第97話
俺とサユリは順調にステージをクリアしていった。進むにつれて難易度も上がり、人は少なくなっていく。この手のゲームは簡単すぎたら面白くないのでちょうどいい塩梅だ。
俺たちが次に挑むステージは一人ずつに別れなければならないようだ。先に進むためには二つのパスワードが必要で、それぞれ別の場所で入手できるようになっている。
「一人で大丈夫か?」
「馬鹿にしないでよ。余裕よ」
軽口を叩きながら各々指示された場所に向かった。
向かった先にあった謎も特に苦戦することなく解くことができた。手に入れたパスワードを持って合流地点でもある次のステージに向かう。指定された教室にはもう一つのパスワードがないと入れない。サユリが来るまで、邪魔にならない場所で待つ。俺たちは上位なので焦る必要はない。
「また会ったなーニノ!」
やって来たのはサユリではなくトウコだった。
トウコは俺に似てなんでもそつなくこなすタイプだとわかっていたが、それに加え柔軟な思考を持ち合わせている。会話を重ねているとそれがよくわかる。トウコが頭を使うゲームに強いというのは予想していたので、追い付かれても驚きはしない。
「さすがに早いな」
「あたしにかかれば楽勝だって!アヤネはまだ来てないみたいね」
「アヤネちゃんなら見かけたけど、俺が教室出る時はまだ頭抱えてた」
「なーる。まあその内来るっしょ」
話の流れのままにトウコも同じ場所で待つことになった。話し相手ができたおかげで待ち時間も退屈しない。
「いやーしかしあんたらの高校の文化祭は楽しいねー。これであとはお笑いのステージがあれば完璧だね」
「なくはないんだけど、トウコはお笑いに厳しいからなー」
「えーそんなことないって。精々Mー1の上沼恵〇子くらいだよ」
「まあまあ厳しいじゃねーか」
お互いにお笑いが好きとわかってから、お笑いについて話すことが増えた。そのせいか距離も縮まった気もする。
傍から見たら共通点が無いように見えても、探してみれば意外と見つかるものだ。人と話すというのは大事なことだと、再認識しながら熱く語り合った。
「いやーやっぱしニノとは話し合うわー」
「意外と感覚とかセンスが似てるのかもな」
数分経ったがサユリたちはまだ来ない。意外と苦戦しているようだ。
「あたしらってさー…結構相性よくない?」
「かもな」
次の話題は何にしようかな、そんなことを考えていた昼下がりの緩いひと時に、唐突にそれは訪れた。
「……付き合ってみる?」
「はぁ?なに言ってんだよ」
それは案外あっさりしていて、俺自身ももっと動揺するかと思っていた。
「……だからさ……あたしたち付き合わない?」
「これってツッコむところ?」
「……割とマジだったりして」
トウコの視線はボケでも冗談でもないのだと教えてくれた。
俺はたった今、人生で初めて女の子から告白された。
「いきなり言われても困るよね。……けど、こんな見た目してるけど、遊びとかノリで言うような人間じゃないから。それは信じてほしい。勢いで言っちゃったけど、割と最初に会った日から気になってたんだよね。一緒にいると楽しいし、自然体でいられるし……ニノのこと知ってくうちに、どんどんこの気持ちが強くなって」
トウコは少し赤くなった頬をかきながら言ってくれた。それを聞いた俺の方が赤くなっているのだと鏡を見なくてもわかるほど体温の上昇を感じる。
「えっと、ごめん、俺こういうの初めてで……なんて言ったらいいかわかんないけど……でもありがとう。トウコにそう言われると素直に嬉しいよ」
言葉を詰まらせながらも、頭の中ではトウコと付き合っている姿を想像していた。
トウコと付き合ったら楽しいだろうな……お互い体を動かすことが好きだから一緒にスポーツしたり……デートはお笑いライブとか行って、見終わったら感想を語り合って……多分トウコとなら何気ない会話も楽しいだろうな……人柄もよくて、俺にはもったいないくらいの美人だ……雰囲気は全然違うけど、上手くいきそうだなー…。
「あ、別に今すぐに答えてほしいわけじゃないよ?ただ、あたしの気持ちを伝えたかっただけで、返事についてはゆっくり考えてもらって、また後日……」
「ごめん。気持ちは嬉しいけど……付き合うとかあんまり考えたことなくて……できればトウコとは友達のままでいたい……かな」
自分でも驚きだったが、答えを出すのに時間はかからなかった。贅沢な言い方だが悩む余地はあった。想像してみても悪い部分は見つからなかった。それでも俺は付き合わないという選択をした。
「……そっか」
「えっと……上手く説明できないんだけど……その、トウコとは……」
「別に気を遣わなくてもいいよ。なんとなくわかってたし。多分だけど……ニノの中には他に気になってる人がいるんだよね」
「それは……」
俺の心の中はかつてないくらい鮮明に散らかっている。矛盾しているようだが、今までぼんやりとしいた感情が、ここ最近くっきりと浮き出るように露わになったのだ。おそらくその感情は昔からあって、そこに自分で靄のようなものをかけてしまっていたんだろう。ごちゃついていて、妙にすっきりしている。
「本当にごめん。俺なんかが断るなんておこがましいよな」
「謝らないでよ。なんも悪いことしてないんだし」
初めて告白されて、初めて告白を断った。自分で決断したくせにどう対応したらいいのかわからない。そんな俺を気遣うようにトウコは笑顔でいてくれた。
「言っとくけど振られたからって関係が無くなるわけじゃないからね?友達は友達だし、ニノは貴重なお笑い仲間なんだからこれからも語り合ってもらうよ?」
本当だったら逆に俺がなにか言うべきなのに、トウコの優しさに助けられる。「ありがとう」以外の言葉が出ずに戸惑っていたら、小走りで近づいてくる人に気づいた。
「あれ白石さんじゃない?いやー振られるタイミングじゃなくてよかったー。もし聞かれてたらあたし恥ずかしくて死んじゃうよ」
早くも自虐のようにネタにしているトウコは、やはり強くて優しかった。
「ごめーん、待った?」
「いや全然」
「そう?ならよかったぁ。これで二つ揃ったし、行こっか」
思わずトウコを見てしまった俺に、
「あたしのことはいいって。これ競争でしょ?早く行きなって」
と言ってトウコは笑顔で送りだしてくれた。
「……悪いな」
俺とサユリは二人で次の教室に向かった。
「あーあ……振られちゃったかー…。てか、そこにいるんでしょ?アヤネ」
「……気づいてたの?」
「一瞬チラって見えたからね。……どこから聞いてたの?」
「えっと……それは……」
「告白したところはばっちり聞かれちゃったかー。聞いてたのならはっきり言うけど、あたし振られました」
「ごめん……盗み聞きするつもりはなかったんだけど……」
「仕方ないよ。だって……アヤネも本当はニノのこと気になってたんでしょ?」
「トウコちゃん……気づいてたんだ」
「あたしの方こそ抜け駆けしたみたいでごめんね」
「ううん。トウコちゃんはなにも悪くないよ。誰がいつ告白してもいいんだし、それに……私が告白しても同じ結果だったよ」
「やっぱりアヤネもそう思った?あたしたち気が合うねー」
「うん。今日会ってみてなんとなくだけどね」
「だよね。そりゃ幼馴染にあんな子がいたら無理だって。他にも可愛い子いるみたいだし」
「トウコちゃんは負けてないけどね」
「アヤネだって負けてないよ。……どうする?ゲーム続ける?」
「うーん……ちょっとそんな気分じゃないかも……」
「……うしっ!文化祭抜けて二人で甘いものでも食べに行こっか!そんで思う存分ぶちまけよう!」
「うん!」
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