第37話
コウキから遊びの誘いがあった。メンバーはコウキ、他コウキの友達2人、そこに俺を入れて計4人の予定だと。特に用事も無く、せっかくの誘いということで参加することにした。
現地集合ということで指定された場所はボウリングやゲームセンター、カラオケにスポーツ等が一か所で楽しめる、複合型のレジャー施設。
先日のバスケの練習試合を観てから、体を動かしたい気分になっていたので、俺としては珍しく乗り気になっていた。
集合場所に着く頃には、コウキともう1人は先に着いていて、あと1人となった。もちろん遅刻はしていない。
「おーすエツジ!来てくれると思ってたぜ!」
コウキと最後に会ったのは花火大会の時だったかな。間隔としては短いが、長い期間会ってないように思える。それくらい俺の心持は変わったのだろう。
「紹介するよ」と連れられたのはそこにいたコウキの友達の前。学校で見たことはあるけど喋るのは初めてだ。
「こいつは
コウキは平山君にも同じように俺を紹介する。お互いを軽く知ったところで、よろしくと挨拶を交わす。嫌っているわけではないと思うが、友好的とは思えないくらいじっと観察してくる。
「コウキの親友って言うからどんな奴かと思えば、思ったより地味だな。本当に大丈夫か?」
はて?大丈夫というのはどういうことだ?
「おいユウタ!初対面でそれは失礼だろ!エツジは落ち着いてて大人びてるんだ。むしろ心強いと思うぞ?」
「悪い悪い。別にけなしてるわけじゃねーんだけど、今日はある意味勝負だろ?俺も真剣なんだよ」
勝負?何のことだ?
「エツジは良い奴だぜ。俺が保証する」
背後から聞こえたその声は聞き覚えがある。
「よ、エツジ。学校外で会うのはあの時以来だな」
「もう1人ってお前だったのか、ケイスケ」
合流してきたもう1人のコウキの友達とは、林ケイスケのことだった。彼とはいざこざがあった末、友達として良い関係を築けている。
「あの時」というのは多分カラオケでのこと。今と比べると人間関係も良い方向に向かっていると実感する。
「何だよ?ケイスケも知ってるのか?」
「ああ、前にちょっとあってな…。その時に仲良くなったんだ。エツジはおとなしい雰囲気だけど、すげー良い奴だし、話してみるとおもしれーよ」
最近になってクラスでも俺とケイスケはよく喋るようになった。俺は心を開いた人と話すとき、フランクになるので、ケイスケもそういう認識になったのだろう。
「2人が言うならそうなんだろうな。悪かったな。俺のことはユウタでいいから、俺もエツジって呼んでいいか?」
2人のおかげで平山君もフレンドリーになってくれた。申し出を受けて、ユウタと呼ばせてもらうことに。幸先の良いスタートで、胸が躍る。やはり踏み出してみるものだ。
「よし、揃ったことだし、頑張ろうぜ!」
ユウタが意気込んでいる。ただ遊ぶだけなのに、何故そんなに気合を入れているのか?
俺1人だけ蚊帳の外のような気がした。
疑問に思ったのでその場で聞いてみると、逆に不思議そうにユウタとケイスケがこちらを見る。
「もしかしてコウキ、言ってねーの?」
「いや、今から言うつもりだったんだけど……」
「お待たせー」
コウキが何かを言いかけた時、割って入って来たのは華やかな女の子の集団だった。人数は見た所俺たちと同じ4人。
「そっちも揃ってるみたいだね。じゃあ行こっか」
その集団が移動を始めると、ユウタとケイスケもそれについていく。
なんとなく状況が読めてきたが、聞かずにはいられない。
「おい、これはどういうことだ?コウキ…」
「いわゆる合コンってやつだな」
「聞いてないぞ」
「ごめんごめん…。言おうと思ってたんだけどな…。でも誘う時に言ったら来てくれないと思って……。頼む!このまま一緒に参加してくれないか?俺も初めてでどうしたらいいかわかんねーんだよ。エツジがいてくれると助かる」
前に聞いた合コンの話は本当だったのか。急な話で心の準備が出来ていないが、ここまで頼まれるとな…。興味もあるし、ここで俺だけ帰って空気をぶち壊すほどバカではない。
「わかったよ…。俺もよくわからんけど、せっかくなんだし楽しもうぜ」
前向きな発言をしておく。コウキが無理矢理参加させたと気を遣わないように。コウキもホッとしているので、騙しているように感じていたのだろう。
「おーいお二人さん。置いてくよー」
覚悟を決めた俺たちは戦い前の戦士のような険しい顔つきで、戦場に向かうのであった。俺のは貧相な皮の鎧、コウキのは終盤で手に入る伝説の勇者の鎧だという事実には触れないで頂きたい。
話し合いの結果、まずはボウリングをすることになった。
多少腕に覚えがあったので、ここはポイントの稼ぎ時か?などとプランを練っている辺りすでに楽しんでいる。
男女同じ人数がいるなら、それぞれペアを組むのが自然な流れ。個人指名にするとコウキの売り上げが上がってしまうため、くじ引きで決める。その時にようやく自己紹介を聞いて女性陣を1人1人を認識した。話によると、近くの商業高校の子たちらしい。派手目な雰囲気はギャルに近い。化粧が濃い人を敬遠していたのだが、対面してみると有りだな。
というかモテなさ過ぎて女なら誰でもいい説ないか?
節操のない考えを振りほどいてくじを引くと、1人の女の子とペアに。
名前は佐々木アヤネ。4人の中では一番控えめでおとなしそうだ。顔は可愛いものの、俺と似たものを感じる。
ボウリングは男女交互に投げる。一投目は佐々木さんに任せて、二投目で俺がフォローする。佐々木さんは上手くはなかったが、そこは俺のアピールタイム。そこそこ何でもこなすで定評がある俺は着実にポイントをゲットする。
「上手ですね」なんて言われて良い気にもなっていた。それをきっかけに会話は増えていく。佐々木さんは人見知りなようだが、そこは男の俺がリードした。昔コウキと実践した経験がここに来て発揮される。
「私、こういうの初めてで緊張してたんです。上手く話せるかなーって」
「わかる。俺も初めてだから。緊張するよね」
「二宮さん初めてだったんですか?慣れてるからてっきり…」
「本当だって!緊張してるのがバレないようにしてるだけで、ほら、手汗やばいでしょ?」
「ホントだー」と笑ってくれた。佐々木さんも硬さが無くなってきている。そうなると投げる前の「頑張れー」の一言さえも嬉しくなる。定番のハイタッチを決めるためにスペアも狙いまくる。
何これ。楽しすぎか?
最初の方は露骨にコウキを狙っていた女性陣も、次第にそれぞれのペアといいムードとなっている。コウキ以外もかっこいいからな。
佐々木さんも楽しそうにしてくれてはいるが、本当は他の人とがよかったんだろうな…。
考えたところで悲しくなるので、俺は俺で予行練習のつもりで勝手に楽しむ。どうせ発展することなんてないのだから。
余談だがボウリングではイケメン共を蹴散らしてやった。こんな時くらいしか勝てないからな。せめてもの意地というもの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます