第19話
週明けにテストが始まるとのことで土曜日にいつもの6人で勉強会を開くことになった。そして今、コウキ宅にてその勉強会の最中だ。
中間テストの結果が悪かった人の救済を考えてのコウキの提案だ。まあ悪かったのは主にコウキとリキヤなのだが。俺たちを学力順にざっと並べると、エリカ、俺、サユリ、コウキ、リキヤ、となる。マコトに関してはエリカと同じくらいだろう。
学校が違うマコトも今回の勉強会に後ほど合流するらしい。
「すまないな、みんな……。俺の為に……」
「別にリキヤの為だけじゃねーよ。俺もけっこーやばかったし、全員で協力して乗り切ろうぜ!」
俺としても科目によってはエリカやサユリに質問できるし、教える時も、より内容を噛み砕くことで理解が深まる。
「そういえばエリカは中間で何位だったんだ?」
「2位よ」
「マジか…。すごいな」
「でもエツジ君だって上の方でしょ?数学にいたっては私より上じゃなかったかしら?」
「うーん、得意は得意だけど、今回はどうだろ…。サユリも結構よかったよな?」
「私は逆に数学が駄目ね。だから、わからないところはしっかり教えてね、エツジ?」
「私が教えてあげるわ。その代わり、エツジ君は私のわからないところを教えてちょうだい」
「俺がエリカに教わる側だろ?」
「そうね。助け合っていきましょう。てことでコウキ君、席替わりましょう」
「ちょっと!どさくさに紛れてなに入れ替わろうとしてんのよ!」
「俺とエリカはバラけたほうが教えやすいんじゃないか?」
席は俺とコウキ、エリカとリキヤがそれぞれ隣同士で、幅の狭い真ん中にサユリが座っている。話し合いの末、座る位置は替えずに続けることになった。
賑やかだったのも最初だけで、一旦勉強に取り掛かると、みんな集中し始める。黙々と問題を解いていく。リキヤとコウキも自分の力で挑戦し、わからないことは俺たちがフォローする。俺も、エリカやサユリのおかげで勉強は捗った。
2時間程経って、時刻はお昼前。「ふぅー」とコウキが力を抜きながら、背筋を伸ばす。それを合図にみんなも体勢を崩す。休憩するには良い時間だ。
「お昼どうする?」と話していると、玄関の方から誰かが入って来た音がした。リビングを使わせてもらっていた俺たちは、挨拶をしようと体を扉に向ける。
「ただいま」と入って来たのは、コウキの妹の有薗シズクだった。
「誰か来てるの?…って皆さん!来てたんですか!もー、コウキ兄言ってよー」
家に何度かお邪魔しているので、シズクちゃんとも全員面識がある。
「あ!エツジさんも!お久しぶりです!会いたかったですー!」
ガッと勢いよく抱き着かれる。何故か俺はシズクちゃんになつかれている。小学生の時からコウキの家に出入りしていて、よくコウキと一緒に遊んでいたからだろうか。もう1人の兄のように接してくる。俺としても妹がいないので可愛らしく思っていた。
久しぶりに再会したシズクちゃんは中学2年生となっていて、以前より可愛くなっていた。昔のような距離感で来られても困るのだが……。
「久しぶりだね、シズクちゃん。元気にしてた?」
「元気ですよ!でも、最近全然遊びに来ないから寂しかったですよー」
「アハハ…。てかコウキ言ってなかったのか?」
「親には言ったんだけどな。朝から出かけるっていうからあんまり気にしてなかったな」
ちょうど母親も入って来た。
「あらみんな。久しぶりね」
「「「「お邪魔してます」」」」
「そんなかしこまらなくていいわよ。ゆっくりしていってね」
そう言ってにこやかに台所の方へ向かって行った。
最初の方はリビングを使うのは気が引けたのだが、両親も別で過ごす部屋があるらしく、遠慮しないでとのこと。なので今となっては遠慮なく使わせてもらっている。
「見てください!エツジさん!私、成長したでしょ?」
目を輝かせて見上げてくるシズクちゃんは、中身は変わってなさそうだが、確かに成長している。色んな部分が…。
「うん。大きくなったし、可愛くなったね」
黒髪のボブは変わっていないが、身長も伸びて、幼さもなくなってきている。コウキの妹だけあって、整った顔はサユリやエリカにも引けを取らない。
「でしょでしょ?」と目の前で飛び跳ねるシズクちゃんは可愛らしい。コウキは時々、文句を言うが、こんな妹がいたら最高だろう。
「オッホン!…シズクちゃん、ちょっと近いんじゃない?」
「そうね、そろそろ離れたほうがいいんじゃないかしら?エツジ君も困ってるわよ?」
「サユリさんにエリカさん、こんにちわ。でも、私とエツジさんはいつもこんな感じですよ?ねぇ?エツジさん?困ってないですよね?」
コウキの前で近すぎるのもな。
「とりあえず一回落ち着こうか」
頭を撫でて距離をとる。俺の言うことは素直に聞いてくれる。コウキ曰く、猫をかぶっているらしいが、シズクちゃんに限ってそれはありえないだろう。
「ていうかシズクちゃんには…その…可愛いって言うくせに、私たちには何もないのね」
「そうね…。もう少し見てくれてもいいんじゃないかしら?」
両者、じっと俺の方を見てくる。俺、何もしてないのだが……。
「おいエツジ。2人とも何かいつもと違わないか?」
小声でコウキから助け船が出された。確かに、会った時から気になっていたことはある。
「そういえば、2人とも、いつもと髪型違うよな?」
2人の方を見返すとプイッと目を逸らされる。合っているのか、間違っているのか、これではわからない。
サユリはいつものツインテールではなく、毛先を巻いて髪を下ろしている。エリカは逆に上の方で結っていて、王道のポニーテールというやつだ。
ここに来た時からその事には気づいていた。もっと言えば、いつもとのギャップにドキッとしていた。ただ、勉強会という名目で集まっている以上、触れるかどうか迷っていた。それに、女性の変化に敏感すぎると「キモイ」と言われそうなので下手なことは言えなかった。触らぬ神に祟りなし、というやつだ。
「……それだけ?」
「あー…いや…そのー…、なんて言ったらいいかわからんが、すげー良いと思う。いつもと違って、ちょっとドキッとした」
探り探り感想を伝えてみた。依然として目は合わなかったが、口角が少しだけ上がったようにも見える。
「ふ、ふーん。まあいいわ」
「そうね。これくらいにしといてあげる」
なんとかなったみたいだ。というかリキヤとコウキにはお咎めなしかよ。もしかして来て早々に褒めてたのか?だとしても俺にもそれとなく教えてくれよ。
リキヤとコウキは俺と目が合うと白々しくとぼけている。
台所から「お昼ご飯の支度するわね」と声が聞こえた。外食も考えていたがお言葉に甘えることにして、勉強は午後から再開することにした。
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