第15話

 最近の俺の楽しみは内山君とオンラインゲームをすることだ。話していくなかで、同じゲームをしていることが分かり、よく一緒にプレイするようになった。今日もその約束をしている。


 「ただいまー」と家に帰るも誰もいない。母は帰っている時間なのだが、どこかでかけたのだろうか?

 手洗いを済ませて自分の部屋に向かい、ガチャッと扉を開ける。


「おかえりー。遅かったね」


「おう、ただいま。ちょっと寄り道しててさ」


「そうなんだ。あ、お母さん買い物に出かけたよ」


「了解……え?マコト?!」


 あまりにも違和感がなかったので、気づくのが遅れた。


「今気づいたの?フフッ…お邪魔してまーす」


 俺のベッドで漫画を読みながら、さも自分の部屋のようにくつろいでいるのは結城ゆうきマコトだった。

 お察しの方もいるかもしれないが、マコトも仲良し6人組の1人で、その中でも唯一違う高校に通っている。同時に、俺と1番古い付き合いなのもこいつだ。マコトとは家も近く、小学校に入る前からよく遊んでいて、家族ぐるみの付き合いでもある。


「なにしてんだよ?てかどうやって家に入ったんだ?」


「遊びに来た時、ちょうどお母さんが出掛けるところだったんだ。遊びに来たことを伝えたら、エっ君の部屋で待ってていいって言うから、上がらせてもらったんだ」


 息子の許可はいらないのかよ…。まあでもマコトなら仕方ないか。


「んで、いきなりどうしたんだよ?けっこう久しぶりだよな」


「僕としては毎日来たかったんだけどね。でも違う高校に通いだしたから、自分から誘うんじゃなくて、エっ君のほうから誘ってほしかったんだ。求められたい?みたいな。変な意地だけどね。なのにエっ君からは全然連絡こないんだもん。ようやくこの前連絡がきたから、もう遊びに行っちゃえって思って」


 入学当初を除けば、買い物に誘ったのが、高校に入って初めてしたマコトへの連絡かも。


「悪い悪い。高校に入りたてはバタバタしてたんだ。そっちもそうだろ?」


 制服を脱ぎながら、背中越しに会話を続ける。


「そうだけど……」


 腰の辺りで何かが巻き付く感覚。背中には温もりを感じ、肩に息があたった。


「僕、寂しかったんだよ?自分で選んだけど、みんなと違う高校に行って……」


 こいつの距離感はバグっている。


「わかったから、離れろ。暑苦しい。…てことは今日は普通に遊びに来ただけなんだな?」


「フフッ…そうだよ。久しぶりなんだし、ゲームでもしながら近況報告でもしようよ」


 マコトはすでにゲームの準備をしている。俺の部屋のことは俺より詳しいのかもしれない。

 着替え終わった俺もマコトの隣に座って、コントローラーを受け取る。そこからはゆったりとした時間が流れる。

 画面を見ながら、学校の雰囲気や授業の内容など、大雑把に話し合う。ゲームとシンクロして「くらえ!」「やられた!」なんて言葉も挟みながら。集中しすぎて沈黙が続き、また話し出す。

 マコトとは喋ろうと思えば途切れることはないが、沈黙が続いても気まずいとは思わない。付き合いが長い分、少しだけ特別な関係だと思っている。

 人からよく相談される俺が、自分のことを相談するときは大抵マコトに話していた。だからマコトは俺が”悩んでいたこと”も知っている。


 話題は人間関係になっていた。


「そういえば、僕この前告白されたよ」


 マコトもルックスが良くて、性格も良い。数多の人から好意を寄せられるのは必然的だろう。


「エっ君より僕のほうがモテるんじゃない?」


 その通りなのだが……。


「お前、女子高じゃなかったか?」


 結城マコトは一人称は「僕」という、女子高に通う立派な女子高生だ。


「そうなんだけど、なんか告白されちゃった。あっ、もちろん断ったけどね…。僕、女の子なんだけどなぁ」


 マコトは女子なのに俺より女子にモテる。まぁ俺はモテないから比較対象が間違っているのだが、そこは目を瞑ってくれ。

 亜麻色のサラサラとしたショートカットに端正な顔立ち。全身から醸し出されるミステリアスな雰囲気は、美少年にも美少女にも見えてしまう。故に、男女両方から好かれる、まるで大谷〇平のような二刀流の使い手である。


「はぁー…。なんでマコトの方が俺より女子にモテるんだよ」


 まぁわかりきったことなんだけど、愚痴ぐらい言わせてくれ。


「僕もその気はないんだけどねー」


「その僕っていうのが理由じゃないか?いい加減やめたらどうだ」


「えー…。もう癖になったんだもん。誰かさんのせいでね」


 「今更変えれないよー」と俺を見てくる。

 昔、俺が僕っ子にハマって、頼んだのが原因なのは認めるけど……。


「わかったよ!好きにしろ」


「へへッ…。でも安心して。ちゃんと男の子が好きだよ?」


「へぇへぇそうですか……。隙あり!」


「あーちょっとずるいよー」


 そのまま俺たちがゲームを続けていると、下の方から「ただいまー」と聞こえた。母が帰って来たのだろう。


「そろそろ時間だな。切りのいいところで終わるか」


「えー?やだよー。せっかく久しぶりに遊べたのに…。まだ帰んないから」


「とは言っても母さんも帰って来たし、夕飯の時間だろ」


 頬を膨らませながら「お母さんの許可とればいいんだね?」と俺の部屋を出ていった。なんだか嫌な予感がしたので俺も後を追う。

 リビングに入るとすでに母とマコトが楽しそうに話している。


「ねぇねぇお母さん。僕、もう少しエっ君と遊びたいんだけど…、駄目かな?」


 ちなみに、マコトは俺の母のことも何故か「お母さん」と呼ぶ。


「もちろんいいわよ。よかったらマコちゃんも夕飯食べてく?」


 母も母でそれを受け入れている、というかむしろ喜んでいるようにも見える。そして、息子の俺よりも甘い。それを知っていたので、マコトが交渉すればOKするのはわかっていた。


「へへッ、お母さんがいいって」


「マコトの家だってご飯用意してるかもしれないだろ」


「大丈夫よ。ミキちゃんに連絡したらオッケーだって」


 報連相がお早いようで。「ミキちゃん」というのはマコトのお母さんのことで、2人は大の仲良しだ。休日はよく2人で出かけている。父親同士も仲が良いので、前は旅行とかも一緒に行くことがあった。


「でも、あんまり遅くなると危ないだろ」


「エっ君送ってくれないの?」


「あんた当然行くわよね?」


 いやまあ送るけど…。

 マコトからは上目遣い、母親から鬼のような眼つき、差がありすぎておかしくなりそうだ。

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