第4話 覚醒
身体が無限に引き伸ばされるような感覚の後、俺は円筒状の透明なケースの中に一人立っていた。
部屋には他にも七つの円筒が並んでおり、俺のいる場所を含め同時に八体の物が入りそうだ。
目の前の信号が赤から緑に変わると、透明な壁が開いて外に出られるようになる。
さっきまで俺に抱きついていた猫耳の美少女がいつの間にか隣の容器に移っており、出口が開くと同時に、また俺に抱きついてきた。
〈大王さま~っ〉
頭の中に可愛い声が飛び込んでくると同時に、柔らかい膨らみが押し付けられて、こういう経験のない俺としてはたいへん嬉しいことなのだが、この猫耳娘、力が非常に強い。
ゴリラに優しく抱き締められているような感じなのだ。
こいつがちょっと力の加減を間違えれば、俺の身体は水風船のように簡単に破裂してしまうだろう。
まさに天国と地獄の状況である。
「オかえりなさいマセ、
俺がなんとか猫耳娘の機嫌を損ねずに、この危機から脱出しようと身体をくねらせていると、突然、日本語が耳に飛び込んできた。
頭の中に聞こえてくる奴じゃなくて、はっきり耳から聞こえてくる音声だ。
見ると女性の形をしたロボットが、頭を下げ胸に両手を当てている。
「君は…… 言葉がわかるのか?」
「はいマスター、先程、
完全ではないのデ少しオカシナなところがアルかもしれませんが、ご容赦願いマス」
さっきの公園で乱射していたあの光線か。
は~、なんて科学力だよ。
俺なんて英語すらロクにわからないというのに。
「□□△△○○○上上右左右左」
そこへまた例の宇宙語みたいなよくわからない言語が聞こえてくる。
奥の扉から現れたのは、頭から二本の角を生やした金髪の美少女だった。
怪しげな言葉を話す彼女が猫耳娘に強い口調で何やら言うと、猫耳娘が渋々と俺から離れてくれる。
助かった、これで即死回避だ。
猫耳娘を追い払ってくれた彼女は、さらに俺に対し胸に手を当て膝まで曲げて丁寧にお辞儀をする。
近くで見ると巻き毛のお嬢様のような美少女で、お姫様を思わせる容姿である。
ただ頭の角がちょっと悪魔っぽい。
だが角よりも興味を引いたのは、その下にある二つの巨大な膨らみである。
猫耳娘も大きい方だったが、こっちの悪魔娘の方はどちらかというと巨大と形容すべきものであった。
リンゴとスイカぐらいの差があるといっていいだろう。
さすがにこの大きさを生で見るのは初めてで、俺はその迫力に圧倒された。
いやあ、オッパイっていいもんですね。
「○○○△△△上上右右下右左上下」
お嬢様風の金髪悪魔が、にっこりと微笑んでくれる。
おそらく挨拶の言葉なんだろうが、俺にはこの宇宙語はさっぱりわからない。
「アルテイシア様、こレをお使いクださい」
そう言って、先ほどのロボ娘が首に巻くチョーカーのような物と耳栓のようなものを差し出した。
彼女はロボ娘からそれを受け取り、耳と首に取り付ける。
「あ~、ア~、ワたくしの言葉がオワかりになりまスかしら?」
おお、日本語に聞こえる。
彼らの科学力はやっぱり凄い。
発音がやや変ではあるものの、この翻訳機の正確さに俺は舌を巻いた。
「ええ、わかります……」
「よかっタですワ……
それデはビッグアイ陛下、改めましテご帰還おメでとうゴざいます。
我らファイブアイズは、どレほど……長い間、帝王陛下をお探ししたコトか……」
金髪悪魔は目に涙を浮かべ何度も必死にそれを指で拭うと、笑って誤魔化そうとする。
はっきりいってその仕草、美少女がやると超燃える、いや超萌える。
「初めまして……
俺は
君のことは何て呼べばいいのかな?」
思わずその仕草に惚れた俺は、彼女の名前を聞こうと自己紹介を行った。
「コスモさま、今はそうイうお名前なのでスね。
わたくシはアルテイシア・アモントート、今はビッグアイ陛下かラこの船の指揮を預かっておりマス……」
金髪の悪魔娘も丁寧に返事をする。
アルテイシアか……
その名前も燃えあがる、いや萌えあがる名前だな。
「……アルテイシア様。
感動の再会ヲ中断して申し訳あリませんガ、今はジュリエッタ様の元へマスターを連れて行くのガ先でごザいます。
お話なラば儀式の後でゆっくリとなされレばよろしいカト」」
「そうだったワね、フィアナ。
ビッグアイ陛下にお会いできた嬉しさのあマリ、命令を忘れてイタわ。
さあジュリエッタ様の元へ急ぎマショウ」
デハ案内を……」
「それデはマスターコスモ様。
わたしニついてきてくだサイ」
フィアナがそう言って前を歩き出すと、アルテイシアは横に来て俺の腕に自分の腕を絡ませ、エスコートしてくれる。
と同時に巨大な膨らみの感触が、まるで柔らかい餅のようにギュギュっと俺の腕に伝わってきた。
キタ~~~~~(^∀^)~~~~
俺は恋人のように腕を組むという生涯初の行為に、思わず感動してしまう。
しかも相手はGカップはあろうかというサイズの持ち主である。
まさにGの衝撃、Gのレコンギスタだ。
〈あ~、ずるいヨ、アルティだケ……
ボクだって大王様と一緒に居たイ!〉
くっついたアルテイシアを見て嫉妬心を燃やしたのか、ティラミスも残ったもうひとつの腕を強引に掴んできた。
キテナイ----(T_T)----
猫女の筋力は半端なく、俺は腕が千切れないように右手に思いきり力を込めなければならなかった。
おそらくこの手を自力で外すことは不可能だ。
こうして俺の天国モードは一瞬にして終了する。
「ちょっとティラミス、あなたは離れなさイな!
帝王陛下とは地上でずっと一緒だったデしょう?」
〈やだヨ~、大王様を見つけたのはボクだもン。
ボクが直接連れて行くんダ〉
たしなめるアルテイシアに反発し、ティラミスは俺の腕を離す気はまったくない。
どちらも譲らないため俺は二人に抱きかかえられ、もはや宇宙人グレイの状態となる。
そのままフィアナの案内で、大きな柱のある部屋へと連行されていく。
床には幾何学模様や文字が描かれた不思議な感じのする部屋である。
さらに部屋の中央には、人が立って入れるほどの大きなカプセルが二つ置いてあった。
「ジュリエッタ様。
マスターをお連れしまシた」
丁寧な口調でロボ娘がそう告げると、二人は俺の手を離し、うやうやしく頭を下げた。
ようやく解放された俺が腕をさすりながら前を見ると、着物と洋服を合わせたような服を着た背の低い美少女が立っている。
こちらを見ると胸に手を当て、少女も深々とお辞儀をする。
少女の横には黒い鎧武者といった風の金属人形が、ボディーガードのように控えていた。
〈お屋形様、ようお戻りになられましたな。
このジュリエッタ、恭悦至極に存じまする〉
俺の頭の中に、また思念のようなモノが飛び込んでくる。
目の前の日本人形のような美少女には似合わない、老婆のような言葉使いだ。
目が悪いのか開けたくないのか、目を瞑ったままの少女はどこか神秘的な雰囲気をまとっている。
いわゆるロリばばあという奴だろうか。
まったく、こんなオレ好みの美少女ばかりを集めるとは、彼女達の仕える主とやらは相当良い趣味の持ち主に違いない。
〈いきなりこんな所に連れて来られて、お屋形様もさぞや驚きでしょう。
ワシはここにいる五人のまとめ役でお屋形様の参謀を務める、ジュリエッタ・アルファローマと申します。
恐れながら、
そこの金髪の者はアルテイシア・アモントート。
この船の指揮をしております。
もう一人の者がティラミス・パンナコッタ。
特殊任務や強行偵察を担当し、超能力の達人になります。
御舘様をここに案内した者がフィアナ・オートマトン。
船の制御及び管理を行っております。
そしてワシの隣におる御仁がドラムロ・バトラー殿。
白兵戦闘の達人にございます〉
全員を少女が紹介する度に、それぞれが頭を下げてお辞儀をする。
俺は最後の武者鎧のお化けみたいな相手が頭を下げるのに驚いたものの、概ね五人の特徴を理解した。
要は彼らをロープレに例えて考えるとわかりやすい。
ジュリエッタが僧侶、アルテイシアが魔法使い、ティラミスが盗賊で、フィアナが…… う~ん船長、いや錬金術師か? ドラムロは見たまんま、侍って感じだ。
<え~っと、ジュリエッタさんでしたっけ。
皆さんを紹介してもらって悪いんだけど、挨拶が終わったなら、俺をいったん地上に戻してもらえませんか?
さっきから俺のことをお屋形様とかマスターとか、大げさな敬称で呼んでますけど、それは誤解なんですよ。
俺は
決してそんな立派な王様みたいなモノだったことはありません>
俺がそうやって彼女に念を送ると、ジュリエッタと名乗った愛らしい少女が、俺に返すように優しく頷いた。
おお、言葉は堅苦しいけど性格の良さそうな娘じゃないか。
やはりロリばばあは正義だ。
これは家に帰れる望みが出てきたぞ。
俺は期待に胸を膨らませる。
<……御心配には及びませぬ。
問題はすぐに解決します。
両名よ、お屋形様をこちらへ……>
ジュリエッタはそう言って、二つあるカプセルの両方を開けた。
右の中身は空っぽで中に光るクッションが敷いてあり、立ったまま寄りかかる仕様になっている。
左の方には、アメコミに出てくるような黒づくめのタイツを着た筋肉質の男が立ったまま入っていた。
背中にはマントを付け、なかなかのカッコ良さだ。
瞼が閉じられているものの、おでこには大きな目らしきものが付いている。
これって金髪娘がビッグアイ陛下とか呼んでた奴なんじゃ……
見た目からして絶対にそうに違いない。
俺は夢で何度も見たはずの姿を直接確認した時、自分がこのビッグアイと呼ばれた者だと直感した。
正直、今の俺に似た部分を探すほうが難しいが、見ていると他人とは思えない懐かしい感じがする。
残念ながら、見た目はどう見てもアメコミの
思わず先程の巫女さんの方を見るが、彼女は微笑んだまま頷くだけで何も語らない。
アルテイシアとティラミスは彼女の命令通りに俺の両腕を引き、優しくカプセルの中へと案内する。
俺がそのまま中に入ると、カプセルの蓋がゆっくりと閉まっていく。
<お屋形様、これからすぐに儀式を行います。
痛みはありませんのでご安心くだされ>
<ジュリエッタ……
俺は本当に宇宙帝王ビッグアイなのか?>
俺は黒い身体を見た瞬間、自分がこの宇宙帝王と呼ばれていたような気がしてならなかった。
子供のころから見ていた夢は、夢じゃなく過去の記憶だったという訳だ。
<昔を思い出されましたか?
……左様でございます。
流石はお屋形様、ジュリエッタは嬉しゅうございますぞ……>
和洋装の少女は、涙を流さんばかりに目頭を抑えて、その小さな身体を震わせた。
これがこの娘の演技だとはとても思えないが……
だがあれだけの科学力だ。
彼らの洗脳という可能性もある。
俺は宇宙帝王という神輿に担がれているだけなのかもしれない。
なんとかそれを確かめなければ……
<どうやってお前たちは俺が宇宙帝王だと確信した?
何か証拠があったはずだ?>
確認するなら彼らに直接、尋ねる方が早い。
何か適当な言い訳でも始めれば、用心する必要がある。
<無論でございます。
証拠も無しにこのようなことはできませぬ。
フィアナ、さきほど解析したこの御方の
ビッグアイ様との適合率を御報告するのじゃ>
「はイ、ジュリエッタ様。
フィアナがそう告げると、カプセル内の空中に立体画面が出て、色の違う動く二つの模様が見えた。
確かに俺のモノだと見せられた画像は、若干のズレがあるもののほとんどが重なっているように動いた。
「全サンプル数647万3966の中デ、最高適合率は47,63%。
平均値は17.36%でしタ」
フィアナが続いて他の検体の調査数値を報告する。
そちらに現れた画像のほとんどが半分以上大きくズレていた。
ほとんど重なっていない画像すら少なくない。
「確率からイって、貴方様こそ、間違いなくマスターの精神体ヲ所有していると思われマス」
フィアナが最後に所見を述べると、浮かんでいた画面が全部消える。
このような形で見せられると、俺がビッグアイであるとしか考えられなくなってきた。
<ワシの霊視でも複数回、確認しております。
何度見ても、貴方様がお屋形様であることは間違いありません。
今は記憶が無くて不安でしょうが、儀式が終わり本当の肉体を取り戻されれば、すぐに思い出せるようになるでしょう>
さらに畳み込むように、ジュリエッタが追い打ちをかける。
もはや俺に疑う要素は無かった。
こうなっては運命に身を任せるしかない。
最悪、騙されていたとしてもいいじゃないか。
こんな美少女達と一緒にいられるんだ、今までのモテない人生を考えればじゅうぶんお釣りが来るぐらいさ。
<……そうかわかった。
それではその儀式とやらを頼む……>
俺はさっきまで地上に戻りたくて仕方がなかったが、もうそんなことはどうでもよくなっていた。
このカプセルに入っていると、不思議な安堵感に包まれるのである。
もう仕事や家のことなど放っておけばいい、誰かが後始末する、俺はそういう気分になっていた。
いや待て、だがアレの事はどうする?
あのパソコンの中のAVコレクションだけは処分しておかないと……
しかし今さらどうしようもない。
仕方がない、アレの事はあきらめよう。
人生には何かを失わなければ、何かを得られないことも多いのだ。
<はい、万事お任せ下され。
それではこれより、お屋形様の復活の儀式を行う。
アルテイシア、ティラミス両名はワシに精神エネルギーを送れ。
フィアナは
「お任せくだサイ。
全力でオ送りしマスわ!」
<ボクも全開でいくヨ!>
「精神増幅機を起動しマス……」
全身が光に覆われ、俺は彼女の儀式の始まりと共にいつしか意識を失っていった。
カプセルの中で見たものは、飛び交う光線と炎……
俺はこの時、船上に戻っていた。
宇宙帝王と共に。
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