第91話
体育館から出ると、各クラス明日の為の準備に取り掛かる。コウキ、サユリ、リキヤとはそこで別れた。俺とエリカも、まずは自分たちのクラスの準備をする。ある程度目途が立ったところで、俺とエリカは実行委員で割り振られた仕事をするために抜けさせてもらった。その頃には学校に残っている人も少なくなっていた。
実行委員の仕事内容として、体育館のレイアウト変更、一般の人向けの案内表示、不要物撤去などがある。最初に体育館に向かったが、レイアウト変更はすでに他の人がやってくれたようで、俺たちには立て看板の設置やポスターの掲示などの案内表示の業務が与えられた。
印されたポイントを順々に回って案内を表示させていく。移動距離や時間はかかるがそれほど大変ではなかった。エリカのおかげで場所を間違うこともなく、スムーズに進んでいる。
「ここで最後みたいね」
「意外と早く終わったな」
踊り場に最後のポスターを掲示して俺たちの業務は終了。あとは軽く校内を巡回して帰りとなる。
「さすがに疲れたわね」
エリカは階段の段差に腰を下ろした。
「そんなとこに座るなんてエリカらしくないな。いつもは注意する側じゃないか?」
「今日くらいいいでしょ?私たちしかいないのだから」
「汚れるぞ?」
「少しくらい平気よ」
作業中はなにも意識せずに自然体でいられた。この雰囲気や距離感を保つ為に、できるだけ二人でじっくり話す時間は避けたかったが、俺一人切り上げるわけにもいかず、エリカの隣に座った。
「みんな帰ったかな?」
「どうかしら?コウキ君とサユリは残ってるかもしれないわね」
「リキヤは絶対いないだろうな」
それから今日の感想を言い合った後、明日の段取りなどを話した。基本俺とエリカは同じ時間に割り当てれられているので、他の人とも時間を合わせやすい。リキヤは当然として、コウキとサユリも劇の時間以外は拘束されないらしく、マコト含めて六人で回れる時間は予定より多そうだ。
「……後夜祭は私たちあんまりやることなさそうね」
実行委員としての俺とエリカの担当は今日みたいな準備に関する業務が多く、二日目は見回り以外特にやることはない。後夜祭も会場の設営を少し手伝うだけで、後のことは先輩たちに任せてよいそうだ。一方で参加する側として盛り上げる役割もあるのだろう。
「俺たちは普通に参加すればいいんじゃないかな。実際どんな感じなのかわかんないけど楽しもうぜ」
「そうよね。……実は私、参加できるかわからなかったからまだペア決まってないのよね」
前に冗談でエリカに迫られたことを思い出した。あの時は途中でコウキとリキヤがやって来たので、話題は途切れてしまった。
「だから……その……早いとこ相手見つけないといけないのよね……」
――――――エツジ君はなんて答えてほしい?
「そ、その……エツジ君は……相手とかって……いるのかしら?もし……」
「俺は……サユリと組む予定だよ」
あれやこれやと考える必要はない。サユリとの約束を守る。サユリを楽しませる。明日俺が考えるべきはこれだけだ。シンプルでいい、事実だけを伝えればいい。
「え……サユリと……」
コウキとリキヤの話を聞いて意識したからなのか、エリカの口から「後夜祭」と出た時点でなんの話かは薄々感づいていた。変な意味合いは抜きにしても、同じ実行委員という立場であるなら自然な流れなのかもしれない。
「そ、そうなのね……そっか……私も早く見つけなきゃね……」
全部を聞く前にサユリと組むことを伝えてしまったので「ごめん」と言うのもおかしな状況だ。俺がエリカに謝るなんておこがましくもあるので、言わなくて正解か。
「エリカなら……」
「……なに?」
「なんでもない。それより、そろそろ行こう。早く終わらせて明日に備えようぜ」
持ち場の見回りをして、報告まで済ませたら今日の役目は終了。俺とエリカはそのまま一緒に帰った。帰り道は無言というわけではなく、普段と同じように喋りながら帰った。気まずいとかはなかった。ただ、お互い話したいことがあって、でも言い出せない、そんな雰囲気を感じたのは俺だけなのだろうか。少なくとも俺には……。
――――――エリカならすぐに見つかるよ。
踊り場にいる時、途中で詰まってしまった言葉。言おうと思ったが、言いたくなかった。正確には見つかってほしくなかった。
最悪だ……サユリという相手がいるのに一瞬思ってしまった……今日で最後にしよう……だから今日眠るまでは……明日起きるまでは……。
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