第43話
もう関わることはないと思っていたのだが、人と人が繋がるのは現代社会においてそう難しいことではないようだ。
コウキから連絡があって何かと思えば佐々木さんとトウコに連絡先を教えていいか、という確認だった。コウキは連絡先を知っていたらしく、あの後のフォローも兼ねて連絡を取っていたようだ。俺も関わっていたことだし、コウキだけに任せるのも申し訳ないのでこちらからも是非とお願いしておいた。
佐々木さん〈この前は楽しかったね。あの後大丈夫だった?〉
こちら側が理不尽に迷惑をかけたというのに佐々木さんは俺たちを気遣ってくれている。
エツジ〈こちらこそあんな抜け方しちゃってごめん〉
謝罪を済ませたらあの後どうなったのかという話になった。佐々木さんたちもカラオケに行ったらしいが長居はせず、程なくして解散となったようだ。空気が悪くなったわけではないが、やはりコウキの抜けた穴は大きかったのだろう。ユウタとケイスケはそれぞれ奥岡さんと巻島さんと上手くやっていたらしく、佐々木さんたちは見守る形で過ごしていたとのこと。
エツジ〈それならよかった。空気悪くしてたらどうしようかと思ってたから〉
佐々木さん〈こっちは大丈夫だったよ。そっちはどうだったの?もしかしてあそ
こで会った人の中に彼女さんがいたのかな?〉
離脱の仕方からそう思うのも無理はない。理由としてはサユリたちが合コンを良く思っていなかったからなのだが、一緒に参加していた佐々木さんたちにそれを伝えるのは気が引ける。俺のことはどうでもいいが、コウキが誤解されたままだと佐々木さんたちも近寄りがたいだろう。コウキは妹を理由に説明したらしいが、この聞き方だとまだ探っているように思える。
エツジ〈彼女じゃなくて友達だよ。そもそも俺もコウキも彼女いないからね。
俺があのメンバーの中に混ざってるのが居づらいんじゃないかと思
った友達が気を遣って誘ってくれたって感じ。コウキの妹もあそこに
いたから着いてきたんだよね〉
佐々木さん〈そうだったんだ。よかった〉
エツジ〈まあ柄じゃないのは本当だからね。俺だけ浮いてなかった?(笑)〉
佐々木さん〈そんなことないよ。おかしいことなんてないし、楽しかった!〉
エツジ〈ならよかった。とりあえず安心してよ。コウキのことだったら何でも相談
に乗るからさ〉
多少無理矢理な気もするが、言い訳としては及第点ではないだろうか。心残りであった佐々木さんの恋の手助けもこれで関わることができる。たった一日であれ、佐々木さんが良い子なのは重々わかったから、できるだけ応援してあげたい。コウキにその気があるのかはわからないが、完全に脈なしというわけでもなさそうだ。
送信した直後にピロンとスマホが鳴る。返信が早いと思っていたら佐々木さんではなかった。
トウコ〈この間のあれどういうこと?彼女?〉
佐々木さんとは違ってストレートに聞いてきたのはトウコだった。これはこれでわかりやすい。
エツジ〈彼女じゃなくて友達。言っとくけど俺もコウキも彼女いないから〉
佐々木さんに送ったのと同じ内容だがトウコには少し砕けた言葉使いだ。自分でもびっくりするくらい距離を縮めたと思う。
トウコ〈そりゃそうだよねー。もし彼女だったら最低だもんねー。彼女いるのに合
コンとか有り得ないもんねー〉
俺は合コンと知らずに行ったんだけどな。
トウコ〈じゃあ何でやましいことないのにどっか行ったの?〉
これもまた佐々木さんと同じような内容を返しておく。
トウコ〈ウケルwまあ確かにニノはパッとしないもんねー〉
エツジ〈うるさい。まあそういうことだから〉
トウコ〈怒んなってwあたしとしては面白かったよ。ギャップもあって意外とか
っこよかったし〉
エツジ〈はいはい見え透いたお世辞ありがとうございます〉
トウコ〈照れるなよーwんで、埋め合わせはいつすんのー?〉
何故俺が埋め合わせをしなければならないんだ。これはあれか?遠回しにコウキを誘ってきっかけを作れってことなのか?どちらにしてもやっかいだ。佐々木さんとトウコの板挟みとなっている。俺としてはどちらも応援してあげたいのだが…。なんで俺がこんなに悩んでいるんだ…。でもまあ親友の為だ、人肌脱ごう。
俺には一つの案が浮かんだ。
エツジ〈わかったよ。今度コウキと佐々木さんを誘ってどこか遊びに行こう。それ
でいいだろ〉
機会は作って、後のことは本人たちに任せるという作戦だ。どちらを贔屓することもできないので俺としては苦肉の策だ。
ピロンとスマホが鳴って確認すると二通のメッセージが来ている。
佐々木さん〈何でコウキ君の話?〉
トウコ〈何でコウキ君とアヤネが出てくんの?〉
君たちが言ってたんだろ!まあ聞かれてるとは思ってないだろうけど…。間違っても実は聞こえてましたなんて言ってしまえば変態のレッテルを貼られて白い目で見られてしまうだろう。俺もそこまでデリカシーのない男ではない。
冷静に考えれば俺が気にかけることもないのかもしれない。1人突っ走って有難迷惑と思われるのも癪だしな。俺の立ち位置としては介入することなく、傍観するのが正解なのかもしれない。
エツジ〈何となくコウキのこと気にしてるんじゃないかなって思って。あんまり深
く考えないで(笑)。コウキに直接聞けないこととか俺を中継に使ってい
いよってだけだから〉
佐々木さんへの返答は適当にはぐらかしつつ、佐々木さんの気持ちを察していると匂わせるような内容にしておいた。伝わるかどうかはわからないが、
エツジ〈今度東堂さんとコウキとまた遊びに行こって話があるから佐々木さんもど
うかな?〉
すぐに遊びの誘いを連続して送り、返事をそちらに集中させるようにした。少し時間をおいてから〈行きたい〉との回答をもらったので、目論見通りといったところか。
エツジ〈ユウタたちはそれぞれいい雰囲気らしいし、埋め合わせはいらないかなと
思ってさ。特に深い意味はないけどトウコとしてもコウキがいればいいん
じゃない?俺もできるだけ協力したいし〉
佐々木さんに言った以上、トウコにも同じようなことを伝えておく。とはいえこうなってしまえばどちらにも肩入れするつもりはない。あくまできっかけ作りや情報提供くらいに留めるつもりだ。
トウコ〈なんかよくわかんないけど、それでいいよ。いつにする?〉
エツジ〈各々予定があるだろうから確認次第また連絡するよ〉
具体的な日付を決めることなくやり取りを終わらせた。俺の本当の狙いはここにある。このままズルズルと予定を延ばし、約束を有耶無耶にするというのが俺の狙いだ。本当にすっぽかすつもりはないが今考えるのも疲れるので先延ばしにする。世に言う「行けたら行く」みたいなものだ。
――――――ああ、そうだ。このやり取りと約束のこともマコトに相談しないと…。
◇
「もしかして…二宮君、勘違いしてるのかなぁ。気のせいかもしれないけどこの前の時も今回も、コウキ君との間を取り持とうとしてるような……。私が気になってるのはコウキ君じゃなくて……。今度会った時に直接誤解を解けば大丈夫だよね。約束もしたし。それに、コウキ君はトウコちゃんがお似合いだし。…トウコちゃんは二宮君のこと気になってないはずだよ…ね?」
◇
「あいつ絶対勘違いしてる気がする。確かにコウキ君はかっこいいし優しいし、彼氏としては理想なんだけどね。なーんかニノと気が合うんだよなー…。しかも私よりスポーツ万能だし、話してるとノリが合うし、ギャップがあってなんてゆーか……。ま、いっか。今度遊ぶときたっぷりからかってやるんだから。それであたしのこと意識するでしょ。……そういえばアヤネも気になるって言ってたような…。でも後半コウキ君と良い感じだったし、さすがにあっち狙いでしょ」
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