第56話
メガネをクイッとあげる仕草は少々腹が立つが、俺としては助かった。こんな奴でも真面目だし成績は優秀だ。エリカがいれば変な方向に逸れることもないだろうし、大丈夫だろう。
「お、おう…門倉か…。うーん…私は二宮も良いと思ったんだが、本人は乗り気じゃないみたいだし、そうなると立候補してくれた門倉に決まりかな」
「みんながやりたがらないことも率先してやるのが僕の役目だからね。僕がやる以上は完璧にこなしてみせるよ」
率先していたのはエリカだけどな。
みんなが聞いたら反感を買いそうな独り言を聞いていたのが俺だけでよかった。
心なしか盛り下がったようだが、これに関しては門倉は悪くない。推薦してくれたエリカには申し訳ないが、門倉と2人で頑張ってもらおう。俺も可能な限り手伝うから。
「真弓さん!2人で力を合わせて頑張ろう!僕たちなら素晴らしい文化祭になるはずだ!」
「……」
「いやーでも嬉しいな。これからは真弓さんと僕の2人の時間が増えるんだね。そう考えると文化祭実行委員も悪いことばかりではないな」
「……」
またも門倉が一方的に話していてエリカからの反応はない。もしかして冗談抜きで本当に門倉のことが嫌いだったか?俺が断ったことによって嫌いな門倉と実行委員をやらないといけなくなって怒ってるとか?そうだとすると今度は俺に辛辣な言葉が飛んでくるんじゃないか…。
隣にエリカ様がいると思うと見るのが怖いのだが、勇気を出してエリカの方を向く。だが、エリカ様なんてどこにもいなかった。
「……エリカ?」
そこにいたのは静かに佇むエリカだった。背中を丸め視線を落としている姿は落ち込んでいるように見える。姿だけではなく、その表情は……。
何でそんなに……そこまで門倉が嫌いなのか?
――――――いや、違うだろ!
黒板を見ると、まだエリカの名前しか書かれていない。俺の時はすぐに書こうとしたのに…、と不満はあったものの今は助かった。
「最後に聞くけど…本当にやらないんだな?二宮」
「先生…バラエティー番組とか見ないんですか?あの、あれですよ。『押すなよ、押すなよ』ってやつですよ」
「ん?どういうことだ?」
「えーっとつまり…俺の『やらない』は
細かい理屈はどうでもいい!エリカが俺を頼ってきたなら、俺は引き受ける!それは昔も今も変わらない!
「そう来ないとな!てことは真弓さんは決定として、門倉と二宮のどっちがやるかだな」
「ちょっと待ってください!僕で決まりだったでしょう!第一、二宮君より僕の方がみんなをまとめる役としてふさわしいでしょ!」
俺が言われているから思ったわけではないが、今の言い方はよろしくないな。
「そんなことないと思うぞ。エツジなら安心して任せられる」
今度のケイスケの発言は俺を援護してくれている。
「林の言う通りだ。門倉は確かに優秀だが、二宮もまた優秀だ。どちらにも安心して任せられる。もっと言えば今回は立候補したのがエリカとこの2人だが、私はこのクラスの全員にその素質があると思っているよ」
先生は俺と門倉の両方に角が立たないように言ってくれたのに、門倉はどこか不満そうだ。チラチラと俺を睨んでいるのも納得していないからだろう。
これだけ実行委員にこだわるのはプライドが高いからという理由もあると思うが、それだけではなさそうだ。席替えの様子を見ている限りエリカに何らかの好意を寄せているのかもしれない。
半年も同じ教室で過ごせばわかるのだが、門倉はクラスでも話し相手が少ない。門倉も友達を増やしたいわけではなさそうなのでそれ自体は特に問題はないのだが、その数少ない話し相手でも一番喋るのがエリカなのだ。
俺も今日まで2人は友達だと思っていたのだが、エリカの反応を見たらそうではないことがわかった。だが門倉だけはまだわかっていないようだ。それどころか一番の親友とも思っているのかもしれない。そんな門倉にとって文化祭実行委員というのはエリカと仲を深める絶好のチャンスだ。だからもう1人の候補の俺が疎ましいのだろう。それを知ったなら俺も譲ってあげたい気持ちはあるが、エリカのあんな顔を見たら引くことはできない。少なくともエリカが嫌がる距離の詰め方をやめない限りは近づかせたくないものだ。
「さてさて…どうしましょうか。お2人さん?」
「ここは公平にじゃんけんでいいんじゃないですか?門倉もそれでいいだろ?」
「……いいでしょう」
本当は他の勝負方法で決めたかったのだが、この流れでじゃんけん以外の方法だと不自然だ。
これで運頼みとなったが、ただ運に任せるわけにはいかないな…。
「エツジ君…お願い…勝って…」
エリカの顔は少し明るくなったものの、まだ不安が残っているようだ。
「任せとけって」
クラス中が注目している。
「「最初はグー!じゃんけん―――」」
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