第5話 記憶
約10万光年に広がる天の川銀河。
この宇宙には百度を越える熱砂の惑星、氷雪嵐の吹きすさぶ氷の惑星、山ほどもある巨大な植物の生い茂った緑の惑星や、水に覆われた青い惑星など多種多様な惑星が存在している。
俺の名は宇宙帝王ビッグアイ。
この宇宙を縦横無尽に駆け抜けるスーパーマンだ。
宇宙怪獣、
そして俺には信頼できる五人の部下達がいる。
アルテイシア、ティラミス、ジュリエッタ、フィアナ、そしてドラムロ。
いつも素晴らしい働きでサポートしてくれる大切な仲間だ。
ただ五人の中でもGカップの胸を誇る金髪の娘アルテイシアは、ちょっと注意が必要な相手だった。
困ったことに、隙あらば上司の俺に迫ってくるのだ。
あの胸の大きさで迫って来られると、銀系系一の紳士であるこの俺ですら、その魅力に抗うのは難しい。
だが幸い、いつも褐色の娘ティラミスが俺の危機を察して、アルテイシアの誘惑から助けてくれるのだ。
そのせいで、二人はいつも喧嘩ばかりしているのだが。
すべては俺の魅力のせいだ。
皆には申し訳なく思う。
あの一見、堅物そうなジュリエッタでさえ、二人きりになると途端に俺に甘えてくる始末である。
やれやれ、いくら俺が無敵の宇宙帝王とはいえ、この三人を満足させるのは
だがこの宇宙帝王に不可能という三文字は無い。
(……おいコスモ、いつまで寝ている?
早く目を覚ませ)
ん…… 誰だ俺を呼ぶのは?
俺はこれから三人を満足させるという重要な仕事が……
(何が重要な仕事だ、このスケベ猿め。
いいかげんにしろ。
余だ、ビッグアイだ)
何だよもう……
せっかくの良い夢なんだから邪魔しないでくれよ……
……ちょっと待てビッグアイだって?
それはこの俺の名前だ。
お前こそ誰だ?
(その通りだコスモ。
貴様が今はビッグアイだ。
余は正確には、かってビッグアイと呼ばれていた者の記憶だ)
ビッグアイの記憶?
その
まるでスマホの電話帖保管サービスだな。
(スマホの電話帖保管サービスだと?
そんなくだらないものではない。
……原理的には似たようなモノだがな。
余の肉体は偉大なるエルダール人が個の尊厳を守る目的のために創りだしたものだ。
その目的達成の為に、この肉体はとても頑丈にできている。
いくら物理的に破壊されても、何度でも再生するのだ。
だがタリスマンの暴走だけは例外だった。
肉体は再生できたものの、精神体は再生できずに消去されてしまった。
おかげで
正直、自らの力を過信し、最後に油断してしまったせいだな。
ただ神に感謝すべきは、最上級のタリスマンの力をもってしても、余の精神体を完全には破壊できなかったということだろう……それだけは神が許さなかったようだ)
……ビッグアイ、お前は神の存在を信じているのか?
(もちろん信じているさ。
ただし神は、普通の人間が思うような感情を持った存在とは違う。
どちらかというと管理者と言った方が正確だ。
サマリア人や彼らと袂を分かったエルダール人とも違う。
二つの種族は神にも等しい力を持っているが、この宇宙の法則を作った本人ではない。
重力、磁気力、大きな力、小さな力など、この宇宙の
それが余の定義する神だ。
我々の
その神が余の精神体を再生して、貴様のいた惑星に飛ばしたという訳だ。
だから神がいなければ、今こうしてお前とも出会えてはおらん)
神のおかげで俺が地球に転生できたってわけか?
……すべては神の思し召しだった訳だ。
しかし話を聞くと、お前を殺したタリスマンってのは危険な代物だな。
あれはいったいどういう物なんだ?
(タリスマンの機能についてはよく知られていない。
機能については実際に使っている銀河警備隊の方が、余よりも詳しいだろう。
いつから存在するのかわからない謎の宝石だが、サマリア人が思考水晶を加工して創り出し、銀河警備隊に与えたモノだと言われている。
わかっているのはタリスマンはサマリア人の与えた意思を持っていて、望まれない所有者が持つことは不可能だということだ。
また宇宙一硬くて、その表面にすら傷一つ付けることはできない。
所有者は余のような超能力を使えるようになるらしいが、その能力もどういうものかは決まってはいない。
余とて実際に何度も手に入れたが、しばらくするとアレは煙のように消えるか、自ら崩壊してしまうのだ。
だからろくに研究することもできず、その資料もほとんどない)
タリスマンに関しては、銀河警備隊の所有者に聞くしかないかもな……
俺が話かけた途端、彼らから敵として攻撃されそうだが。
そういや寝ている間にお前の記憶を垣間見たが、なんでアスランってやつとの決闘にこだわったんだ。
そのために死んだようなものだろ。
宇宙帝王と言う立場にしては、少し迂闊だったんじゃないか?
(……そうだな。
余の身体を引き継ぐ貴様には聞いてもらおうか。
実は奴には逆恨みされていてな。
奴は余のことを家族の仇と思って付け回しておったようだが、奴の両親が死んだのは余の責任ではない。
それはアスランが住んでいた惑星テキサタリスの大統領の
あれは余とは関係のない陰謀だった。
汚職がばれて失職しそうになったテキサタリスの大統領が、それを誤魔化すために帝国艦に偽装した戦艦に自分の星を攻撃させたのだよ。
自分を追い落とそうとする大統領候補を殺し、戦時態勢ということで選挙無しに任期を伸ばす目的でな。
しかも候補者を狙ったと疑われぬよう、ご丁寧にあちこちの街が犠牲になった。
その際に運悪く奴の両親と弟も巻き込まれたというわけだ)
それは気の毒にな。
だったら彼にそのことを説明すれば良かったんじゃないのか?
(無論、口頭ではやったさ。
だが親の仇からそう言われて、はいそうですか、なんて聞く奴がいると思うか?
あの事件は証拠隠滅がひどくてな。
余の力でも決定的な証拠が手に入らなかった。
しかもあの大統領、自国民をあれだけ殺しといて、その後にのうのうと反帝国主義を掲げて、自由と平等のために死ぬまで戦おうとか言いだしたんだ。
自分は任期無制限の戦時大統領として居座るためにな。
それから後の都合の悪いことは、ぜ~んぶ帝国のせいさ。
おかげで余はあの星では宇宙史に残る大悪党にされてしまった。
大統領の狂気じみた反帝国教育のせいで、あそこは銀河連邦でも有数の反乱思想の拠点になったんだ。
奴は悪党の大統領に、そういう反帝国教育を刷り込まれたのさ。
……ひどい話だな。
まあ似たようなことは、俺のいた地球でもあったと思うよ。
(その後、余の帝国軍はテキサタリスを一万隻の艦隊で包囲して降伏を勧告した。
余は戦う前に、必ず降伏勧告を行うことにしている。
誰にでも死ぬ前に宇宙帝王に忠誠を誓うチャンスは与えられるべきだからな。
寛容さとは強者だけが持つことを許された特権なのだ。
勝ち目のない大統領は亡命と引き換えに、すぐに全面降伏を受諾した。
そして静止衛星軌道上での調印式に向かう途中、奴の乗った船が突然爆発した。
原因は太陽炉の暴走ということになっているがな。
おそらく反帝国主義者の副大統領が自分のボスを殺ったという話さ。
副大統領は帝国の卑怯な策略と触れ込み、大統領代理として徹底抗戦を訴えた。
おかげで戦争に疲れていた国民もまた戦うはめになってな。
地上戦では多数の死者がでた。
ほとんどはテキサタリス側の人間だが。
劣勢のテキサタリス側は子供に爆弾を持たせるわ、食料に毒を混ぜるわ、味方ごと化学兵器を使うわ、とやりたい放題やってな。
あまりに多く現地人が犠牲になったので、余はあの星の占領を放棄したんだ)
……また謀殺かよ?
テキサタリスの政治家にはロクなやつがいねえな。
(その後余は、大気圏から大きな基地や宇宙船をひとしきり破壊してから、主力の艦隊を撤退させた。
そしてテキサタリスの帝国への編入はあきらめ、代わりに宇宙封鎖を行うことにした。
百隻だけの艦隊を残し、連絡なしに宇宙に上がってくるものを片端から落として宇宙に出れなくした。
連絡のあった一部の生活に必要な商船と難民船だけは臨検の上、通過させたがな。
あの時の難民船にまだ若いアスランが乗っていたのが、余にとっては皮肉な結果になってしまったが。
通信傍受や地上の工作員からの情報によってわかったことだが、他星との貿易がほとんど止まったテキサタリスの経済はそれはひどいものになったらしい。
余が何もせずとも、地上では暴動や内乱が十年以上も続いた。
副大統領が病気で死んで、その息子がその後を引き継いだが、護衛していた軍の若い将校にそいつが殺されて、ようやくこの戦乱は終結した。
その将校はすぐに臨時革命政府を創って、テキサタリスの帝国への編入を願い出たからな。
無論、その報告を聞いた余はすぐに許可した。
その後すぐ食料と薬の援助、インフラの整備、治安の回復のために帝国軍も常駐させた。
反帝国教育に染まった連中から、ずいぶんと嫌がらせはあったようだがな。
おかげで市民はずいぶんとマシな生活になったはずだ。
人口調査をしたら最盛期に40億いたはずの人口は、なんと8億近くまで減っていたんだ。
20年弱の戦争で人口がわずか5分の1だ。
余が思うに自由や平等を口にする奴の最大の問題は、その理想のためなら人々の犠牲を問わないということだな。
理想の為に大勢の人間が死んだり不幸になるというなら、余には何のための理想なのかわからんがね。
そういうわけで、アスランに関してはかなり同情の気持ちがあったというわけだ。
銀河支配という大義を忘れて、最後に奴と一対一で決着をつけようなどと、余も勝利の美学にこだわりすぎたがな。
貴様は余のような失敗は絶対にしてはならん)
……まるで某G映画に出てくる赤い人みたいだな。
俺も気をつけることにしよう。
だがおかげで、お前が通り一遍の悪い奴ではないことがわかって安心したよ。
(そう思ってもらえるとありがたい。
ならば、ここからが本題だ。
コスモよ、貴様には余の頼みをひとつだけ聞いてもらいたい。
そうすれば余の知識、肉体の使い方、そのすべてを貴様に教えよう)
そりゃあ、ありがたい申し出だ。
なんせ俺は昨日までは、妄想だけが得意のただのオタク青年だったからな。
俺が宇宙帝王として振舞うには、何もかもが足りない。
で、なんだよ俺への頼みって?
お前を殺せってのは無しだぜ。
(馬鹿者、余はすでに死んでおるわ。
余の願いとは、この天の川銀河の支配者になることだ。
それこそがエルダール人により託された余の存在意義でもある。
そうでなければ、この宇宙帝王という名が泣くというものではないか?)
銀河の支配者を目指せか……
そりゃまた雲をつかむような大きな話だな。
ただお前の話を聞く限り、軍事的な制圧は難しそうだ。
俺もなるべく人殺しは避けたいからな。
だから実質の支配者を目指すということでも構わないか?
(実質でも名目でも構わんさ。
とにかくこの不滅の肉体にもひとつだけ縛りがあってな。
この銀河の支配を目指し続けないと、肉体の機能が停止するようになっておるんだ。
この肉体はエルダール人が、サマリア人の理想とする統一社会を防ぐ目的のために造ったものでもある。だからこそ銀河支配を行なうことでエルダール人の正しさを証明せねばならない訳だ。
証明とは…… 厄介な縛りだ。ではその支配を目指すのに、時間の制約とかはあるのか?
百年以内にとか?
(安心しろ、そんなものは無い。
あくまでお前の意思が銀河の支配を求め続けていればよい。
そうすればお前は、この肉体のすべての力を利用できるだろう。
実際、余も銀河の四分の三を支配下に置くのに三百年近くかかっておる。
あと百年もあれば、成し遂げたとは思うがな。後もし困ったことがあれば、惑星サガに行け。あそこにはエルダール人の遺跡がある。だがこの情報は秘密にしろ。
特に銀河警備隊に知られると厄介だ。)
……そうか、では最後にもうひとつ。
銀河の支配者となった後は俺はどうすればいい?
目標達成と共に機能停止というのでは割に合わないぞ。
(それも安心しろ。
組織というのは造るよりも維持する方がたいへんなんだ。
銀河の支配を成し遂げても、その途端に支配の綻びが始まる。
お前はある意味、永遠に帝国を補修し続けることになる)
そうか、ならば条件はすべてクリアーした。
俺の思うやり方で良ければ、その願い引き受けよう。
(おお、さすがは我が転生者。
ならば今から貴様は宇宙帝王、コスモカイザーと名乗るがいい)
おいおい、それじゃあそのまんまじゃないか。
ビッグアイといい、お前の名前のセンスはちょっと問題ありだ。
だがまあいいか、俺の元の名前もコスモだしな。
俺は奴の提案にうなづいた。
(コスモカイザーよ、それではこの肉体を起動するぞ。
驚くなよ、貴様の元の肉体とは
親衛隊の五人も貴様の帰還を首を長くして待っておるだろう。
彼らのこともよろしく頼む。
皆、余の野望に最後まで付いて来てくれた可愛い部下達だ……)
その言葉が終わると、カプセルの蓋がゆっくりと開いていく。
今日から俺は、
俺は背中の黒いマントをなびかせながら、幾何学模様の描かれた床へゆっくりと足を下ろした。
「お屋形様の御帰還おめでとうございまする。
我ら
五人の部下が平伏して俺の復活を歓迎している。
もう俺には翻訳機無しに、はっきりとジュリエッタの声が日本語で理解できる。
この肉体は彼らの話す宇宙語を完全に理解しているようだ。
隣のカプセルで目を閉じたままの元の身体を見て、俺は後戻りできない状況を改めて認識した。
「ジュリエッタよ、俺の以前の身体はそのまま丁重に保存しておけ。
たいした機能が無いとはいえ、俺にとっては思い入れのある身体だ。
傷ひとつつけてはならん」
俺は宇宙帝王らしい振る舞いで臣下に下知を下す。
「御意。その御神体、万全をもって保管いたします」
平伏したまま、中央の姫巫女が厳かに答える。
「皆の者、大儀であった。
では
「ははっ!!」
全員が俺の指示で一斉に起ちあがり、崇拝の対象を見つめる。
「まず最初に俺から礼を言いたい。
皆は俺を見つけるのに、さぞや苦労したことと思う。
心からそなた達の忠義に感謝する」
そう言って俺は彼らに深々と頭を下げた。
彼らへの感謝をあらわすには、そうするしか無いと思ったからだ。
「お、お屋形様が…… 臣下たる我らに頭を垂れるなど…… 」
まるで主君が頭を下げるところを、初めて見たと言わんばかりにジュリエッタが動揺する。
「あ、あまりにもったいない仕儀、どうか、どうか頭を上げてくだされ……」
ジュリエッタは両目を見開き涙を流しながら、震える声で宇宙帝王に懇願した。
隣に並ぶ金髪の悪魔娘も、同様に両目を光らせ唇を噛み締めている。
あの能天気な猫耳娘のティラミスですら、号泣している有様だった。
ロボットのフィアナも、ゴーレムのドラムロも涙腺があれば涙を流しただろうが、彼らは黙ったまま、今は僅かに身体を震わせるのみである。
俺はひとしきり頭を下げた後、彼女の望み通り元の位置へと戻す。
「さて皆には苦労をかけたと思うが、残念ながら俺の夢をまだ果たしてはおらん。
俺の一時的な死により、300年に及ぶ銀河支配計画はほとんど白紙に戻ってしまった。
だからもう一度尋ねたい。
俺のために皆の力を貸してもらえるか?」
向き直った後、俺は静かにその言葉を口にした。
「ははっ! 我らの力、すべてビッグアイ様のために!」
俺の問いを聞くや否や、五人は全員が右手を胸に当て、大声で合唱する。
あ〜そうか、彼らの中ではまだ俺はビッグアイだった。
感動の場面で大変言いづらいが、そこは修正しておかないとな。
「いや皆の者には突然で済まないが、俺の事をビッグアイと呼ぶのは辞めてもらいたい」
俺の放った言葉が、全員に驚きと緊張感を走らせる。
衝撃のあまり、ジュリエッタも口を半開きにしたまま、どう答えていいかわからない様子だ。
「そ、それではいったい陛下を何とお呼びすれば……」
思わず目を丸くしていたアルテイシアが、皆の代わりに疑問を口にした。
「今日より俺は生まれ変わったのだ。
故に俺の名をコスモ、これからはコスモカイザーと呼んでもらいたい」
俺は奴に付けてもらったコスモカイザーを、そのまま名乗ることにした。
仮にも前宇宙帝王の意志を疎かにする訳にはいかないだろう。
「ははっ、お屋形様の仰せのとおりに。
これからは皆でコスモカイザー様とお呼びいたしまする。
皆の者、よいな?」
「御意!!」
「皆の心配りに感謝する。
……だが、コスモカイザーでは少し長いかもしれんな。
よし、短く呼びたい者はコスモ様と呼んでも構わん」
俺は元の自分の名前で呼んでもらえるよう、密かに画策する。
「せっかくの提案ではございますが、お屋形様の名前を省略するのは流石に不敬かと……」
ジュリエッタが俺の提案に難色を示してきた。
「……じゃあボクはお言葉に甘えて、カイザー様って呼んでもいいですか?」
そこへお気楽なティラミスが俺の希望とは違う提案をしてくる。
俺の意図とは違うが、それを否定しては宇宙帝王の器が小さいと思われかねない。
「構わんティラミス、貴様がそう呼びたければそう呼ぶがいい」
「ありがとうございます、カイザーさま」
ティラミスが早速、俺のことをカイザーさまと嬉しそうに呼んだ。
「そう、それではわたくしは陛下のご提案通り、コスモ様とお呼びいたしますわ」
ティラミスへ対抗するように、アルテイシアがそう言い放つ。
いいぞ、流石はGカップ。
俺の意図を読んでくれたか。
「な、何をお主らは言っておるのじゃ。
お屋形様の名前を省略するのは不敬であると申したであろうが。
すぐに改めよ」
いつになく厳しい表情のジュリエッタが二人に命令する。
「ジュリエッタよ、構わぬ。
他でもない、親衛隊の其方達だからこそ略称を許したのだ。
これは俺からの親愛の情だと思ってくれ」
「そんな、親愛の情などと……
何ともったいないお言葉……
そのお気持ちだけで、ジュリエッタには充分でございます」
姫巫女は何を思ったのか、顔を真っ赤にして一人平伏する。
「じゃあカイザー様って呼んでもいいよね?」
「わたくしもコスモ様と呼ばせていただきますわ」
「二人とも、くれぐれもお屋形様のご好意を無下にせぬよう……」
ジュリエッタは床に顔を伏せたまま、二人にゆっくりと念を押した。
「……拙者はやはり、コスモカイザー様とお呼びしとうござる。
ジュリエッタ殿の言われるよう、主人の名前を省略などできませぬ」
横に控えたまま、ようやく黙っていたドラムロが口を開く。
「ワタシはアルテイシア様同様、コスモ様と呼ばせていただきます。
最初にお会いした時のお名前が同じでしたので、とても親近感が湧く素敵な呼び方ですから」
同じく控えていたフィアナも、かしこまってそう答えた。
「よし、これからは皆の呼びたい名前で俺を呼ぶがいい。
異論は許さぬ、よいな」
「ははっ!」
全員が起立して承諾する。
「それでは早速ではあるが、これからの方針を決めねばならん。
誰か意見のある者はおるか?」
正直、奴に託された銀河支配に対して俺なりの構想はあるが、それを語る前にまずは皆の意見を聞いてからだ。
でなければ、この忠誠心の厚すぎる連中は俺の意見に賛同するだけで、とても有意義な意見は出て来ないだろう。
「それではコスモ様。
まずは我々の現状をご説明したいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「最初はフィアナか、よし意見を申してみよ」
「かしこまりました。
ではまず太陽系第三惑星のあるこの場所ですが、ここは銀河の中心部から約26400光年、そして中央銀河連邦議会があるアメリア星域からは約2万7800光年の位置にあります。
銀河連邦に所属する星系の中で最も近いヤーマン星域ですら、約6900光年の距離があります。
ワタシの意見としては、ここからまずヤーマン星域に飛び、そこで情報を収集することを提案します。
我々がこの辺境でマスターを見つけるまでに、銀河連邦星域を離れて十年以上が経過しております。
まずは今の銀河連邦がどのような状態にあるのかを知ることが、銀河系征服再始動の足がかりになるのではないでしょうか?」
「うむ、フィアナの言う通りだ。
よく説明してくれた。
では他に意見のある者はいないか?」
俺がそう言うと、皆は黙って考えこんでしまう。
会議でよく起きるパターンだ。
ティラミスだけは明らかに考えるのを放棄している表情だが。
「アルテイシア、そなたはどう思うか?」
俺は知能指数200を誇るという、この金髪の悪魔娘の意見が聞きたかったので、彼女に質問を振ってみた。
アルテイシアが急に質問を振られて動揺する。
そしてしばらく考えこんでから、言葉を口にした。
「はい、コスモ様。
それではフィアナの意見に補足いたしますわ。
約38年前、陛下の崩御により銀河帝国は反乱が相次ぎ、僅か一年でほとんどの属国が独立いたしましたの。
残念ながら崩御されたと思われている陛下以外の五人とこの船は、中央銀河連邦議会から多額の賞金をかけられ、今はお尋ね者になっておりますわ
普通にヤーマン星域に戻ったのでは、通報され戦闘になる可能性が高くなります」
「……それは問題だな。
アルテイシア、何か回避する方法はないのか?」
「もちろん、ございますわ。
敵艦登録されているこの艦を隠蔽障壁でどこかの星に隠し、艦載機の強行偵察艦を使いますの。
偵察艦なら偽装されていますから、帝国艦だと気付かれる心配もありませんわ。
そしてわたくし達はトラベラーを偽装すれば、安全に情報収集ができますの」
「……トラベラーか!
たしかにそれは良い考えかもしれん」
「ジュリエッタ、トラベラーとは何だ?」
「トラベラーとは、銀河系探索者協会に所属する荒くれ者の冒険者達ですじゃ。
彼らは普段からエグゾスーツと呼ばれる強化宇宙服を着たまま行動しておってな。
プライベートな空間以外ではまずヘルメットも取らんのじゃ。
じゃから、ワシらが顔を出さずに情報収集をしても、誰にも怪しまれずに済む。
正体を隠して行動するなら最適の職業じゃろう。流石はアルテイシアという訳じゃな」
「ジュリエッタ様にまで、お褒めいただき恐縮いたしますわ。
ではそうなりますと、このマスターユニバース号を隠さなければなりません……
ヤーマン星系内で人が少なく目立たない惑星というなら…… やはり惑星サガになりますわね。
あそこは湖に浮かぶ唯一の島、人口も23万のドリームタウンにしか人が住んでおりませんわ。
その他の土地はアンデッド達が徘徊する荒地の為、大変危険な土地になっておりますの。別名アンデッドランド“サガ“ですわ。
思考水晶目当てのレアメタル業者以外、近づく者はまずおりませんの」
「よし、それではまず、その惑星サガを目指すか」
俺はアルテイシア達の提案に乗ってトラベラーとやらになることにした。
「それでは皆様、これよりヤーマン星域を目指し、虚無空間加速ドライブを行います。着席し、安全ベルトをご装着ください」
フィアナのいつもの案内が始まる。
数千光年を一度にジャンプするホロウドライブという奴である。
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