第21話

「いいじゃんいいじゃん!それなら俺にもチャンスあるな!」


 リキヤの提案に賛同したのはコウキだった。今までみんなの顔色を窺っていたのに、どういう風の吹き回しだ?

 この話の発端のシズクちゃんは渋っていたが、サユリとエリカは提案に乗る素振りを見せている。


 確かに、得意科目で勝負できる分、公平ではあるが、そもそもやる意味もない。


「待て待て待て。シズクちゃんだからいいよっていう話だ。お前らにオーケーしたつもりはない」


 「そうですそうです!」と激しく首を振るシズクちゃんと俺を一蹴したのはエリカだった。


「関係ないわ。シズクちゃんも、もう立派な女性よ。子供扱いは良くないわ。それに、これはもう決定事項なのよ」


 出たよエリカ様……。こうなった時に逆らえる人はいるのか?


「いや……それにしたって……、何が目的なんだよ?お金も持ってないからな?」


「お金目的じゃないわよ!それは…その…、私も花火大会2人で行ってみたいわ……」


 たかる気満々じゃねーか!


「ちょっと待ちなさいよ!私も、その……、花火大会……、2人で……いきたぃ……」


 勢いよく待ったをかけた割に、最後の方はほとんど聞こえなかったのは通常運転のサユリ。

 花火大会という単語が聞こえたので、こいつもたかる気なのだろうか?それとも2人とも単にシズクちゃんと張り合っているだけなのだろうか?

 どちらにしても大人げない……。


「なんとなくわかったけど…。百歩譲ってサユリとエリカはいいとして、リキヤとコウキは関係ないだろ!」


「おいおい!仲間外れは良くないぜ!」


「うむ、その通り!俺たちにも願望はあるってもんだ」


「一応聞くけど、何なんだ?」


「俺の方はズバリッ、一緒に合コン行こうぜ!エツジ!」


 「おい!」と俺が突っ込む前にサユリとエリカとシズクちゃんが一斉にコウキの頭を叩いていた。

 見事に揃った打撃に、一度は顔を沈めるも、すぐに浮上して「誤解だ!」と二撃目を防ごうと頑張っている。

 コウキを囲むように立っている3人の女の子は目が吊り上がり、鬼のような形相というのはこのことなのだろうなと、口には出せないが、内心思ってしまった。

 女友達がいる場で、しかもその内1人が妹という状況で「合コン」というワードを出すのはあまり印象が良くない。こうなるのは自業自得だ。


「違うんだって!この前、友達に誘われたんだって!最初は断ってたんだけど、どうしてもって言うし、付き合いもあるから引き受けたんだ。でも俺も合コンなんて初めてだからさ、不安だし…。エツジがいれば盛り上がるし、俺も安心して行けるからさ。俺を助けると思って、頼む!」


 コウキの中で俺はどんな人物なんだ?……まあちょっとは興味あるけど。


「駄目に決まってるじゃない!」


「えぇ、まったくだわ…。エツジ君が合コンなんて認められないわ」


「コウキ兄……、最っ低!」


 君たちも君たちでなぜ俺が行けないと勝手に決めつけているんだ?……柄ではないのはわかっているが。


「コウキの話は置いといて。リキヤは?」


「決まっている!エツジ、俺と共にバスケをやろう!目指せ全国制覇!」


 こいつはまだ諦めてなかったのか。というか今更だが、なんで俺だけ負担になっているんだ?


「はあー…。なるほどな。でもよく考えてみたら俺だけ―――」


「なんか面白い話をしてるみたいだね」


 扉を開いて現れたのは遅れてきたマコトだった。


「「「「マコト!」」」」


 「久しぶりー」とみんなに手を振るマコト。俺は先日あったばかりだがこうして6人揃うのは卒業式以来だ。


「コウ君、どいてくれる?」


 他にもスペースはあるのに、わざわざコウキをどかそうとしている。何の意図があるのかはわからないが、コウキも戸惑っている。


「いや、でも他にも座る場所…」


「コウ君」


「……はい」


 マコトの微笑みから何かを感じ取ったのかコウキはすぐに場所を空ける。その微笑みは隣にいる俺にも向けられたのだが、俺には何も感じられなかった。

 座って一息ついてから、話を続ける。


「で、なんの話をしてたの?」


「今回のテストで、5教科の中で一番高い点数で勝負して、勝った人がエツジからご褒美をもらえるっていう話よ」


 サユリが簡潔に説明してくれる。


「うんうん…、それは良くないね」


 さすがはマコト!こういうノリの時に唯一味方になってくれるのはお前だけだ!


「僕抜きでそんな面白そうな話をするのは良くないなぁ」


 お前もそっちかよ!


「やろうよ、その勝負。ねえ、いいでしょ?エっ君?」


 マコトが上目遣いで迫ってくる。卑怯だ。今回ばかりは俺にリスクがありすぎる…。

 迷っていると、俺にだけ聞こえる声で何か言っている。


「大丈夫。僕が一番になって、適当なご褒美で終わらしてあげる」


 やはりマコトは俺の味方だ。学力的にもマコトなら信頼できる。

 この窮地にこの言葉をかけられると、マコトが天使に見えてくる。


「あーもう、わかったよ…。ご褒美の内容はともかく、勝負はやるよ」


 マコトだけじゃなくて、俺自身が一番になる可能性もある。


「その代わり、俺が勝ってもご褒美は有効だからな?覚悟しとけよ?」


「エツジも?何を要求するのよ?」


「うーん…、そうだな…。サユリに1週間弁当作ってきてもらう…とか?エリカにマンツーマンで勉強を教えてもらうとかもいいな。合コンじゃなくてもコウキのおごりで遊びに行くのもありだな。シズクちゃんに1日妹として家に来てもらうとか、マコトなら徹夜でゲーム付き合ってもらうとか、リキヤに関してはバスケ部勧誘は今後一切禁止だな……なーんて適当に言ってみたけど…」


 気がつけば場は静まり、俺のもとに視線が集中していた。冗談なのだが、そんなに酷い内容でもないだろう…。俺にもこれくらいのわがままは許されるだろ?


「負けてもいいかも……」


 しばらく続いた沈黙を破ったのは、誰が発したかも、真意もわからないこの一言だ。


「いいわけないだろ!」


 すかさずリキヤが立ち上がる。


「そ、そうね…。とりあえず、勝負成立ってことでいいかしら?」


「面白くなってきたじゃねーか!」


「私、絶対負けませんから!」


「私としては……弁当くらい毎日……。でもどうせなら勝つわ!」


「フフッ…。いいね、みんなやる気になったね」


「ちなみに、マコトは何を要求するのかしら?」


 頼むぞ…。適当に誤魔化してくれよ?


「うーんそうだなー…。エっ君と○○とか○○とかしてみたいな」


「「「「「「は?」」」」」


 前言撤回、やはりこいつは悪魔だった。

 丸く収まりかけていたのに、この発言で場はさらに荒れた。それ以降の勉強は捗るわけもなく、熱を帯びたままこの日は解散となった。

 この日からテストが終わるまで、友でありライバルとして競うこととなる。


有薗シズク:私を花火大会に連れてって!


白石サユリ:花火大会に行くなら私でしょ!


真弓エリカ:私が花火大会へ一緒に行ってあげるわ。


有薗コウキ:いざ、合コンへ!


松方リキヤ:バスケ部に栄光あれ!


二宮エツジ:保留。


結城マコト:ピ――――――――(規制)


 かくして、突如始まったテストご褒美争奪戦の結果はいかに……。

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