第14話

サユリ〈日曜日○○駅10時集合ね。遅刻厳禁だから〉


エツジ〈俺にも予定があったらどうするんだ〉


サユリ〈ないでしょ。あっても大した用事じゃないでしょ。とにかく拒否権は

    ないから〉


 やはり俺に拒否権は無いようだ。




 日曜日、俺たちは地元にあるアウトレットモールに来ていた。ここはテーマパークが隣接していて、それ目的の人や買い物目的の人、様々な人で賑わっていた。駅からバスも出ている為、交通の便もよく、家族からカップル、学生など幅広い人から人気のスポットである。

 そんな場所に俺たちは4で訪れていた。


「で、なんでエリカとコウキもいるのかしら?」


 よかった。今日もサユリはニコニコしている。額に血管が浮き出ている気もするけど、深読みはやめておこう。


「俺が呼んだんだ。今度はみんなでって話してたしな」


「当然ね。今日は部活もないのだし、来れてよかったわ」


「いやー前回は俺、呼ばれなかったからな!今日は遊びまくるぜ!」


 今回は全員に声をかけたからな。これで後からとやかく言われることはないだろう。


「リキヤは部活だって。マコトにも声かけたけど、用事があるからまたにするって」


「……そういうことじゃないわよ。…せっかく…2人きりで……デート…できるって楽しみにしてたのに……」


「どうした?サユリ?何か言ったか?」


「別に……なにも」


 少しむくれている気がする。俺なにかしたっけ?もしかしてサユリも何か知られたくないことを相談しようとしてたのか?だとしたら申し訳ない……。


「まあいいじゃんいいじゃん!せっかく来たんだし今日は楽しもうぜ!」


 こういう時にコウキがいてくれると助かる。

 「今日は何買おっかなー」と歩き出したコウキにつられて、俺たちも歩き出す。目的を決めるのではなく、ぶらーっと歩いて気になったお店に入っていくことになった。

 こういう所での買い物だとやはり女子の方がテンションが上がるらしく、エリカとサユリも仲良く服を見ていた。俺とコウキもメンズ服を見る。

 こうしていると、サユリとファッションについて勉強して、買い物に来ていたことを思い出す。あの頃はまだ流行にも敏感だった。それに比べて今はシンプルな服装に収まっているためトレンドがわからない。

 コウキは流行にも強いので教えてもらいながら店を回る。「最近だとこれが流行りなのか」と感心していると、「ちょっと来て」と呼ばれる。

 連れてこられたのは、試着室の前だった。どうやら気に入ったが服があるらしく、男目線の意見が欲しいようだ。そこにはエリカもいる。


 少し待った後、試着室のカーテンがシャーッと開いた。


「これなんだけど…。どうかな?」


 サユリが着ていたのは、透け感のある白いシャツだ。聞くところによるとシアー素材というらしい。


「おーいいじゃんいいじゃん!めっちゃ似合ってる!」


 隣でコウキがすぐに褒める。こういう所もコウキがモテるポイントだ。

 「あっそ」と意外と淡白な反応のサユリ。

 さて、俺はなんて言おうか。


「似合ってる。見た感じ、涼し気で夏っぽい。透けて見える肌は派手過ぎず、上品な色っぽさを感じる」


「え?」


「あ…」


 伝え方を考えていたら自然と口から出てしまった。多分変なことは言ってないはずだが……。


「ちょ、すごい細かく言うじゃない!…でもそっか、似合ってる…か。エヘへ…。そうよね。良い感じよね」


 とりあえず喜んでもらえたようなので良かった。

 はしゃぐサユリの横から視線を感じたので見てみると今度はエリカがカーテンから顔を覗かせる。

 「変かもしれないけど……」とゆっくりカーテンを開く。


「どう…かしら?」


 エリカが来ているのはベージュのセットアップだ。上は半袖で裾の方がヒラヒラしている。下はスラッとしたデザインで、七分の辺りまで伸びている。


「おおー!すげー似合ってるよ!超かわいい!」


 またもコウキが1番に感想を述べる。

 「あっそ」とこちらも淡白な反応。サユリも前に言っていたが、コウキの言動は軽く思われているのだろうか。そのせいで褒め言葉も素直に受け取ってもらえないみたい。コウキは心から言ってるはずなんだがな…。


「エツジ君は…どうかしら?」


 うーん。


「すごい良いと思う。いつにも増して大人っぽく見える。俺の中でセットアップは着る人を選ぶと思ってたんだが、ここまで着こなせるエリカはさすがだな」


「へ?」


「あ…」


 また声に出してしまっていた。

 これは癖のようなものだ。中学でサユリと服を選んでいた時、意見交換をする為に思っていることをお互い言うようにしていた。その感覚が今も残っていた。久々に誰かと買い物にきたので、今まで自覚はなかった。


「あ、ありがと…。とても嬉しいわ」


「ちょっと!なんかエリカだけ褒めすぎじゃない?」


「しょうがないわよ。エツジ君が思っていることなのだから」


「大差はないだろ。それより他の人もいるんだから早く着替えなおせよ」


 俺とコウキは再び自分たちの服を見に行く。

 その時、俺たちはこんな会話をしていた。


「エツジは彼女つくらないの?」


「は?いきなりなんだよ」


「いや、さっきの様子を見てて思ったんだよな。あれだけ褒め上手ならモテそうだなって」


「なんだよそれ。皮肉か?あいにく、モテたことなんて1度もねーよ」


「本当のことだって。…モテたことない、か。そんなことないと思うんだけどなー」


「だいたいお前の方こそどうなんだ?何股してるんだ?」


「してねーよ!てか彼女すらいねーよ」


「あれ?そうなのか?何股は冗談だけど、てっきり彼女はいると思ってた」


「知らなかったのか?中学で別れてから、それっきり…って俺の話はいいんだよ!お前の話!実際どうなんだよ」


「そりゃー興味はある。けどそもそも相手がいないと話にならないだろ」


「相手がいれば、ね。サユリとかエリカはどうなんだ?」


「どうなんだって、別に…。昔からの付き合いだからあんまり意識したことないし。そもそもあの2人レベルと俺なんか釣り合うわけないだろ。ありえないな」


「……そんなことないと思うんだけどなー」


「お前の方こそどうなんだよ?サユリとエリカのことどう思ってるんだ?」


「いや俺は別に…。てかその話あいつらの前で絶対するなよ?」


「なんでだよ。お似合いだと思うけどな……」


 「この服いいな」と話題を変える。なんとなく、これ以上その話題に触れるのが嫌だった。


 サユリたちは先程の服を購入したみたいだ。合流して他の店に移動する。




 その後、様々な店舗を見て回り、俺も何着か購入した。買い物だけでなく、昼食やアイスを食べたり、広場の大道芸を観たりと、1日中満喫した。


 帰り道、歩いているとサユリが横にくる。


「楽しかったね。なんか中学の時のこと思い出したわ」


 サユリと同じように、俺も思い出していた。あの時はお互い、純粋だった。


「懐かしいな」


「今度は…その…」


「ん?」


「今度は…2人で…行きたいな」


 小さい声だったが、今回は聞き取れた。

 中学を思い出して、また意見交換したくなったのだろうか。今の俺は詳しくはないが、それでも誘ってくれるというのなら―――


「ああ、その時は、今度はサユリが俺に色々と教えてくれ」


 せっかく前向きな返答したのに、サユリは俺のいないほうに顔を向けている。もしかして社交辞令だったか?


「ま、任せなさい!めちゃめちゃかっこよくしてあげるんだから」


 本気と捉えていいのかわからない俺は、苦笑いしかできなかった。


「…私好みにね」


 最後に何か言ってエリカの方に駆けていった。聞き取れないのはいつものことだ。

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