~side 有薗コウキ~

 エリカやサユリは変わってないって言ってたけど、俺にはなんとなく違和感を感じた。線を引いているような、一歩下がっているような。表面上ではわからないけど、親友の俺には感じられた。


 部活をしている最中に他事を考えるのは集中力を欠いてしまうが、それでも考えてしまう。それほどに俺、有薗コウキにとって二宮エツジは大切な存在である。






 俺とエツジが初めて会ったのが小学3年の時。親の都合で引っ越してきた俺には友達などいなかった。内気な俺は自分から声をかけることができずに、みんなが遊んでいる光景を端の方でただ眺めていた。雑ざりたいのに何もできない自分がもどかしくて、嫌いだった。

 そんな時、手を差し伸べてくれたのがエツジだった。


『一緒に遊ぼ』


 この一言がどれだけ嬉しかったのか、あいつは知らないだろうな。

 それからもずっと、エツジは俺を誘ってくれた。人と喋るのが苦手な俺の間に入って、上手く盛り上げてくれた。おかげで友達もたくさんできた。

 いつもエツジに頼っていた俺は、内気な性格のことも相談した。エツジは真剣に話を聞いてくれ、当然のように助けてくれた。

 会話のコツを一緒に調べたり、それを実践してみたり、ユーモアを身に着ける為にお笑いの動画も一緒に観たこともあった。

 その効果は着実に表れて、人との会話に苦手意識はなくなった。むしろ話すことが好きになって、小学校を卒業する頃には同学年全員と友達になっていた。それでも1番の親友はやっぱりエツジだった。


 中学に上がって、周りに人が増えた。その分、様々な人がいて、より楽しかった。それもこれもエツジのおかげだ。

 コミュニケーションが上手くいくと自分に自信が持てるようになりだす。中学に入ってから少しずつ相手から話しかけられることも多くなった。女子からは告白されることもあり、2年のときに初めて彼女ができた。

 初めての彼女に浮かれていたし、初々しいのがむずがゆくもあり、楽しかった。でもそれは最初だけで、時間が経つと寂しさを感じるようになった。ずっと仲が良かったエツジ含めた6人で過ごす時間が減ったからだ。

 中学生になってから友達はさらに増えた。それゆえに6人でいた時間がかけがえのないものだと実感した。

 友達が増えるのは嬉しいし、楽しい。だからといって6人の時間をおざなりにはしたくない。大丈夫、俺なら上手くやれる。だって根幹にはみんなと過ごした時間があるのだから。







 エツジが今、何に悩んでいるのかはわからない。もしかすると勘違いなのかもしれない。それならそれで別にいい。もし困っていたら、助けてやればいい。あの時、あいつが手を差し伸べてくれたように。

 口に出してくれなくて、教えてくれなくても、待ってればいい。

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