~side 結城マコト~
「フンフフンフフン♪」
浴槽につかりながら、鼻歌を歌ってしまう。
今日は気分が良い。久しぶりに心から楽しかった。
「あーやっぱり同じ高校にすればよかったなー」
あまりに楽しすぎて、過去の選択を後悔してしまう程だった。
今の高校に通うことを決めたのは僕自身だ。でも、最初からそうだったわけじゃない。僕もみんなと同じ高校に通うつもりでいた。学力的にも問題はなかった。
ある日を境に、僕は、エっ君と違う高校に行くことを決めた。
彼の心の声を聞いた、あの時に―――
放課後、部活などが終わってから、いつも僕は彼の部屋に入り浸っていた。それが日課のようなものだった。親同士も仲が良いので何か言われることはなかった。
その日も彼の部屋に向かった。ノックをせずに扉を開くと、彼はベッドの上で足を抱え込むように座っていた。一目でいつもと様子が違うのが分かった。
彼は、声をかけられるまで僕が来たことに気づいてなかった。「大丈夫?」と声をかけたら、すぐにいつもの彼に戻った。でも僕は見逃さなかった。一瞬、ハッと焦るような顔をしたこと。まるで、見られてはいけないものを見られた時のような。
そういうデリケートな部分には触れないほうがいいと言う人もいるけれど、僕は踏み込んだ。僕と彼の関係ならそれが許されるから。
『何かあったの?』
『いや、別に……』
『エっ君に僕の嘘がわかるように、僕もエっ君の嘘がわかるんだけどなー』
『……そうだよな』
『他の人には話せなくても、僕には話せないかな?』
『……しょうもない話だけど聞いてくれるか?』
彼はゆっくりと話しだした。彼が悩む程だから、しょうもなくないことはわかっていたので、僕も真剣に聴いた。
『マコト、可愛くなったよな』
想定外の言葉に『へ?』と思わず照れてしまった。
『サユリもエリカも可愛くなった。コウキやリキヤもイケメンになっちゃって。スポーツもできるし、みんな人気者だ』
相槌を打つも、まだ内容はわからない。
『俺だけなんだ……。俺だけ、何もないんだ……』
なんとなく察した。
『みんなキラキラしてんのに、俺だけ地味で……。みんなに混じって俺がいるって、おかしいと思わないか?』
『そんなことないよ。エっ君はみんなのヒーローだもん』
これは本心だ。
『たまに違和感を感じるんだ……。ここにいていいのかなって。周りはどう思ってるのかなって』
『考えすぎだよ』
みんな一緒にいたくている。それは間違いない。
『考えすぎなのはわかってるんだ……。でも、あまりにも差がありすぎて……、時々お前らといると自分がみっともなく思えてくるんだ……。わかってる。ほんとしょうもないよな……』
彼がこんなに悩んでいるなんて知らなかった。自分の鈍感さを恨んだ。
今の彼になんて声をかけたらいいかわからず、ただ、抱きしめることしかできなかった。
それ以降、彼が弱みを見せることはなかった。
ただ一度だけ、僕の前だけで見せた、僕だけが知っている彼の姿。
僕が近くにいることで、彼を苦しめるなら、離れようと決心した。求められたらすぐに駆け付けれるようにして。
なのに蓋を開けてみれば、僕以外の5人が同じ高校だったから驚いた。これでは意味がない。みんな何もわかってない。仕方ないか、僕だけしか知らないのだから。
久しぶりに会ってみて、確信した。彼には僕が必要で、僕にも彼が必要だ。
こうなったら、僕が誰よりも彼の傍にいよう。どんな時も、支えあっていく。
今までも、これからも、彼の一番近くにいるのは―――
「僕だ」
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