第66話
体育館から帰る道は途中までリキヤと一緒だった。久しぶりのバスケだったのでバスケ談義に花も咲いた。バスケの話となるとリキヤの眼はいつもより輝いていて、嬉しそうに話すリキヤを見ていると何だか俺も嬉しくなった。
バスケのことを語りつくすと、盛り上がった反動なのか急に静かになった。新井さんとの話を聞くならここだろう。わかっていても中々踏み出せない。わざとらしく聞いて変に意識させるのは新井さんに申し訳ない。
「…なあ、休憩してた時相原と何話してたんだ?」
リキヤが俺に聞いてきたことは、俺がリキヤに聞こうと思っていたことだった。逆に聞かれたこととその直球な聞き方に少し動揺してしまったが、バレないようにすぐに答えた。
「大したことじゃないよ。あいつもバスケ部入ったらしくて、今後も練習に付き合ってほしいって話。あとは新学期になってからの近況報告とかだな」
「そうか」と小刻みに頷いたリキヤとは目が合わなかった。俺の答えがリキヤの想像していたものだったのかどうかはわからない。
「お前こそ新井さんと何話してたんだよ?」
向こうから聞いてくれたおかげで自然な流れで聞くことができた。
「別に…俺と新井が話すといったらバスケのことしかないだろ」
予想通り、あまり進展はなかったようだ。リキヤの答えはあっさりしていて、それ以上は聞きにくいものだった。
もう一つ、会話の中で聞きたいことができた。
「なあリキヤ、お前もしかして相原のこと…」
ぴくッと眉毛が反応した。
「うむ…気になってるな。だが勘違いするなよ?俺がどうこう思ってるわけじゃない。俺が気になってるのはお前と相原がどんな関係なのかって話だ。同じバスケ部だった二人がもしかして…なんて気になるのは当然だろ?」
リキヤは俺の聞きたいことに対して先回りして答えてくれた。
「そういうことか。そう言われると確かにそうだけど…」
「練習試合の時辺りから怪しいと思ってたんだよな。んで、実際のとこどうなんだよ?付き合ってんのか?」
「見かけのわりにゴシップ好きなリキヤさんには悪いけど、付き合ってねーよ。俺と相原はただの友達。向こうもそう思ってんだろ」
「けっ、何だよつまんねーな。もしそうだったら面白かったのに」
道路の脇を見ながら吐き捨てるようにリキヤは言った。からかうネタが無くなってさぞ残念そうな顔をしているのだろうと、覗き込もうとしたがやめておいた。もしも俺の目に映った表情が想像と違っていたのならば…。そんなことを考えているということは、先程のリキヤの言葉を真に受けてはいないということになる。疑っているわけではない。ただ、花火大会の時に俺を殴ってくれたこの不器用な男の力になりたいだけ。
「俺の家こっちだから」
帰る方向が同じと言っても分岐点は意外とすぐ近くだった。
同じ学校でよく顔を合わせている俺たちの別れ際はあっさりしている。「じゃあな」と軽く手をひらひらさせて背を向けるリキヤを俺は呼び止めた。
「何だよ?」
「相原と新井さんを文化祭に誘ったらどうだ?」
リキヤの為なのか、新井さんの為なのか、それとも相原の為なのか、この提案が誰の為なのかは自分でもわからない。
「どっちでもいい。誘いたきゃエツジが誘えよ」
一瞬視線を落としてから口を開いたリキヤ。
「俺もそう思ったんだけどさ、多分俺当日忙しいんだよな。誘っといて会えませんでしたってなると無責任だろ?だからリキヤから声かけたほうがいいと思う」
また一瞬、視線を落とした。
「まあリキヤも忙しいと思うし、無理にとは言わねーよ。ふと思ったから言ってみただけだ」
「……気が向いたらな」
そう言ってリキヤは行ってしまった。
最後に見えた大きくも弱々しいリキヤの背中は、俺に何を語ったのだろうか。
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