第38話

 お昼時になったので近くにあるファミリーレストランで食事をとることに。安い美味いの学生の味方。

 そこでお互いのことを詳しく話す。空気に徹することもできたが、コウキたちに気を遣われたくないので適度に会話に混ざる。出過ぎず、引っ込み過ぎず、こういう場でバランスをとるのは得意だ。女子の反応に期待はしていなかったが、佐々木さんは目を見て俺の話を聞いてくれた。こういう細かな気配りに惹かれるものがある。

 マコトに注意されていなければ、惚れてたかもな。

 今だからこそ、冗談めかして思うことができる。


 ある程度食べ終えると、女性陣はこぞってお手洗いに行った。この行動、聞いたことがある。作戦会議や中間報告を目的とした時間。その間、男子の方でも同じことが行われる。

 ユウタとケイスケはコウキが独り占めしないように釘を刺す。「ユイちゃんは俺が狙うからな!」「巻島さんには手を出すなよ」と彼らも彼らで必死なようだ。君たちはそんなに困ってないだろ……。

 整理しておくと、ユウタのペアが奥岡ユイさん、ケイスケが巻島チホさん、そして、


「コウキはどうなんだよ?東堂さんと良い感じだったじゃん」


 コウキと組んでいたのが東堂トウコさん。その東堂さんこそが多分、向こうのリーダー格だ。


「どうもこうも別に……。まだわかんねーよ」


 コウキはそう言ってはぐらかす。見た目に反して慎重派なのは相変わらずだ。東堂さんの印象は、前に語り合った時にコウキから聞いたタイプに近い。ユルフワの髪をかき上げて色気ムンムン。歳は俺たちと同じだが、醸し出すオーラはお姉さんと呼んでしまいそうだ。

 それを知っていたから好印象と思ったのだが、そうではなさそう。決めかねているだけかもしれないが、何か別のことを気にかけているような。


「他の子とも話してみたいし……。エツジはどうなんだ?盛り上がってたし、佐々木さんに気があったりとか……」


 俺に振られたところで、どうもないんだが。元より勝算はないのだし、適当に楽しんではいる。


「佐々木さんは優しいけど、気があるとかではないな」


 「そうなのか?」とコウキは喰いつく。その反応だと東堂さんより……。まさかな…。


 まあいい。何であれ今後の様子を見て黒子としての役割を全うしよう。


 女性陣が中々戻ってこないので俺もお手洗いに行く。扉付近では隣の女子トイレから話声が聞こえてくる。まだ続いているようだ。けっこうなボリュームだったので盗み聞きではない、不可抗力だ。


「マジコウキ君かっこいいわー。生で見るとヤバイっしょ」


「だよねー。チョー優しそうだし。羨ましいけどトウコとお似合いじゃん?」


「そう?でも他の人もかっこいいし良い人そうじゃない?」


「なくはないかなー。でもでも、二宮ってのはなんかビミョーじゃね?見劣りするってか、地味っつーか」


「だよねー。よくわかんないけどあれは無いかなー」


 今さらショックは受けないな。あのメンツで俺を選ぶ人はいないだろうし、自分でも選ばないだろう。慣れたもんだ。


「アヤネはどうなの?けっこう喋ってたよね?」


 佐々木さんがどう思ってるのかは気になる。あわよくばなんて思ってはないが、悪い印象はないはずだが……。


「うーん…。かっこいいって感じではないかなぁ。好きなタイプってわけじゃないし…」


 まあ、そうだよな……。

 佐々木さんのことだから男がいない場でも精一杯オブラートに包んで言葉を選んでいるのがわかる。そのうえで良い評価は得られなかったというのは、ある意味俺の読みが正しかったということだ。


「だよねー。アヤネのタイプってもろにコウキ君じゃん?来る前も会えるの楽しみにしてたし。まあアヤネには悪いけど、トウコとくっつきそうだけどね」


 なるほどな。佐々木さんも狙いはコウキか…。コウキの気持ちはわからないが、知ってしまった以上何らかのアシストをしてあげるか。


 それ以上聞くのは申し訳なかったので用を済ませて、先に席に戻った。




「たしかに、コウキ君みたいな人が憧れだったんだけど、二宮さんと話してみるとすごい話しやすくて、自分でも意外なほど楽しかったの。雰囲気も似てるし、見てると細かいところで気配りしてて優しいし。気になってるていうか……」


「ご、ごめんね。悪く言っちゃった…」


「だよねー…。あーしもそんなつもりなかったんだけど…」


「いいのいいの!好みなんて人それぞれだし……。ただ、もっとお話ししたいなぁって…。それで、もっと仲良くなれたらなぁって」




 食事を終えた俺たちは様々なスポーツができるエリアに移動していた。

 ここでも器用貧乏な俺の特性を存分に発揮する。手加減ではないが、どの競技も誰もが楽しめるように調整する。さながらバランサーだな…。

 そのおかげかあまり喋っていなかった3人とも距離を縮めることができた。というかいじられキャラに近いが、悪くはない。佐々木さん以外にはいつの間にか「ニノ」と呼ばれてるし。

 フットサルではボウリングの借りを一気に返される。さすがに太刀打ちできなかった。

 団体競技だけではなく、個人で遊べるブースもあるので、一通り遊んだら、少人数のグループに別れて行動する。休憩は各自とりたいタイミングで。

 体を動かすというのはやはり気持ちがいい。少々張り切りすぎた俺は、ベンチに腰掛けて、バスケをしているユウタたちを眺めていた。


「久しぶりの運動で疲れちゃった」


 隣に座ったのは佐々木さん。打ち解けてきたようで、敬語もとれている。

 佐々木さんはイメージのまんま、運動が苦手の様だ。女子としては欠点ではなく、微笑ましくも思えるが。


「二宮君、何でもできるんだね」


「体動かすのは好きだからな」


「私なんて全然だよー」


「そうだね。バレーの時なんて1人であたふたしてて面白かったー」


「もー笑わないでよー」


「ハハハッ。冗談だって」

 

 佐々木さんは熱を冷まそうと、汗をぬぐいながら、呼吸を整える。その仕草はなんだか艶っぽい。

 こういう面をコウキに見せるべきだけどな。


「私みたいなどんくさい女って男子は嫌いだよね?」


 実際、好き嫌いはあるかもしれないが、コウキだったらそんなこと気にしないだろう。


「そんなことないよ?愛嬌があるというか…。コウキもそう思ってるはず」


「なんでコウキ君が出てくるの?」


 さすがに無理矢理すぎたか。こうでもしないと佐々木さんは消極的だから本人に聞けないだろうし…。さっきからコウキとは全然喋れてないし、贔屓するわけではないけど少しくらい2人きりにしてあげたいな…。


「ニノ!何休んでんの!卓球するよ!」


 俺が作戦を練っていると、東堂さんとコウキが俺の前に立っていた。

 俺がいじられた時に自虐も交えて話していたら、ノリがいいと思われたようで、何故か東堂さんに気に入られた。ほぼ下僕のような扱いなので成り上がったのか、成り下がったのか微妙なとこだが。

 とにかく、降ってわいたこのチャンスを利用しないわけがない。「はいはい行きますよ」と立ち上がった拍子にコウキに耳打ちする。


「佐々木さん、コウキ気になってるっぽいし、一回話してみれば?」


 コウキの気持ちもあるが、話してみないとわからないこともある。コウキも了解、と目で合図をくれたので、俺はコウキと入れ替わる。


「コウキと佐々木さんはもう少し休憩するらしいから、ちょっとの間、俺1人が相手でいい?」


「しょうがないなー。ニノをボコボコにして我慢するか」


「え?二宮君が行くなら私も―――」


「佐々木さん、もう少し休んでから行こ」


 東堂さんがすんなり納得してくれたので、上手くいった。

 あとは頑張れよ!佐々木さん!

 心の中で応援しながら、卓球で燃え上がっていた。

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