第6話 シックスダイアモンド
爆発のような衝撃音の後、艦内に光が灯る。
この強烈な目覚まし時計の音で、俺は意識を取り戻した。
座席に付いたチューブ状の安全ベルトが風船のように膨らみ、虚無空間からの脱出の際の衝撃を吸収する。
宇宙帝王の肉体を持つ俺にとって、どうということはない衝撃だが、何度やってもあまり気持ちのいいものではない。
「……虚無空間加速ドライブ終了。
現在マスターユニバース号は、予定どおりヤーマン星域に入りました。
これより亜光速で、惑星サガを目指します」
フィアナが正面前方の操縦席より、ちょうど10回目のジャンプを報告する。
このヤーマン星域は俺のいた地球から約7800光年。
中央銀河連邦に所属する星系の中でも、最も端にある星域であるらしい。
「うええっ…… 」
膨らんだ安全ベルトの中で、ティラミスが具合の悪そうな顔をする。
人間より敏感な知覚力を持つ彼女にとって、虚無空間から通常空間に出る時の変化は慣れることができない不快な感覚らしい。
「まったく、コスモ様の前でだらしないわね。
それでは
ベルトを外し、さっそうと立ったアルテイシアが平気な顔でティラミスを見下し、冷酷に言い放つ。
「そういうな、アルテイシアよ。
これだけ連続で虚無空間加速ドライブをすれば、ワシとて流石に堪えるわ……」
アルテイシアの隣に座っているジュリエッタも、疲れた表情でティラミスを擁護した。
「……ジュリエッタ様。
ティラミスを甘やかしてはいけませんわ。
こういう時に敵が来たらどうするのですか」
「アモントート殿、心配御無用。
その為にこそ、拙者が控えておるのでござる」
「そうね、ティラミスが使えなくても、ドラムロ様がいれば何も問題はないわね」
役立たずといった表情で見下すアルテイシアを、ティラミスが言い返せず悔しそうに睨む。
「アルテイシアよ、そこまでにしておけ。
ファイブアイズのメンバーへの侮辱は、余への侮辱でもある」
「カイザーしゃま……」
ティラミスが俺をまるで救世主であるかのように熱い眼差しで見つめ、安全ベルトを手早く外すと、両手で抱きついてくる。
以前はこのゴリラ女のバカ力は恐怖の対象でしかなかったが、この宇宙帝王の肉体はこの猫娘の怪力をまさに子猫を扱うように、簡単に制御できるのであった。
その為、俺はこの猫娘が押し付けてくる二つの柔らかな感触を楽しむ余裕すらできていた。
「ちょっとあなた、ドサクサに紛れてコスモ様に抱きつくなんて、何をやっていますの! すぐに離れなさい!」
ティラミスの行為を見て、アルテイシアの表情が余計に不機嫌になる。
「マスターコスモ様、惑星サガに向かう途中で、救難信号を確認しました。
如何致しましょうか?
どうやら、貨物船が海賊船に襲われているようです」
「よし、フィアナ。すぐに救出へ向かえ!
ただし、この戦艦の艦籍がバレぬよう隠蔽障壁を使いつつ、強行偵察艦を繰り出すのだ。
余の計画には商人達の信用を得ることが必要条件だ。
宇宙海賊など、どうせクズ共だ。
全員殺しても構わん」
「了解しました。
ではコスモ様の仰せのとおりに、マスターユニバース号は人工知能のシズクに任せて、我々はルナドロップ号に乗って、ポジトロンランチャーで海賊共を蜂の巣にいたしましょう」
「コスモ様、偵察艦の発進は少々お待ち下さい。
今から中央銀河連邦ネットワークをハッキングし、
直ちに、全員分のトラベラー協会の会員証を新規に発行いたします。
以前の名前でそのまま登録しますと、こちらの正体が疑われる可能性がありますので、不敬ではありますが、こちらで名前を少し変更いたします」
「よし、フィアナお前の好きにしろ! すべての判断はお前に任せる!」
俺としてはカッコ悪いが、現場のことは現場に任せた方が上手くいくことが多いんだ。
俺は余計な口を出さないようにしよう。
そう思い、ロボットのフィアナの判断に全てを任せることにした。
「コスモ様、お任せいただき、ありがとうございます。
残念ながら、皆様の実力には釣り合いませんが、初心者のトラベラー協会ランクはD級からのスタートが慣例となっております。
コスモ様の名前は、そのままコスモ・カイザー、ジュリエッタ様は、ジュリエッタ・アルファ、ワタシはフィアナ・オート、アルテイシア様は、アルテイシア・アモンドール、ティラミス様は、ティラミス・パンドーラ、ドラムロ様は、ドラムロ・バトリングと、名前を一部変更して登録いたします。
キャプテンコスモ様、後は6人のチーム名をお決めください。
トラベラーのグループはチーム名を持っているのが一般的です。
それで、ここにいる6人の完璧なトラベラー協会身分証が造れるでしょう。
我々が貨物船に乗り込んだとしても、何も問題は起き無いはずです」
「6人のチーム名か?
フィアナ、シックスアイズというのはどうだろうか?」
急に振られて困った俺は単純に考えた。
どうもいかんな、発想がビッグアイの奴と大差無い。
「……キャプテンコスモ、恐れながら申し上げます。
たいへん良い名前ですが、その名前だと、カンの良い人間に帝王親衛隊であるファイブアイズとの関連を疑われる可能性があります……」
「どうしたフィアナ? 何故急に俺を
「トラベラー同士のグループでは、一般的にリーダーはキャプテンと呼ぶのが習わしになっております。これは疑われない為の用心です」
「……流石はフィアナだな。芸が細かい。
優秀な部下を持って俺は嬉しいぞ。
ついでにチーム名も考えてみてくれないか?」
「ワタシがチーム名をでしょうか?
そうですね。では僭越ながら提案いたします。
シックスアイズでは怪しまれるので、シックスダイアモンドという名前では如何でしょう?」
「おお、良いじゃないか。シックスダイアモンド。
チーム名はそれで行こう。皆も良いな?」
「御意!」
全員が宇宙帝王に平伏する。
「それではこの艦橋ごと、強行偵察艦ルナドロップ号へと移動いたします。
皆様には着席と安全ベルトの装着をお願いいたします」
フィアナの発言と共に、艦橋が沈み込み、景色が変わっていく。
数分後、大きな音と共に、俺達は艦橋ごと移動したルナドロップ号に乗り込んでいた。
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