宇宙の果てまであなた達を追いかけ、必ず逮捕するんだからっ! 絶対に許さないからね!」


「ボンズ、今すぐこのクソ生意気な女へ、遺伝子注入の用意をしろっ。

 こやつだけは絶対に修正しなければならん」


「親分、オイラに任せて欲しいっす~」


「ちょっと、あなた達バカな真似は辞めなさいっ!

 今すぐ私を解放するというなら、私が銀河警備隊に、大量殺人者であるあなた達の助命を嘆願してあげることもできるのよ? 私にはそれだけの力があるんだから」


 だが彼女の言葉を聞いても、二人は少女の下半身を眺めながら、イヤらしい笑みを浮かべるだけで耳を貸そうとはしない。

 もはや下半身をさらした哀れな少女は、調理前のまな板の上の鯉にすぎないのだ。

 彼女を守るはずの船の警備員達は、彼らゴブリオン達によってすでに一人残らず全滅させられていた。


「キャプテンコスモ、貨物船への量子転送を行いますか?

 転送はいつでも可能です」


 ルナドロップ号の艦内に、フィアナの言葉が響く。


「……フィアナ、せっかくの申し出だが、向こうは一秒を争う緊急事態のようだ。

 俺が直接テレポートで乗り込むとしよう」


<ティラミス、お前はフィアナの転送で後からついて来い。

 艦内にいる敵のゴブリオンは数が多いかもしれないが、容赦せず全部処分しろ。

 下品な連中だ。お前を見れば興奮して襲ってくる可能性もある。

 皆殺しで構わん!>


<わかりましタ、カイザー様>


 時間が無いため、ティラミスには思考通話で指示を出す。

 俺は貨物船内を遠隔透視で覗き見たせいで、可哀想な美少女が赤鬼達から犯される寸前になっている状況をよく理解していた。

 ……おい、ビッグアイよ。

 彼女を救いたいが、どうすればいいか俺に教えてくれ?


(よし、コスモよ、瞬間移動テレポートのタイミングは余が行う。貴様は彼女の保護と赤鬼退治に専念しろ。

 使う超能力はエナジー衝撃波ショックウェイブがよかろう。電気による攻撃で相手を麻痺銃パラライザーのように一瞬で身動きできなくすることができる技だ。

 貴様は指先から電気が放電されるイメージをしろ。

 後は余がサポートする。

 あの赤いクズ共に慈悲は無用だが、ショックウェイブならば、万が一少女に当たる事故があっても、命を奪う危険はない。

 では急ぐぞ。

 彼女の大事な貞操が奪われる前に、助けなければ意味がないからな)


「フィアナ聞こえるか? 俺が飛んだのを確認してから、船の奥にティラミスを転送しろ! 死体の数からして奴らの仲間がまだ大勢残っている可能性がある。

 麻痺銃の威力は最大にするよう指示しておけ。すべての赤鬼達を掃除させるんだ。一匹も生かしておく必要はない」


「了解しました、キャプテンコスモ。

 そのようにティラミス様に指示いたします」


(……そろそろ危ない。コスモ、今から飛ぶぞ)


 ビッグアイの合図とともに俺の身体は宙に浮き、一瞬にして先程の赤鬼の後ろへと空間跳躍する。

 小柄な赤鬼は荒い息を吐きながら、すでに下履きを降ろし、赤い肉の槍をそそり立てて、彼女に差し入れようとする寸前だった。


「ショックウェイブ!」


 俺はビッグアイの指示通り、指先から電気を放電し、相手に浴びせるイメージをする。

 すると、俺の指先から稲妻のような放電が起き、小柄なほうの赤鬼は自らの肉棒をそそり立てたまま、身体を激しく痙攣させてから、仰向けにひっくり返った。


「おのれ、よくもボンズをっ!」


 もう一人の親分と呼ばれていた赤鬼が腰の殺人光線銃キラービームガンを引き抜くと、ためらいなく俺に向けて放った。

 だが俺の不滅肉体イモータルボディはそのような通常兵器では、傷一つつけることができない強固な防御力を誇っている。


「こ、この、化け物めっ!

 なんで倒れない!」


 至近距離から何回もトリガーを引く赤鬼は、俺に直撃した殺人光線を見ながら、なぜ効果がないのかわからず、混乱して冷や汗を流し始めた。

 

「俺を撃ったいうことは、撃たれる覚悟があるということだな……」

「ショックウェイブ! ハイパワー!」


 俺はあお向けになって口から泡を吹いている小柄な赤鬼と違い、殺意を向けたこの赤鬼に対して、ショックウェイブを先程の10倍ぐらいの威力でイメージしてみる。

 昼になったかと勘違いするほど、まわりが一瞬にして明るくなった。

 そして俺の衝撃波を食らった赤鬼は激しく痙攣し、立っていることもできずに両膝を地面について、俺を呪い殺さんばかりの目で睨むと、恨み言をこぼした。


「……お、のれえっ…… 

 我らゴブリオンに逆らう、愚か者よ……

 お前の人生は、もう終わりだ……

 逃げたとしても、宇宙の果てまでお前を探し出し、

 殺してくれと…… 泣いて頼むような拷問をしてから、

 なぶり殺しに、してくれる……」


「……そうか。

 俺はそんなのは嫌だから、その芽をここで潰しておこう」


 俺は殺人キルに設定された熱線銃ブラスターを腰から抜き、大口を叩く赤鬼に対し、素早く引き金を引いた。

 銃から発射された光線が赤鬼の胸に当たると、赤鬼の心臓は止まり、一瞬にして絶命する。

 そのまま涎を垂れ流しながら、頭から床に崩れ落ち、背中のマントがベールのように頭を覆い隠した。


「お、おやぶ~ん!」


 仰向けになっている赤鬼が、横目で倒れる上司を見て悲しそうに絶叫する。

 だが、コスモの放ったショックウェイブの麻痺で、声を出すことはできても、身体を動かすことはできなかった。


「大丈夫ですか? お嬢さん」


 とりあえずの危機は去ったとみた俺は、どうみても大丈夫ではない少女を安心させる為、一言、声をかけることにした。

 彼女の一番の危機である貞操の危機からは救ったのだから、辱められたと言っても致命傷ではないはずだ。


「このような格好でごめんなさい。

 どなたかは存じませんが、私を助けてくださってありがとうございます。

 見たところ、トラベラーの方のようですが、銀河警備隊から何か依頼があったのでしょうか?」


 彼女は恩人の男性に秘所を晒しているのが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にし、足を閉じて、縛られた両手で必死に股間を隠そうとする。

 とはいえ、俺にはすでに細部まで見えてしまった後だったのだが。

 この宇宙帝王の視力はどうやら5.0ぐらいあるらしい。

 俺は思わず、間近で見るように彼女の秘所を詳しく観察してしまった。

 エグゾスーツのヘルメットで顔が隠れていなければ、ガン見したのがバレて、

人として終わりだった。

 だが、なんせ俺にとっては初めての女性器なのだ。

 ついどうなっているのか、観察したくなるのも無理はない。

 これが童貞オタクの悲しいさがというものだった。


(おいっ、コスモよ。さすがに助ける少女に対し、そういう行いは帝王にあるまじき所作だと思うが?)


 俺はビッグアイの指摘に対し、言い返すことができない。

 だが写真や映像ではない初めての本物のアレなのだ。

 恥ずべき行為とわかっていても、観察しないという選択肢は選べなかった。


(……仕方がないな。どうしてもアレに興味があるというのなら、アルテイシアかティラミスあたりにでもワシから頼んでやろうか? 彼女達も宇宙帝王の望みとあれば、おそらく喜んで協力してくれるだろう……)


 や、やめろ、ビッグアイ。

 そんなことをされたら帝王の矜持は保たれても、俺の男としての尊厳が地に落ちる。

 そんな他人にお願いして見せてもらうなど、俺の誇りが許さない。

 童貞には童貞なりの誇りというものがあるのだ。


(そうか、それでは彼女を辱めるような行為は二度とせんでくれ)


 わかってるよ。俺はビッグアイにそう返事をすると、先程の赤鬼の着ていたマントを根元から引きちぎり下着姿の彼女の身体にかけてやる。


 ついでにお礼を言う彼女の両手を縛っていた紐も、軽く力を入れて簡単に引きちぎった。

 彼女の両手が自由になると、恥ずかしそうに渡されたマントで急ぎ身体を隠す。

 

「ありがとうございます。

 もしよろしければ、あなた様のお名前を聞かせていただけませんか?

 こうみえても、私はそれなりの家柄の者です。

 何か恩返しをすることが、できるかもしれません」


「そうですか。まあ名乗るほどの者ではないのですが、俺のトラベラーランクはDクラス、名前はコスモ。

 コスモ・カイザーです、お嬢さん」


 その恩返しというものを大いに期待している俺は、計画どおり彼女に、フィアナが作ってくれた銀河探索者トラベラーネームを伝える。


「コスモ・カイザー様……

 素敵なお名前ですわ。

 申し遅れましたが、私の名前はエリス・コーネリアス。

 祖母は中央連邦議会議員の銀河警備隊最高議長、クリスタニア・コーネリアス。

 父は銀河警備隊に所属するアスカ・コーネリアス。

 すでにタリスマン保持者の特務一佐です」


(う~む、なんたる奇縁。この娘はアスランの孫娘ではないか)


 そうか、なら余計に都合がいい。

 俺の最大の敵は銀河警備隊、そしておそらくサマリア人だ。

 この二つ以外の敵は俺が恐れるに足らない。

 俺の計画では、この二つと敵対関係にならずに、いかに目立たず銀河の支配を行うかが重要なのだ。


「エリス殿、この艦の艦長もしくは責任者はまだご存命だろうか?

 できれば相談したいことがあるのだが?」


「メイン艦橋が破られていなければ、おそらく存命だと思いますが、お二人のいる艦橋の近くはゴブリオンの兵士たちが大量に占拠していると思われます。

 近づくのは危険です」


<フィアナ、この艦のメイン艦橋の位置は特定できるか?>


 俺はエリスに悟られぬよう思考通話でフィアナとの連絡を取る。


<はい、そうおっしゃられると思って、すでに場所は特定してあります>


<流石はフィアナだ、仕事が早い。

 ではティラミスに命じて、艦橋前を掃除させておいてくれ。

 今からそこへ向かう。指示を頼む>


<もうティラミス様は、すでに掃討に入っております。

 おそらくキャプテンコスモが到着する頃には、ほとんどの敵が片付いているでしょう。

 ではキャプテンコスモは、その廊下を50メートルほど前にお進みください>


「エリス殿、俺は艦橋に向かうが、君はどうするか?」


「コスモ様が守ってくださるなら、一緒に行きたいと思います。

 艦長は私の叔父ですし、たどり着ければおそらくここより安全です」


「では行く前に、残ったこの赤いクズをどうするかだな。 

 何か君がこいつに聞きたいことはあるか?

 無ければ処分していこうと思うが?」


「ありません、コスモ様。

 この卑劣な生物は、私の護衛を殺し、私を傷物にしようとしたおぞましい奴らです。

 どうかコスモ様の手で処分してください」


「そうか、ならばこいつは必要ない」

 

 俺は先程のブラスターで、醜いイチモツを立たせているゴブリオンを容赦なく撃った。

 ゴブリオンは悲鳴を上げる間もなく絶命する。


「見るのもおぞましい……」


「よし、それでは艦橋に向かおう。

 エリス殿は安全の為、俺の後ろに隠れるんだ。

 俺のエクゾスーツには防御シールドが施されている。

 気にせず、俺を盾にして構わない」


「……は、はい。コスモ様」


 エリスは頬を染め、身を隠すように俺の背中に張り付いた。

 このエクゾスーツに防御シールドがあるのは確かだが、残念ながら、殺人光線を防ぐ機能はついていない。

 しかし、素人の彼女にはそこまではわからないだろう。

 

〈フィアナ、艦橋に向かう途中に、女性用の服が手に入る場所はあるか?〉


 思考通話でフィアナに連絡する。

 叔父とはいえ、年頃の少女が裸に近い格好で会うのは抵抗があるはずだ。

 メイン艦橋に着く前に彼女の服を調達する必要がある。


〈キャプテンコスモ、宇宙服の保管庫ならありますが、女性用の服となるとちょっと……

 彼女の部屋に取りに行くのが一番かと思いますが?〉


 彼女の私服姿も見てみたいが、宇宙服を着せておいたほうが何かあった時には安全か。

 俺は少し判断に迷った後、自分の希望よりも安全性を優先することにした。


〈フィアナ、では宇宙服の保管庫に案内しろ〉


〈はい、キャプテンコスモ。

 ではその廊下を50メートル進み、右に曲がってください〉


 フィアナからの指示どおりに、俺はエリスを庇いつつ宇宙服の場所を目指し、廊下を歩き始めた。


 

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宇宙帝王物語 ~美少女と帝国~ みこがみ明 @mikogami2020

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