第20話

 食事中にテスト勉強の話をしていると、シズクちゃんも「一緒にします!」とやる気になり、参加することになった。


 昼食を終えた後、勉強を再開。

 食べたすぐ後なので、空気は緩い。雑談を交えての勉強となった。


「しっかしそれだけ可愛かったら、シズクちゃん、モテモテなんじゃなーい?」


 ニヤニヤしながらサユリが話を振った。この手の話題は好きそうだ。急に振られたシズクちゃんも驚いている。


「ちょっと何言ってるんですか!そんなことないですよ!」


「えー?ホントにー?そんなことあるんじゃないのー?」


「そうね。シズクちゃんくらい可愛かったら男子はほっとかないでしょう?」


 意外にも乗って来たのはエリカだった。あまりこういう話をしているイメージがないが、女の子同士だとそういうものなのだろうか。


「本当にないですって!やめてくださいよ!」


「あれ?でも前に告白されたって言ってなかったか?」


「ちょ、馬鹿!何言ってんのよ!」


 唐突なコウキの暴露にみんなの興味がそちらへ向いた。かく言う俺も、勝手に妹のように思っていたので、そこら辺の事情が気になっていた。


「やっぱり告白されてるじゃない!で、どうなったの?」


「断りましたよ!」


「えー何でよー?」


「別にタイプじゃなかったので……」


「他にも告白されたんじゃないかしら?1人だけなはずないもの」


 サユリとエリカが生き生きとしている。


「全部断りました!」


「1人くらい良い人いなかったの?」


「本当はどうなの?」


 サユリとエリカに詰め寄られるなんて怖すぎるだろ……。


「わ、わたし、好きな人いるもん!」


「キャー!そうなの?だれ?誰?」


「そ、そうだったのね。で、誰かしら?」


「うむ、青春だな」


「ええ?!だ、誰なんだ?お兄ちゃんに教えなさーい!」


 「やめてやれよ」と言ってやりたいが、内心俺も気になっていた。

 ろくでもない男だったらぶっ飛ばす……。

 サユリとエリカとコウキは特に喰いついて、どんどんシズクちゃんに詰め寄っていく。距離が近くなるごとに、3人は大きくなって、シズクちゃんは小さくなっていくように感じる。照れているのか、顔が赤くなっていく。

 そんな中でシズクちゃんが俺の方をチラチラ見ていることに気が付いた。3人を見て、俺の方を見て、また3人を見て、交互に目線を動かしている。

 俺はそのメッセージを受け取った。助けを求めているのだと。それもそうだ。寄ってたかって年上の人たちに、好きな人を教えろと迫られているのだから。仮に女子会ならまだしも、男子もいて、その内1人は兄なのだ、嫌がるのは当たり前。思春期ならなおのことだ。


「ストップ!ほら、シズクちゃん怖がってるだろ?無理に聴くのはやめとけって」


 相手が知りたい気持ちをこらえて止めに入る。3人が俺の言葉に気を取られた瞬間に、シズクちゃんは俺の背後に回って身を隠す。それを見て3人も冷静になったのか、それ以上の追及はしなかった。


「ありがとうございました」


「俺らも悪かったよ」


「エツジさんには…、いつか教えてあげます…」


「うん、わかった。その時はシズクちゃんに相応しい男かどうかしっかり見極めてあげるから」


「……バカッ」


 シズクちゃんは元の位置に戻っていった。

 最後の一言……。兄貴面しすぎたか?


 気を取り直して、再び勉強を始める。そこから小一時間程、集中して取り組んだ。

 集中力が切れてくると、手よりも口が動く。


「シズクちゃんは中学のテストはどんな感じ?」


「そうですね。割と良いほうですよ?この前のテストでは学年で5位でした」


 優秀だな。どうして俺の周りには才色兼備の人が多いんだ。


「あら、凄いわね。コウキ君の妹とは思えないわ」


「ホントね。なかなかやるじゃない」


「うむ、大したものだ」


 コウキも賢いんだけどな。まあ比べるとそう思うよな。

 コウキも自分のことより、妹が褒められて誇らしげだ。


「ありがとうございます」


 シズクちゃんは唇を尖らせながら、こちらを見てくる。


「エツジさんは…褒めてくれないんですか?」


 ああ、そういうことか。


「よく頑張ったね」


「エヘへッ…。ありがとうございます」


 この一言で嬉しそうにするシズクちゃんは、子供っぽくて可愛らしい。


「あの、エツジさん。今回のテストの結果が前回より良かったらご褒美くれませんか?」


 もじもじしながらお願いしてきたシズクちゃんは俺に何か頼み事があるのだろう。前回の結果を上回るのは容易ではないので、できれば聞いてあげたい。


「俺ができることならいいよ」


 「ホントですか!」とぴょんと飛び跳ねる。内心がそのまま表に出ている。


「ご褒美って何が良いの?」


「テスト明けにある花火大会に一緒に行って下さい!」


 思っていた内容と違っていたので、思わず「え?」と漏れてしまう。

 その時、ペンを走らせる音はピタッと止まって、みんなの顔がこちらに向いた。


「いいけど……。毎年みんなで行ってなかった?」


 この花火大会というのは地元で行われるそこそこ大きな夏のイベントだ。7月の終わりに開かれ、屋台も立ち並んで、近隣の大勢の人が押し掛ける。夏休みの始めということもあり、学生も多く、この地域で夏の風物詩となっている。


「そうですけど……、今年は2人で行ってみたいな……って」


 そう言ってもらえるのは嬉しい気持ちもあるのだが、コウキの前でそれはいいのか?

 コウキはコウキで何やら不味いような表情だ。


 俺は返答に困っていた。というのもこの花火大会にはいつもお馴染みの6人で行っていた。たまにシズクちゃんも一緒に行くこともあった。

 毎年、花火が打ち上がる前に屋台を散策し、時間になったら場所を移動していた。その場所というのは少し離れたところにある橋の上だ。周りに建物がなく、人もいない穴場スポットなので、そこで花火を鑑賞するのが定番となっていた。

 今年もそのように考えていたのだが、どうしたものか。


「ちょっといい?」


 待ったをかけたのはサユリだった。みんなで行っていたのだ、異議があるのは当然だ。


「シズクちゃんだけご褒美ってずるくない?」


 そっちかよ!何を言うかと思えばそこで張り合ってどうすんだよ。


「そうね。私にもあるわよね?」


 当然かのようにエリカも入ってくる。こうなるとあまり良くない流れだ。


「お前らにご褒美なんていらないだろ!俺と同じテストなんだから」


「不公平よ!私たちだって権利はあるはずよ!」


「そんなの言い出したらキリがないだろ!」


「……ならこういうのはどうかしら?次のテストの5教科合計で一番点数が高かった人にご褒美が与えられるというのは」


「あんたが一番有利じゃない!」


「あら、日頃からの努力よ?」


「うむ、なら各々5教科の中で一番高い教科の点数で比べるのはどうだ?これなら正々堂々競い合える」


 何故かの満を持してのリキヤの参戦。ここから話し合いは加速し、勉強から更に遠のくこととなる。

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