第74話

 人が通りがピークを迎えた頃、俺はグループからはぐれてしまった。


「ちょっとー!アヤネたちどっか行っちゃったじゃん」


「俺に言われても……」


 グループが二つに分断したと言ったほうが正しいかもしれない。トウコは俺に文句を言っているが、はぐれた原因はおそらくトウコが雑貨屋に入ったからだろう。その際腕を引っ張られて強引に俺も雑貨屋に引きずられた。前を歩いていたコウキとアヤネちゃんはそれに気づかずに歩いていった。


「どうせならニノじゃなくてコウキ君と一緒だったらよかったなー」


「すみませんね、俺で」


「冗談だって。半分は」


「半分は本当なのかよ!」


「アハハ!うそうそ、冗談に決まってんじゃん。そんな怒んなよー」


「別に怒ってねーよ」


「じゃあ落ち込んでんの?もーしょうがないなー。あたしはニノで嬉しかったよ?ほら、これで元気出た?」


「落ち込んでもねーよ!落ち込んでたとしてもそんな雑な慰めで元気出るわけねーだろ!」


 どう合流しようかと考えている横でトウコは俺をからかって笑っている。からかわれていると言っても、トウコとの掛け合いはテンポもよく返しやすいので嫌いじゃない。あとMでもない…多分…。

 ひとまずコウキに連絡しておいた。さすがに向こうもはぐれたことに気づいているはずなのですぐに返信が来ると思っていたが、中々連絡は来なかった。

 コウキに限って気づいていない可能性は低い。だとするとその内合流できると思って急いでいないのか、お手洗い等で取り込み中なのか、もしくは……。

 コウキとアヤネちゃんという組み合わせなので何か目的がある可能性も考えられる。どちらにせよ、じっとしているわけにはいかない。


「とりあえずコウキたちが歩いてった方向に行ってみるか。案外すぐそこらへんにいるかもしれないしな」


「なに?あたしと二人でいるのが嫌ってことなの?」


「いやそうじゃなくて、普通に合流しようとしただけだ」


「まあ、あたしはあんたと二人は嫌だけどね」


「嫌なんかい!」


「アハハ!やっぱニノはいじり甲斐があるなー」


 トウコの調子は変わらないまま、コウキたちを目指して移動を始める。そのはずだったが、俺たちは一向に進まなかった。その理由はやはりトウコだ。少し歩いては「ここの店入る!」また少し歩いては「ここ気になる!」と通る店に次々と興味を示しては入店していた。置いていくわけにはいかず、俺も当然付き合う。

 アパレルショップやアクセサリーショップだけでなく、先程あれだけ食べたのにまだ食べ歩きも続けている。そんな様子を見ているとだんだん面白くなったきて、つい俺も楽しんでいた。


「次あそこ行きたい!」


「お、いいね。行ってみるか……って普通に楽しんじゃってるじゃん!」


 夢中になりすぎて時間の経過を忘れていた。慌てて時間を確認するとはぐれてからそこそこ時間が経っている。


「やべぇ…もうこんな時間だよ…」


「そんな気にしなくても向こうは向こうで楽しんでるんじゃない?」


 トウコはそう言ったが、放っておくわけにはいかない。スマホを確認するとメッセージが届いていた。確認してみるとコウキたちもお店を回っていたらしく合流が遅れるという内容だった。向こうも楽しんでいるようなので安心したが、その後に送られていた合流時間を見て再び焦る。


「合流時間まで五分くらいしかねーじゃん!急がないと間に合わねぇ!えっと場所は……」


「えー?もう行くの?もう少しいいじゃん」


「もう散々回っただろ?どうしても行きたいところは合流してからでいいだろ」


 先程と打って変わって今度は俺がトウコの腕を引っ張る。「へぇー意外と強引なとこあるじゃん」とニヤニヤしながらからかってくるが無視して歩く。俺たちのいる場所から指定された場所まで行くのは五分ほどかかる。少しでも寄り道すると間に合わない。


「ちょっと待って。なんかあそこ人だかりできてない?」


 引っ張られるままに歩いていたトウコが立ち止まって俺を引き留める。


「人なんていっぱいいるだろ?ほら行くぞ」


「いやいやあれはなにかあるって。ちょっとだけ見てこーよー」


「駄目だって。コウキたち待たせることになるだろ?」


「いいじゃんいいじゃん。アヤネたちももう少し二人だけの時間を味わいたいかもよ?」


「それは…そうかもしれないけど…」


「ちょっとだけ、一瞬だけだから。ね?いいでしょ?」


 まだ認めてないのにトウコは俺を引っ張って人だかりに近づいていく。本気で引っ張れば拒否することもできるが、女の子それもトウコ相手にできるわけもなく抵抗しないまま連れられていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る